第189話 アイリスの成長を思い知った
ドノバンの元の家に着き、ストレージに入れておいた装備を並べようと考えていた。
形だけでも店の体を成す必要があるだろう。
元々が普通の家だから、店として使えるものは殆ど無い。
陳列棚代わりとして、奥に置いてあったテーブルを入り口の前に引っ張り出してきた。
取り敢えずだが、武器をその上に並べて、商品として陳列されていますという形にした。
きちんとした陳列棚やカウンターは、ドノバンに頼んで作って貰おう。
武器屋では壁に武器や防具を掛けられているから、その位は俺でも作れると思う。
そうすれば、武器屋らしく見えると思う。
夜明けの頃、顔の大きさ程度の木の板に『OPEN』と書かれた方をドアにぶら下げ、営業時間が書かれた看板をドアの前に立てた。
『ドノバン工房』の開店初日だ。
普通ならば事前に開店の噂を流したり、大きな看板を人の目に付きそうな所へ掲げたりして集客を狙うだろう。
だけど、この店は普通ではない。
シュラウド達へ装備を売り渡した店であるという、証明の為だけ店だ。
この店が存在しないと、シュラウド達の装備の出所として村が探られてしまう可能性があるのだから、その意味では必要不可欠な店になる。
「おっと、これも貼っておかないとな」
『受注生産は受け付けません』と書かれた紙もドアへと貼り付ける。
「良し、これで開店した実績にはなるだろ」
後は、昼まで此処に居るだけで良い。
イルデに頼まれた畑の世話や、さっき思いついたものを作ったりしていれば時間も潰せるだろう。
その前に、まずは一休みするか。
夜が明ける前から来ていたので、朝飯を食べるのも良いだろう。
台所へ行き、肉を焼く準備を始める。
「ヴィーヴルも食うか?」
「久々にノアの料理を食べたいのじゃ」
「分かった」
俺とヴィーヴルの分の肉を串へと刺し、肉を焼き上げる。
「じゃあ、食べようか」
焼き上がった肉をヴィーヴルと頬張る。
「……素朴な味わいなのじゃ」
「まぁ、焼いただけだからな」
「……偶にはこういうのも良いのじゃ」
「偶にならな……」
「気に病む必要は無いのじゃ」
「ん? 気にしていないし、むしろ、良いことだろ?」
「どうしてなのじゃ?」
「俺の料理を食べてそう感じるって事は、普段、食べている料理が美味いって事だ。
それは、アイリスの才能を改めて実感できたって言う事だからな。
問題があるとすれば、俺達がアイリスを手放せなくなるって事だな」
「どういう事なのじゃ?」
「アイリスが居なくなったら、毎日、俺のレベルの食事になるんだぞ。
耐えられるか?」
「正直なところ、それは難しいのじゃ」
「一度上がった味覚のレベルを、簡単には下げられないからな」
「アイリスがずっと居れば良いのじゃ」
「それは無理だろ。
アイリスもいつかは死ぬんだし、『色んな料理を知りたい』とか言って村を出ていくかも知れないだろ?」
「村から出さなければ良いのじゃ」
「アイリスが旅に出たいと言うのなら、俺達には止める権利は無いよ。
その権利があるのは、親であるドノバンとイルデだけだ」
「どうすれば良いのじゃ?」
「今の俺達に、出来ることは何もないと思う。
その時が来たら、皆で一緒に考えれば良いだろうしな」




