第188話 ヴィーヴルのお泊り会
その日の晩、ヴィーヴルは洞窟には帰らずに、俺の部屋に泊まっていった。
泊まると言っても寝るのは俺だけで、ヴィーヴルは徹夜をする。
寝ている最中に気が緩んで、元の姿に戻ったら家が無くなってしまうからだ。
徹夜するのは大変で暇だろうから、俺が洞窟へ呼びに行くと言ったのだが頑として聞かなかった。
俺の部屋に来ても、むさ苦しいだけだと思うのだが……
少しでも暇が潰せるようにと、食堂に置いてあるストレージから残っていたイチゴとリンゴを渡した。
「それじゃ、少し寝るからな」
「分かったのじゃ。
早く寝るのじゃ」
食べ物を与えた途端に、これだ……
「分かったよ。
大人しくしているんだぞ」
俺は不貞腐れながら、ベッドで横になった。
土で作ったベッドの硬さが、一層、身に染みた。
そして、まだ夜明け前に何者かの気配によって目が覚めた。
目の前には、ヴィーヴルの顔があった。
「何だ? 何かあったのか?」
思わず飛び起きたが、ヴィーヴルは微動だにせず、微笑んでいた。
「大したことではないのじゃ。
ノアの寝言が面白くて、聞き入っていたのじゃ」
「俺、寝言なんて言っていたのか? 何を言っていたんだ?」
「聞きたいのじゃ? どうしても聞きたいと言うのならば、教えるのじゃ」
先ほどとは違い、意味ありげな含み笑いになっている。
聞かない方が身の為なのか?
「怖いから止めておくよ。
それより、このまま出発しようと思うのだが、良いか?」
「残念なのじゃ。
まぁ、また今度にでも話すのじゃ」
「分かった、分かった。
とりあえず、手を出してくれ」
「ノアは妾から手を出せと言うのじゃ? 手を出すのはノアの方ではないのじゃ?」
「何の話をしているんだ? ドノバンの家まで移動するから手を出して欲しいだけなのだが?」
「あ、あぁ、そうなのじゃ」
ヴィーヴルから差し出された手を取ると、瞬間移動の準備を開始する。
……したのだが、ドノバンの家方向の目印を、上手く探しだすことが出来ない。
「……ちょっと待ってくれ。
どうも、目印が見つけられないようなんだ」
「それはきっと、この家の壁が邪魔になっておるのじゃ。
この家はノアが土魔法で作り出した物なのじゃ。
同じ性質の魔法により囲まれたことで、より遠くの物を感じるのが難しくなっておるのじゃ」
「そうか、じゃあ、外に出ようか」
「分かったのじゃ」
俺とヴィーヴルは、手を繋いだまま外へと歩み出たのだが、ヴィーヴルは丁度1歩分遅れていたので、俺がヴィーヴルを無理矢理連れだしているような感じになっていた。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「大丈夫なのじゃ」
「徹夜がきつかったのなら、無理して付いてこなくても良いんだぞ。
何か新しいものがあったら、ちゃんと仕入れてくるから」
「大丈夫だと言っておるのじゃ。
早く行くのじゃ」
「急に怒り出して、何なんだよ、全く……」
何度かの瞬間移動を行って、元のドノバンの家へと到着した。




