第181話 村での一悶着
村への帰路では、セトが珍しそうに道を踏みしめながら歩いていた。
「どうした、セト。
何か珍しい物でもあったのか?」
見かねてセトに聞いてみた。
「いや、この道も土魔法で出来ているなと思ったんだよ。
土魔法で道を作ると、こんなに歩きやすいんだなって」
普通は土魔法で壁を作って、攻撃を防ぐのに使用する。
地面に敷こうなんて考える事はない。
「そういえば、ノアの家もその他の家も土で出来ていたけど、あれも土魔法だったの?」
あの頃は今ほど魔力が安定せず、未熟だったからこれほど綺麗にできなかった。
今なら、もっと綺麗に作り直せるだろう。
「あぁ、そうだな」
「という事は、あの家はノアが作ったのかな? この道ほどには綺麗にできていなかったし、他に魔法を使える人はいないだろ?」
ヴィーヴルも使えるけど、それを言ってしまうと厄介なことにる予感がする。
土魔法で家を作ったのは俺だから、使えると言った方がまだましかも知れない。
それにしても、酷い誘導尋問だな。
引っ掛かった俺も俺だが……
「あることが切っ掛けで、魔法を使えるようになったんだ。
そのあることは言えないけどな」
「どうして言えないの?」
「命に関わることだからな」
「他の誰にも言わないよ?」
「他人に伝えた時点で分かってしまうから、言えないんだ」
「どうしても言えないんだ?」
「あぁ、命を投げ打つつもりはないからな」
「そうか、残念だな。
魔力を持っていなかった者が、どうやって魔力を持てたのか知りたかったんだけどね」
「まぁ、諦めてくれ」
シュラウド、ルーク、ガイルもこちらに聞き耳を立てていたが、俺が頑として言わないことが分かると何事もなかったかのように歩いていた。
魔法が使えるようになるのなら、それに越したことはないから当然だろう。
「魔法が使えるのなら、また冒険者になってパーティに戻らないか? 歓迎するぞ」
「いや、俺はもう冒険者をするつもりはない。
此処には他の皆も居るから、此処での生活を守っていかないといけない。
俺にとっては、冒険者として生活するより、此処での生活の方が大切だからな」
シュラウドからパーティへ再び勧誘されるとは思っていなかった。
追放されたことに、遺恨は全くない。
あの時の俺では、付いていけなくなるのも時間の問題だったから、その判断を間違ったとは思わない。
魔法を手に入れたから勧誘したことも、パーティの強化という事では当然だろう。
そういう対応をされたところで、調子が良いとは思えない。
そうして歩いていると、村へと到着した。
その時、畑仕事を終えて、水浴びをしたアン達が食堂へと通りかかっていた。
「ちょっと待て。
こんな所にゴブリンが入り込んでいやがるぞ」
シュラウド達は直ぐに戦闘態勢へと入った。
剣を向けられたアン達は、その場で硬直していた。
「ちょっと待ってくれ、あのゴブリン達は村民なんだ。
攻撃しないでくれ」
身体を反転させて、シュラウド達の前を塞ぐように手を広げて立った。
「どういう事だ? 説明してくれ」
「あのゴブリン達には、村民としてここで生活をしているんだ。
畑の仕事をやって貰っているんだ」
「よく見ると、ゴブリン達が持っているのは鍬や鎌だね」
ルークがゴブリンの手元を説明してくれた。
「こっちに畑があるんだけど、今日の作業を終えて帰って来たところだったんだよ」
「ゴブリン達に畑作業が出来るのか?」
「やり方を教えたんだ」
「どうやって教えたんだ?」
「さっき、ある事があって魔法を使えるようになったって言っただろ? その時に、魔物と意思の疎通が出来るようになったんだ」
「本当なのか?」
「あぁ、本当だ。
どうすれば、信じてもらえるかな?」
「そうだな……」
「とりあえず、ゴブリン達を食堂に行かせても良いか? 晩飯を食べに行くところだったから、お腹が空いていると思うから」
「晩飯を与えているのか?」
「村民で、働いてもらっているのだから当然だろ?」
俺はアン達の方へ向き直り、食堂で晩飯を食べてくる様に言った。
すると、「農機具をそこへ置きたいのですが、そちらの方々に襲われないでしょうか?」と聞かれた。
シュラウド達に、「そこに農機具を置きたいらしいから、こっちの方へ避けてくれ」と伝えると、シュラウド達は避けてくれた。
それを見てアン達が農機具を置いていき、そのまま食堂へと姿を消した。
「本当に、農機具を置いてあそこに行ったな……」とシュラウド。
「これは、言葉が通じているとしか思えませんね」とはセト。
「こんなゴブリン初めて見たよ」とはルーク。
「ゴブリンだけではなく、子供とはいえオーガもいたぞ」とガイル。
どうやら、言葉が通じると言うのは信じてもらえたようだ。
「今はまだ、ゴブリンと子供が食事をする時間だから、俺の部屋にでも行こう。
前の魔王には、また晩酌で一緒になるから、その時にでも話せば良いだろ?」
「あぁ、分かった。
案内してくれ」
「妾もノアの部屋へ行くのじゃ」
「よし、こっちだ」
シュラウド達を連れて、自分の部屋へと帰って来た。
ヴィーヴルが居るのは分かるが、何故、アルルも居るんだ? この人数だと、ちょっと狭いのだが……




