第191話 初めてのお客様は招かれざる客(1)
その後、俺は壁に対して魔力を注ぎ込む練習を始めた。
壁に魔力を注ぎ込む為には、まずは壁を分解して、開いた隙間に魔力を入れるとの事なのだが……その、分解がどうにも上手く出来ない。
ヴィーヴル曰く、「物理的に分解するのではないのじゃ。
あくまで、分解するイメージなのじゃ」との事だが、どうしても物理的な分解しか思いつかず、壁に穴を開けてしまった。
とりあえずの応急処置として紙で穴を塞いでおいたが、村から板を持ってきて穴を塞いでおく必要があるだろう。
「ノア、誰か来るのじゃ」
「え? 客か?」
「分からんのじゃ。
ただ、普通の者ではないようなのじゃ」
「分かった」
それから暫くして、入り口のドアが開いた。
「あの~、此処は何のお店なのでしょうか?」
小柄な女性がドアから覗き込んだ。
「いらっしゃい。
武器や防具を扱っている店だよ」
「ちょっと見せてもらっても良いですか?」
「どうぞ、ゆっくり見て行ってくれ」
「それじゃ、お邪魔します」
ドアを大きく開け、その女性は店内へと入って来た。
見たところ普通の、いや少し小さめの女性ではあるが、取り立てておかしなところは見受けられない。
身形からして冒険者であろうか? 軽装だから斥候かなと思われる。
店内へと入り、ドアが閉められると同時に、ヴィーヴルが瞬間移動でその女性の背後へと回り込み、左腕を固めていた。
右手は女性の首元へと向けられており、動けない状態にしていた。
「そのままじゃ。
抵抗すると、首と胴が分かれることになるのじゃ」
「何ですか? どうしたんですか?」
女性は泣きそうな声で、この理不尽な状況を訴えている。
「お主は、妾からの問いに答えるだけでよいのじゃ。
お主からの問いは不要なのじゃ」
「おいおい、ヴィーヴル。
いきなりどうしたんだ?」
「この者は普通の者ではないのじゃ。
まず、お主は何者じゃ? 何故、此処へと来たのじゃ?」
「私はこの前を通りがかっただけで、お店があったから見に来ただけです」
「嘘を言っても無駄じゃ。
お主は最初から此処を目指して来ておったのじゃ。
一直線に此処へと向かい、森の中から様子を窺っておったのは分かっておるのじゃ」
「そんなことしていませんよ、あなたから何とか言ってあげてください」
「ヴィーヴル、どう言う事なんだ?」
「この者は、道から逸れて木々の間を素早く通り抜けておったのじゃ。
そしてこの場所へ着くと、木陰よりこちらの様子を窺っておったようだが、先ほど此方へと来たという事じゃ」
「という事だが、何か言う事はあるかな? まぁ、何を言われたとしても、俺はヴィーヴルを信じるけどな」
「……見張られている気配は無かったはず。
どうして分かった?」
「お主からの問いは受けぬと申したのじゃ」
ヴィーヴルは固めた腕を捻り上げた。
「さて、妾の先ほどの問いに、改めて答えてもらうのじゃ」
「答えないと言ったら?」
「お主からの問いは受けぬと申したのじゃ」
首へと向けられていた右手の先が、わずかに横へと動いた。
その動いた距離と同じく、赤いものが滲んできた。
「分かったわ。
何もかも話すから離して貰える?」
「良いのじゃ。
おかしな真似をした時は……」
「分かっているわよ。
どうやっても、あなたから逃れられそうも無いしね」
ヴィーヴルは女性から手を放し、此方へと歩いて来た。
「さて、何から話せば良いかしら?」
「ノア、尋問は任せたのじゃ」
そう言って、そのままソファへと向かい、寝転んだ。
「分かった。
じゃあ、先ずは先ほどのヴィーヴルの問いに答えてもらおう。
何者で、何処から来たんだ?」
「そうね……此処じゃなくて、他の所で二人っきりでお話ししない?」
「俺だけなら何とかできるかもと思っているのなら、諦めた方が良いぞ。
それに、あんまりヴィーヴルを怒らせない方が良い。
多分、次は無いぞ」
「どうやらその様ね。
こちらに向けられた殺気だけで、殺されてしまいそうだわ」




