第160話 勇者との話し合い(5)
「それで、村を見ての感想はどうだった?」
「人間の村と一緒だね。
ゴブリンが仕事をしているとは思わなかったよ」
「魔王の事はどうだ?」
「何時もあんな感じなら、大変そうだなぁとは思ったよ」
今日は、アルルと一緒に村の様子を見て歩いた。
ゴブリン達が畑の作業をしている様子や、ドノバン達が鍛冶をしている様子。
アイリスが台所で料理をしている様子などなど……
そうして、食堂へと帰ってきてアルルと話していた。
「この村では、人間も魔物も皆、出来ることをして生活をしているんだ。
元々は、ゴブリン達に畑の仕事を手伝ってほしくて連れて来たんだけどな」
「何故、ゴブリンだったの?」
「人間が来るようなところじゃないし、近くに居たのがゴブリンだったからな。
俺が魔物と話が出来ることは言ったろ? だから、手伝ってくれるのなら何でも良かったんだけどな」
「魔物に手伝って貰うことに抵抗は無かったの?」
「話すことが出来ないなら、手伝って貰おうとは考えなかったよ。
何時、襲われるか分からないしな。
でも、話してみると人間と何ら変わらないって思えたんだ。
そうなると、抵抗を感じる必要なんてないだろ? 人間と変わらないんだから」
「魔王はどうして此処に来たの?」
「う~ん、それなんだが、これから話すことは秘密にしてもらえないだろうか? それが出来ないのなら、話すことはできない」
「余程重要なことなの?」
「そうだな、秘密が漏れたら、此処では暮らせなくなるしな」
「分かったよ。
決して秘密は口外しないよ」
「よし、それじゃあ、付いてきてくれ。
見てもらった方が早いだろうしな」
外へ出て、ヴィーヴルが居るリンゴの木の前へとやって来た。
「あれ? ヴィーヴルさんに角が生えている? 昨日は無かったのに」
「あぁ、ヴィーヴルは人間じゃないんだ」
「あの角は魔族とも違うよね? 一体、何者なの?」
「ヴィーヴル、アルルに正体を言っても良いかな?」
「他の人間に口外せぬのなら良いのじゃ」
「それなら、言質は取ったから大丈夫だ。
ヴィーヴルはドラゴンなんだよ」
「ドラゴンって、あのドラゴン?」
「他にどんなドラゴンが居るか知らないけど、多分、思っている通りのドラゴンだ」
「ドラゴンは滅亡したって聞いていたけど?」
「あぁ、隠れ住んでいたそうだ」
「人前に出ると、討伐されてしまうかも知れんのじゃ」
「ドラゴンなら、人間なんて恐れる必要ないよね?」
「個々の人間ならそうなのじゃ。
ただ、集団となった人間には油断がならぬのじゃ。
そのようにして、幾多の同胞が討伐されてしまったのじゃ」
「昨日も言ったろ、人間は共通の敵がいると団結して立ち向かうと。
人間がドラゴンにしたことをとやかく言うつもりはない。
人間の方にも被害はあったと思うし、云わば狩りみたいなものだ」
「それなら、放っておけば良かったんじゃないの?」
「俺が此処に来る前に、ヴィーヴルと一人で出くわしたんだ。
俺一人じゃ、どう足掻いてもヴィーヴルには勝てない。
でも、そこで、俺にヴィーヴルへ攻めてくる敵の攻撃を防ぐ盾になれと言われたんだ。
その時の俺に、ヴィーヴルの提案を拒否する権利は無いからな。
拒否したら、その場で殺されていただろうし。
そして、盾となるために、此処に移住してきたんだ」
「ノアさんが此処に来た理由も、そして、秘密にしている理由も分かったよ。
でも、何故、魔王が此処に居るの? ヴィーヴルさんがドラゴンであることと繋がらないんだけど?」
「名目上はヴィーヴルの監視という事で此処に来たことになっているな」
「本音は城に居たくないのじゃ」
「あぁ、監視だけなら魔王が出てくる必要はないものな。
これで、村の事は全部話したと思うが、他にまだ聞きたいことはあるか?」
「今は無いよ」
「よし、これらの事を踏まえて、アルル自身がどうするべきかを考えるんだ。
勇者だからだとか、王家からの依頼だからどかは考えない方が良い。
アルルがどうするか、どうしたいのかを考えるんだ」
「この村のルールだと、私も働かないと駄目だよね?」
「そうだな、働きながらでも考えることはできるだろ?」
「うん、でも、何をすれば良いかな? 今まで働いたことが無いから、何もできないよ」
「そうだな……例えば、門番でもやるか? 今は、誰も居ないから丁度良いかなと思う。
それに、門番ならゆっくり考える時間もあるだろ?」
「そうだね、門番をやりながら考えてみるよ」
「焦って答えを出す必要はないからな。
あと、門番だからと言って、ずっと門の前に立っている必要はないぞ。
それに、昼飯の時と晩飯の前にはこっちに帰って来いよ」
「それだと、門番が居なくなっちゃうよ」
「居なくても大丈夫だよ、ファーティも回ってくれているから」
「じゃあ、門番は要らないよね?」
「ファーティは人間と話せないからな。
門番として人間が居る方が都合が良いよ」
「ファーティさんて人間じゃないの?」
「まだ紹介していなかったか? 昨日のパーティに魔犬が居ただろ? その父親がファーティだ」
「そうなんだ」
「昨日、こっちへ向かっている人間が居るって教えてくれたのもファーティだよ」
「じゃあ、門番に行ってくるよ」
「いや、明日からで良いよ。
それに、もうすぐ昼飯だろうからな。
ファーティともきちんと顔合わせした方が良いだろ。
もうすぐ昼飯だろうから、食べた後からで良いよ」
 




