第162話 勇者の様子
翌朝、ルシフェルとベルゼバブは魔王領へと帰って行った。
見送った後、食堂で朝食を食べ、アルルと共に門前へと瞬間移動で移動した。
「ねぇ、ノアさん。
勇者は人間だけの勇者じゃいけないのかな?」
今日は朝から元気がなかった。
体調が悪いのかと聞いても、そんなことは無いから大丈夫だとしか答えなかった。
思うに、昨日の話で思い悩んでいたのだろう。
「俺は勇者というのは、人間だけじゃない皆の勇者で希望の光だと思っている。
偶々、人間からしか出てこないが、人間や亜人、動物、魔物の希望であって欲しいと思う。
アルルにしてみれば『そんな大層な役割は御免だ』と思うかもしれない。
けど、それは勇者である者の宿命だと思う」
「私は勇者であることを誇りに思っているから、大丈夫だよ」
「前魔王までの時は、魔人対魔人以外で 魔人が魔人以外の者を迫害していた。
それを先導していたのが魔王だから、魔王を倒せば平和になると言う、分かりやすい構図だった。
でも今は、魔王が平和へと導こうとをしているのだから、勇者は協力しても良いんじゃないか?」
「魔王へ協力する……」
「勇者の仕事は世の中を平和にすることだろ? ただ、協力した相手が魔王だったと言うだけだ。
あそこに居るのは、平和を望む魔族のルシフェルだよ」
「そんなことして、人間の皆に恨まれないかな?」
「誰が勇者であるアルルを非難するんだ? アルルも皆も平和を望んでいるんだろ? その中に魔王は入っちゃいけないのか?」
「そんなことは無いと思う」
「もし、ルシフェルが平和を乱すような行動を取ったら、その時は思う存分戦えばいいさ。
俺や村の住民に対して被害が及ぶ可能性があるのなら、ルシフェルだろうと全力で抵抗するさ」
「今の人間の戦争には関わらないのは、村に被害がないからなの?」
「それもあるが、戦争はどちらも正しいと思ってやっているからな。
事情を知らない者が口を出すと話が混乱する一方だから、こちらとしては放っておく。
村のルールとしても無関係を通すって決めたしな」
「他の皆が同盟を結んで此処へ攻めてきたら、守れないよ」
「そうだな。
出来る限りの抵抗はするが、いよいよとなれば逃げるだけだ。
此処にいる理由も、ヴィーヴルが隠れ住んでいたからという事でしかない。
此処でないといけない理由は、何もないからな」
「分かったよ。
色々話してくれてありがとう」
「アルルの考えを纏めることの助けになるなら構わない。
じゃあ、門番の方もよろしくな」
「うん、任せてよ。
剣の修練も出来るから、良い仕事だと思うよ」
どうやら、門番としての仕事の合間に、素振りをしたりしているようだ。
「でも、動物とかが現れないから、ちっとも経験値が稼げないんだよね」
経験値を稼ぐためには、戦うしかない。
戦えば良いので模擬戦でも経験値を得ることは出来る。
しかし、得ることができる経験値の量は、生死を掛けた戦いとでは大きく異なる。
効率的に経験値を稼ぎたいのならば、生死を掛けた戦闘で勝ち続けることだ。
「それなら、ファーティに頼んで、一緒に狩りに連れて行ってもらうか? 毎日、狩りをやっているわけではないが、その方が経験値を稼げるだろうしな」
「でも、門番の仕事が出来なくなっちゃうよ」
「ファーティも周りを警備しながら、偶に狩りをやっているんだ。
狩りの時くらい居なくても、何の問題も無いよ」
「それならお願いしようかな? 勇者として、少しずつでも強くなりたい」
「あぁ、分かったよ。
じゃあ、ファーティに伝えておくよ」
「ありがと」




