第175話 セラの移住(2) 延期になる
街で買い出しをした後、セラの下へと向かう為に牧場の手前まで瞬間移動した。
本来の目的である、セラを迎えに行くためだ。
牧場へ行くと、家の中からセラが出て来た。
「こんにちわ、ノアさん。
早速で悪いんだけど、今日、そちらへ行くことは出来なくなったの」
「こんにちわ、セラ。
それで、何かあったのか?」
「詳しいことは中で話すから、取り敢えず入ってちょうだい。
それで、そちらの方はどなたかしら?」
「紹介するよ。
俺の村の村民で、ヴィーヴルだ。
そして、この人が今度村に来る予定で、ここの牧場長のセラだ。
イルデとは幼馴染だったらしい」
「ヴィーヴルなのじゃ。
よろしく頼むのじゃ」
「セラよ。
よろしくね」
俺とヴィーヴルはセラの後に続いて家の中へと入って行った。
「そちらに掛けて頂戴。
それでね、今日、そちらに行けなくなった理由なんだけど、3日ほど前に2頭の牛が喧嘩をして怪我をしちゃったのよ。
このまま私がそちらに行くと、こっちで動物の世話をする人手が足りなくなっちゃうの。
それで、牛の怪我が治るまではこっちに居ようと思うの」
「それじゃあ仕方がないよ。
セラだって、こっちがそんな時に居なくなるんじゃ、寝覚めが悪いだろうしな」
「ごめんなさいね」
「いいや、セラが謝ることは無いよ。
そういう事情なら仕方が無いと思う。
それで、どの位掛かりそうなんだ?」
「そうね、今の感じだと、あと5日位は掛かると思うわ」
「分かったよ、じゃあ、6日後にまた来ることにするよ」
「ありがとうね」
「この位、訳ないさ」
「話は変わるけど、そっちに行った子達は元気でやってるかしら?」
「牧羊犬と言うか番犬を付けたから大丈夫だと思う」
「今の時期は草と水があれば大丈夫だけど、偶には見に行ってあげてね」
「水か……足りていないかも知れないから、足を運ぶようにするよ」
セラに言われて気が付いたが、魔物や動物なんかは魔犬の子供が警戒してくれているが、水を補給するには人手が必要になる。
定期的に水が不足していないことを確認しないと、羊達が可哀そうだ。
セラが来るまででも、羊の世話を手伝ってくれるものがいないか、夕飯の時にでも聞いてみよう。
「そういえば、今回、糸車を持っていくつもりだったけど、ノアさんが持って行ってちょうだい。
羊の毛も渡すから、イルデに一足先に糸を紡いでおいてって言ってくれるかしら?」
「あぁ、分かった」
セラが指さした先には、糸車と羊毛の塊があった。
俺は椅子から立ち上がり、それらの前へと歩いて行った。
「それは何に使うのじゃ?」
「これで、この毛の塊を糸にするものだ。
毛から糸を作って、その糸で布を繋ぎ合わせたりして服を作るんだ」
「糸はこの毛玉から作るのじゃ?」
「そうだ、これで毛を撚り合わせて糸にするんだ」
「やって見せて欲しいのじゃ」
「俺には出来ないから、無理だな。
セラ、出来るか?」
「出来るけど、1度始めたら全部やるまで終わらせることが出来ないし、それに、まだ洗っただけだから直ぐに糸には出来ないわよ」
「このままじゃ駄目なのか?」
「これを櫛で梳いて1本1本の毛を真っすぐに解かないといけないの。
そうしないと、でこぼこした糸になっちゃうから」
「それじゃあ、今すぐやってみるのは無理だな」
「イルデが紡ぐところを見てみれば良いと思うわ」
「そう言う事だから、イルデに頼んで見せてもらうんだな」
「分かったのじゃ」
ストレージへ、糸車と羊毛の塊をしまい込んだ。
「そうだ、ついでにもう2頭、羊を貰って行っても良いか? セラが此方に来ても、2頭だけだと寂しすぎるだろ?」
「そうね……もう、大人の羊を売り渡すことは出来ないけど、乳離れが終わった子羊なら良いと思うわ」
「ありがとう。
前と同じ、金貨15枚で良いか?」
「えぇ、良いわよ」
ストレージの中から金貨を15枚取り出し、セラへ渡した。
「あと、一応断っておくけど、これ以上は羊を売れないわよ。
殆ど引き継ぎが終わっているから、これ以上の売り買いは難しいわ」
「分かったよ。
こっちもこれで4頭になるから、ゆっくり増やしていけば良いだろうしな」
「じゃあ、渡す子羊を選びに行きましょうか」
この後、牧場から雄と雌の子羊を2頭連れて帰るのだが、村ではこの前連れて帰って来た羊以上の歓迎を受けていた。
イルデに、牛の怪我が良くなるまでセラが来られなくなったことを伝えると、少し肩を落としていた。
ただ、糸車と羊毛の塊を手渡すと、『来るまでは、これで時間を潰しましょ』と言いながら家の中へと仕舞い込んでいた。




