第197話 出張牧場
「ノアさん、来て早々なんだけど、村の方に牧場を持ってこない?」
今日の夕食&歓迎パーティの席で、セラに突然言われた。
「出来れば、1から順に話して貰えないかな? どう言う事だか話が全く見えないのだが」
「そうね……まず、私とイルデで荷物の片づけをしていた時の事なんだけど」
「えぇ、最初はあれからの事を話していたのよ」
「そして此処の事になって、オーガの子供達と一緒に、羊たちの世話をすることになったという話になったのよ」
「あぁ、経験者が付いていると言うのは心強いからな」
「それは良いのだけど、オーガの子供達の服が破けていることが多くなってきたと言う話になったのよ。
そして、その原因は水汲みにあるって事が分かったのよ」
「水汲みで? どうしてだ?」
「水を運んでいる時に、躓いて転んでしまうらしいの」
「道はきちんと平らにしたはずだけど……」
「それでも、子供にとって物を運ぶのは大変なのよ。
ましてや両手が塞がっているから、まともに歩けないわ」
平らならば大丈夫だろうと思っていたが、そうではないらしい。
どうしても、俺の目線からしか考えが及んでいなかったようだ。
「そうか……なら、水路を牧場の方に引こうか?」
「それでも良いけど、今やって直ぐに出来るわけではないでしょ?」
「2~3日あれば出来ると思うぞ」
「あら、そうなの? じゃあ、それはお願いするわね。
でも、村の方に牧場を持ってきたい理由は他にもあるのよ」
「どうしてだろうか?」
「開拓を進めているみたいだけど、開拓した後の草刈りに羊達を使った方が良いと思うの」
「羊達に草を食べさせるってことか?」
「羊が草を食べた後はそこに草が生えにくくなるの」
「そうなのか?」
「えぇ、羊が草の根まで食べちゃうからなんだけど、開拓地ならその方が都合が良いでしょ」
「まぁ、そうだな」
「それに、水を運ぶとしても、開拓した所にも水場は作るのよね?」
「あぁ、作った方が色々と都合が良いだろうしな」
「それなら、そのまま羊達の水場としても使えるでしょ?」
「そうだな……確かにその方が都合が良いか」
「牧場は羊達の寝る場所としておいて、朝は羊達を村へ連れて来て夜には帰すだけでも、良いことばかりだと思うのよ。
子供達も羊の移動のさせ方を覚えられるし」
「うん、それで良いと思う」
「じゃあ、明日から早速開拓した場所へ移動させるから、一緒に来てもらえるかしら?」
「分かった」
「来て早々、意見をして御免なさいね。
でも、こうした方が良いかと思ったの」
「いや、謝る必要はない。
来て早々だろうが、こうした方が良いと思ったことはどんどん言ってくれ。
それが皆の為になる事なら実現していけば良いんだから」
「では、晩酌の酒の量を増やすのだ」
「それは、勘弁してくれ。
ドワーフの街から持ってこられる量にも、限界があるからな」
「ストレージを2つ持っていけば良かろう?」
「お前達の満足する量に合わせていたら、いくらあっても足りないだろ。
酒は嗜む程度が一番良いんだよ」
「ふ~む、例えばじゃが、魔王領の酒とドワーフの酒を混ぜてみたら、量を増やせるかもしれん……試してみるか?」
「味がかなり落ちるんじゃないか?」
「ぎりぎり許せる範囲内を探ってみるのじゃよ」
「そうまでして飲みたいのか?」
「そう言うものじゃよ」
「そう言うものなのだよ」
そこまで言われると、これ以上は気が引ける。
俺に魔王領の酒を買って来いとは言わんだろう……言わないよな? そこまでお人好しじゃないぞ、俺は。




