第207話 勇者の決断
しばらくして、4人程、森の中を抜け出て来た。
「彼は我々の仲間だ。
此方からは何もしないので、彼を解放してやって欲しい」
「解放する前に、色々と確認したいことがあるのだが良いか?」
「何だろうか?」
「お前さんが、その部隊の部隊長って事で良いだろうか?」
「あぁ、その通りだ」
「部隊という割には人数が少ないようだが?」
「この森を抜けるには、少人数の方が良いと判断したまでだ」
「そうか」
「勇者へは直接、王のお言葉を伝えたい。
勇者はこちらへ来て欲しい」
「男数人で女を取り囲む形になるのは、承諾し難いな。
この場では伝えられない事もあるだろうから、場を設けよう」
「感謝する。
彼も解放してやってくれないか?」
「分かった」
ザイードの紐を斬り、顎で行っても良いと指示した。
「じゃあ、ちょっと狭いが、この小部屋の中で勇者と話してくれ。
部屋に男と嫁入り前の娘が2人きりで居るのは不味いだろうから、ヴィーヴルが立ち合って貰えないか?」
「分かったのじゃ」
「配慮、感謝する」
部隊長とアルル、ヴィーヴルは小部屋の中へと入って行った。
俺は壁に寄り掛かりながら、話が終わるのを待つことにした。
それから暫くして、小部屋のドアが開き、部隊長、アルル、ヴィーヴルの順で出て来た。
部隊長はそのまま部隊員が待っている場所まで移動して、此方へと向き直った。
「それでは、先ほどの返答を王へとお伝えいたします。
本当によろしいのですね?」
「私の気持ちは変わらないわ」
「分かりました。
それでは失礼します」
そう言い残し、再び森の中へと消えて行った。
「アルルもヴィーヴルも、ご苦労様」
「あれで、本当に良かったの?」
「大丈夫なのじゃ。
きっとノアも同じようなことを言った筈なのじゃ」
「うん? 何かあったのか?」
「さっきの王様からの伝令? と言うか命令かな? 王様からだから勅命になるのか……まぁ、どれでもいいや。
その命令だけど、一旦、派遣した人達と一緒に城へと帰還し、その後新しい魔王討伐に向かえってことだったの」
「あいつらはもう帰ったぞ?」
「うん、私が断ったから。
新しい魔王の討伐をするしないは、王様の命令や要請じゃなくて、私が決めるって伝えたの。
いけなかった?」
「いいや構わないが、アルルはそれで良いのか?」
「うん、ヴィーヴルさんにも自分の考えの通りにすれば良い、って言ってくれたから」
「それなら良いけど、王国がこのまま引き下がるとは思えないな。
次は本格的に軍を差し向けて来るかも知れない」
「どうして?」
「王の命令に反したから、顔に泥を塗られた形になったろ。
王としての誇りを傷つけた格好になったからな」
「王様だけでは決められないでしょ?」
「あぁ、王だけでは決められないが、大義名分を立てれば良い。
『捕えられた勇者を救い出す』とか言えば十分だろ」
「うそっ……そうなったら、村の皆に迷惑が掛かっちゃう……今からでも追いかけた方が良い?」
「いや、アルルはこのまま村に居て良いし、そんな事は気にする必要はない。
攻めてきたら対抗するだけだ」
大勢でこの森を抜けてくるのは困難だろう。
此処に来てもこの壁があるから、更に攻め難い筈だ。
魔族は空を飛べるから厄介だが、対人間の戦いならば防御は十分だ。
「その時には、ヴィーヴルにも手伝って貰うかも知れないが、良いだろうか?」
「分かったのじゃ。
此処での暮らしを続けたいのじゃ」
「ノアさん、ヴィーヴルさん、ありがとう」
「村民を守るためだからな。
礼には及ばんさ」




