第192話 初めてのお客様は招かれざる客(2)
「それで、まず、お前は何者なんだ?」
「私? 名乗るのなら、先ずは自分からでしょ」
「得体の知れない者に名乗る名はないぞ」
「そうなの? まぁ良いわ。
私はカレンよ。
今はソロで活動しているわ」
「斥候がソロで活動しているのか?」
「私は盗賊よ。
盗賊なら、ソロでも不思議はないでしょ?」
「そうか。
それで、どうして此処に来た? 盗みにでも入るつもりだったのか?」
「盗みに入るつもりなら、店先に現れたりしないわよ。
偵察よ、て・い・さ・つ」
「こんな店の偵察なんか、する意味ないだろ?」
「あら、昨日まで誰もいなかった家に、突然、人が現れて店を始めたら、どういう事かと確認しないといけないじゃない」
「どうして、昨日まで誰もいなかった事を知っているんだ?」
「そりゃ、当たり前だろ。
毎日、私は此処へ偵察しに来ていたんだから」
「毎日なのか?」
「そ、始めたのはちょっと前だけどね。
此処の家の主が居なくなった後からだけどね」
「家の前の主を知っているのか?」
「そりゃ勿論、知っているわよ。
最近出たミスリル武器を作った人なんだから」
「なんで、此処を偵察していたんだ?」
「此処に住んでいた人が街へ全然来なくなったから、行方を追う為よ。
手掛かりは此処しかないしね」
「何で、お前が行方を探っていたんだ?」
「行方を追っていたのは私じゃないわ、領主様よ」
「領主様が?」
「ミスリルの武器を作れる職人を逃したくなかったんじゃないの? そんな感じの事を言っていたわ」
「ミスリルはもう無いって伝えたんだけどな」
「でも、またミスリルが見つかった時には、持ち込まれるとしたら此処でしょ。
それなら、手元に置いておきたくなるでしょ」
「そうだな……つまり、カレンは領主の命令でこの家を見張り、この家の主の行方を追っていたって事だな」
「そうね。
そしたらあなた達がいつの間にか此処に店を開いていたから、どう言う事かと思って偵察に来たのよ」
「そうか、分かった」
「私は洗いざらい話したわよ。
これで良いかしら?」
「あぁ、そうだな。
それで、カレンの処遇だが……」
「私の口を塞いだら、領主が怪しむわよ」
「殺したりしないから、安心してくれ」
領主としては、送ったはずの偵察が帰って来なかったら、新しい偵察を送るか、警護兵を差し向けてくるだろう。
カレンは無事で帰らせるしかない。
「良し、分かった。
カレンは領主の所へ行って、新しい店が開いていたと言ってくれれば良い。
店の名前は『ドノバン工房』だ。
ドノバンとは、この家の前の主だ。
ドノバンは良い素材を求めて、他の所へ移住したんだ」
「既に移り住んでいたのね」
「あぁ、そしてその場所を言わないという条件で、俺がドノバンの物を扱う事になったんだ」
「自分の家で売れば良いでしょ?」
「俺の家はずっと田舎にあるから、全くと言って良いほどに需要が無いからな。
それよりは、此処の方がまだ良いと思ったからな」
「10日に1度しかお店を開けないのは、どうしてなの?」
「俺は此処には住みこまないで通うからだよ。
ドノバンの所から武器やら防具やらを持ってくるから、毎日は無理だしな」
「そうまでして、ドノバンとやらの作ったものを売らないといけないの?」
「まぁ、ドノバンの作ったものが良かったからな」
そう言って、カレンに短剣を見せた。
「あら、私に武器を渡しても良いのかしら?」
「それで何かできると思ったら、やってみれば良い」
「止めておくわ。
あなたに刃が届きそうも無いし、あっちの人が殺気が怖すぎて思うように動けないしね」
「それで、その短剣の感想は? 盗賊でも武器の良し悪しくらいは分かるだろ?」
「悪くは無いわね。
でも、この位なら、街でも探せば見つかると思うわよ」
「俺はさっき、何て言った? 素材を求めて移り住んだと言っただろ?」
「素材って言っても、普通の鉄じゃないの」
「そう思うのなら、お前の短剣をこいつに当ててみな」
カレンは渡した短剣を俺へと返した。
そして、自分の短剣を抜き構えると、俺に斬りつけて来た。
俺は、それを短剣で受ける。
前にシュラウドと試した時の様に、カレンの短剣の先の方は何処かへ飛んで行った。
「こういう事だ」




