第174話 セラの移住(1)
今日はセラが移住してくるかも知れない予定の日だ。
この11日間に色々なことがあった。
勇者が来たり、魔王が簒奪されたり……
今は落ち着くところに落ち着いた感じだが、これからも色んなことが起こるのだろう。
俺は、俺が出来ることをやっていくしかない。
その出来ることの一つが、移住の受け入れだ。
酪農家の移住だから、是非とも無事に終えたい。
今、村に居る羊は2頭しかいないが、ほぼ放置している。
専門家が下手に手を出すよりは、放置しておいた方が良いだろうと判断したからだ。
牧羊犬と護衛を兼ねて、付近ではアインスかツヴァイが見てくれている。
セラが来てくれたら、適切な世話をしてくれるだろう。
「それじゃ、セラを迎えに行ってくるよ」
「いってらっしゃい、よろしくね」
イルデが返してくれた。
「街へ行くのじゃ? 妾も行きたいのじゃ」
ヴィーヴルのおねだりが始まった。
「リンゴの木は大丈夫なのか?」
「そっちは大丈夫なのじゃ。
妾も連れて行くのじゃ」
「分かったよ」
ヴィーヴルも連れていくことになった。
街へ行く予定は無かったが、ついでに食料などの仕入れをしてきても良いだろう。
「妾の瞬間移動で行くのじゃ」
連れて行けと強請った以上、ばつが悪かったのだろうか、ヴィーヴルが瞬間移動の提案をしてきた。
あまり気にする必要もないのだが、ヴィーヴルの気が済むのであれば、提案に乗っておこう。
「それじゃあ、元のドノバンの家まで頼む」
ヴィーヴルと手を繋いで、瞬間移動でドノバンの家までやって来た。
さて、セラを迎えに行くのと街へ行くの、どちらを先にしようか?
一瞬考えたが、セラを街中で連れまわすのは迷惑かもしれないからと思い、先に街へ行くことに決めた。
「ヴィーヴル、先に街へ行こう」
「分かったのじゃ。
では、街へ瞬間移動するのじゃ」
「そこへは俺が使うよ。
何時も使っている所があるから」
「分かったのじゃ」
ドノバンの家から街まで、瞬間移動でやって来た。
以前は3度の瞬間移動をしないと行けなかったが、今は2度目の瞬間移動で街まで来ることができる。
瞬間移動できる距離が延びたんだなと実感できる瞬間だ。
練習を繰り返して、1度で来られるようになりたい。
そして、次は村から元のドノバンの家までの回数を減らしてと、少しずつ目標を高めていこう。
「さて、果物を見に行くか」
ヴィーヴルの目当てはこれだろうからな。
「いらっしゃい。
あら? 今日は1人じゃないのね」
「あぁ、連れて行けって強請られてな」
「こっちとしては、そちらの方が居る方が売り上げが上がるから嬉しい限りよ」
「そう言う事は、客が居ない所で言うものじゃないのか?」
「細かいことは気にしないで。
今日はこれなんてどうかしら?」
そう言って、ある一つの果物を指さした。
「これは?」
「これはアプリコットと言って、あまり長い期間は出回らないのよ。
はい、どうぞ」
そう言って、試食用だろう実を2つくれた。
貰ったうち、1つをヴィーヴルへ渡す。
「美味しいのじゃ。
ノア、買うのじゃ」
「あぁ、そうだな。
じゃあ2山分、貰おうか」
「いや、3山買うのじゃ」
「彼女はこう言っているようだけど?」
「分かったよ、3山頼む」
「毎度ありがとうね。
他には何か要るかしら?」
「そうだな……そこのブルーベリーも1山貰えるか?」
「はいよ、ちょっと待っててね」
ヴィーヴルに試食させると売れるという図式が出来上がっているようだ。
美味いから問題ないのだが……