第214話 シュラウド達への確認
「何だ? 聞きたい事って?」
「いやな、この前、うちの村に兵士が来て勇者を連れ戻そうとしたんだけど、何か知らないかと思ってな」
「あぁ、お前んとこに勇者が居たって話はしたぞ」
「兵士が来たのはそれでなのか?」
「遅かれ早かれ兵士は行っていたと思うぞ。
前の魔王がお前の所に居て、それを討伐しに勇者は向かって行ったんだ。
そして、魔王が代わったって言うのに、勇者からは何の連絡もない。
最後に向かったのがお前の所だから、俺が言わなくてもお前の所に行くしかないだろ?」
「そう言われればそうだな。
最後に向かったのはうちの村だしな」
「それで、勇者は帰って行ったのか?」
「いや、うちの村に残っているよ」
「それで、何ともないのか?」
「今の所は何もないが、今後も何もないとは言えないな」
「勇者を連れ戻しに来るかもしれないって事?」
セトに、今の一番の懸念事項を当てられた。
「そうだな、王国としては勇者を手元に置いておきたいだろうしな」
例え弱い勇者であろうとも、勇者は勇者だ。
今の王国が隣の国と領土を争っていられるのも、勇者が居る国であると言うのが大きいと聞いたことがある。
その辺のからくりは良く知らないが、とにかくそう言う事らしい。
そして、その勇者は王国の庇護を離れた所に居る。
魔王討伐の大義名分があるのならば、それを邪魔することはできないが、魔王が代わったと言うのに勇者は討伐に向かっていない。
隣の国にこのことが知れた場合、勇者を奪い取るチャンスにしか見えない。
王国とすれば、このことは最悪の事態でしかないのだから、勇者を確保し、新たな魔王討伐へと向かわせる必要がある。
「でも、それだけじゃないと思うよ」
「どういう事だ? セト」
「シュラウドは、村として報告したんだよね」
「あぁ、そうだ」
「という事は、新たな領土に成り得るって事だよ。
今までは木ばかりで手の付けられなかった土地に、価値が生まれたんだ。
何処の国の物になるのかは早い者勝ちだ。
少ないかもしれないけど、税収だって上がるだろうし」
「なんで、うちの村が王国に税を納めないといけないんだ?」
「国が村を守る代わりに税を納めるって事だよ」
「うちの村は自分達で守るから、国に守って貰う必要なんてないぞ」
「それが嫌なら、独立するしかないよ。
『うちの村は何処の国にも属しません』って。
その代わり、全ての国が敵になるよ」
「今まで放っておかれていたんだから、放っておいて欲しいんだがな」
「ノア達がそう思っていても、周りはそう思わないって事さ」
セトは冒険者で共に活動していた時から、頭が良いなとは思っていたが……
セトに村の運営などについて、今後もアドバイスして欲しくなったので、口から声が出かかったが止めておいた。
まず第一に、十分な報酬が支払って行けるか分からない。
ストレージには、まだ此処の領主から得られた金貨や、装備を売った金貨もあるが、何時までもある訳ではない。
うちの村は、云わば世捨て人が集まったような村だ。
近くに村が無いという事もあり、報酬としての金貨はそれ程意味を持っていない。
そんな状況にセトが喜んできてくれるかと言うと、難しいと思う。
次に、セトは宮廷魔術師を目指している。
冒険者として活動しているのは、あくまでその踏み台に過ぎない。
最初から城勤めをして下働きの末、宮廷魔導士となる方法もあるが、上司の目に留まるとは限らない。
それよりは冒険者として活躍し、引き抜いてもらう方が手っ取り早い。
今、シュラウド達のパーティはAランクに上がったようだし、もう少し頑張れば引き抜きの対象となることも考えられる。
そんな状態で、『こっちに来てくれ』と言われたって、首を縦に振ることは無いだろう。




