第202話 露店からの申し出
今日は、ドワーフの街へ買い出しにやって来た。
店を開ける日ではないから、朝から街へとやって来られたので、市場には露店も軒を並べている。
「今日は、どんな果物を買うのじゃ?」
ヴィーヴルは今日も付いてきている。
困るような事を言ったりしないから、全く問題ない。
「それは、行ってみないと分からないな」
いつもの、果物を並べている露店の前へとやって来た。
「あら、いらっしゃい。
5日前には来なかったから、どうしたのかと思っちゃったわよ」
「えっとな、今度、他の所で店を開くことになったんで、大体、10日に1度くらいしか来られなくなったんだ」
「あら、そうなの? あなた達は新作があれば買って行ってくれるから、それに合わせて用意していたんだけどね」
「済まない。
5日毎に街には来ているんだが、店を開けた日は、昼飯を食べた後にしか来られないんだ」
「そう、それじゃあ仕方がないわね。
所で、今日は何を買っていくの?」
「買う事は前提なんだな。
まぁ、買っていくけどな」
露店の女店主と笑いあった。
「さっきも少し言っていた、今日は新作は無いのか?」
「勿論、用意してあるわよ。
今日も来なかったら、取っておくのは止めようと思っていたんだけどね」
そう言って、棚の下から緑色をした球状の物を取り出した。
よく見てみると、黒い縦縞が見える。
スイカで間違いないだろうが、これはちょっと小さい感じがする。
「このスイカはね、他のスイカより早く収穫できる品種なの。
大きさは他のと比べると小さいけど、他のより甘いの」
「この時期にスイカがみられるとはな」
「ノアよ、このスイカとやらは美味いのか?」
「あぁ、これは川なんかに入れて、水で冷やして食べるんだ。
暑い日に食べると、最高に美味いぞ」
「では、買うのじゃ」
「あぁ、そうだな」
「毎度ありがとうね。
あと3個ほど取っておいてあるけど、どうする?」
「どうするも何も、端っから売るつもりだろ? 全部買うよ」
「そう言うと思っていたわ。
じゃあ、持ちやすい様に紐で括るから、ちょっと待ってね」
女店主は、スイカを紐で括り始めた。
「ノアよ、あのスイカは小さいと言っておったのじゃ。
普通のスイカとは、どの位の大きさなのじゃ?」
「そうだな……」
スイカの大きさと同じようなものが無いか探してみたが、見つけることが出来なかった。
「今、此処には見当たらないから、時期が来るまでお預けだな」
「普通のスイカなら、貴女の旦那さんの顔より大きいわよ」
「これより大きいのじゃ?」
「おいおい、俺とヴィーヴルは夫婦じゃないぞ」
「あら? そうなの? 御免なさいね。
てっきり、そうなのかと思っていたわ。
それより、今後は5日毎に来られなくなるって言っていたわよね?」
「あぁ、そうだが」
「あなたのお店って、此処から近いの?」
「そうだな……街外れにドノバンって鍛冶が居たのは知っているかな?」
「う~ん、知らないわね」
「裏門から出て、道なりに歩いて行けば着くんだけど、歩いて30分ぐらいかな?」
「そうなの……あなた達のお店に行っても良いかしら?」
「良いけど、うちの店では武器とかを売っているから、必要そうなものなど無いと思うぞ」
「いいえ、私があなたの店で買う訳じゃない、あなたの店であなたが私の物を買うのよ」
「どういう事だ?」
「あなたが来られないのなら、私がそこまで行って、売ってあげるという事よ」
「そうなれば有難いが、良いのか?」
「今までの話だと、10日に1度、次の5日後ってことでしょ? 手間だけど、それ位は良いわよ。
ただし、条件があるけど」
「条件ってなんだ?」
「そちらに行って売ることは、内緒にして欲しいの。
市場の者は、それ以外の場所で売っちゃいけないのよ」
「分かった。
でも、10日に1度、帰る方向が違って、他の人達に怪しまれないか?」
「それは大丈夫よ。
友達の家に寄って行くとでも言えば良いだけだから」
「そちらが大丈夫なら、此方が断る理由は無い。
手間を掛けさせるが、世話になるよ」
「いいえ、こちらこそお得意様に逃げられなくて済むから、有難いわ。
それで、他に必要な物は無いかしら?」
「そうだな、そこのアプリコットも全部貰おうか。
あとは……」
10日に1度、店の前まで果物屋が来てくれることとなった。
村では果物と酒の消費が多いから、これは非常に有難い申し出だ。




