第157話 勇者との話し合い(3)
「じゃあ、行くよ」
アルルが俺の方へと飛んできた。
実際には走っているのだろうが、飛ぶという表現が当てはまるくらいに勢いよく突っ込んできた。
「こうすると、どうするのかな?」
目の前に、土魔法でちょっと大きめの箱を作った。
「え? 何これ?」
次の瞬間、アルルは土の箱に激突した。
「いった~い」
「そして、こう」
今度は、アルルを取り囲むように土の箱を作る。
「ちょっと、模擬戦だよ? 剣で戦おうよ」
「まともに戦ったら、怪我をするかもしれないだろ?」
「私は怪我したよ」
どうやら、壁に激突したときに、怪我をしたらしい。
「それは済まないな。
でも、それは避けられなかったからだろ? で、どうする? まだ続けるか?」
「このままだと何もできないから、降参するよ」
「よし、じゃあ、キャンセル」
土の箱を消した。
中から現れたアルルの鼻から血が流れていた。
「あ、鼻を打ったのか」
「いきなり土の壁が現れたから避け切れなかったんだよ。
まさか、無詠唱で魔法が使えるなんて思ってもいなかった。
でも、あれだけだと決着が着かないよね?」
アルルが、剣を納めながら言った。
「そうでもないぞ。
あの状態で、上に蓋をした状態にすれば、息が出来なくなって死んでしまうだろ? 手っ取り早く、水を中に入れても良いし。
火を使って丸焦げにしても良いしな。
模擬戦だから、閉じ込めればお仕舞いだろうと考えたけど」
「ノアさんにでさえ何もできなかったんだから、それより強い魔王と戦うのは無謀なようだね。
でも、世界の平和のためには、勇者が魔王を倒さないといけないから、もっと頑張って、魔王を倒せるようにならなくちゃ」
「その、魔王を倒したら平和になるって言うのは、本当なのか? 今の魔王を見ていると、魔王が居る方が平和な気がするんだが?」
「だって、魔王が世界に混乱と恐怖を与えているんだよ。
戦争が無くならないのも、魔王が居るからだって王様も言ってた」
「魔王から与えられた混乱って戦争の事か? 確かに、今、王国では戦争をしているけど、戦争をしている相手は魔王領か? 違うだろ。
相手は隣国の、人間が治めている国だぞ。
他にも戦争をしている国はあるけど、大抵は領土の取り合いだ。
これに魔王が絡んでいるのか? 魔王領にメリットがないぞ」
「ルシフェルは自分の仕事に手一杯で、そんな暇無いのじゃ」
「魔物や魔族が人間の生活を脅かすから、人々は安心して暮らせないよ」
「魔物だって、普通に生活しているのもいるぞ。
そして、人間がいつ来るか分からないから、安心して暮らせない」
「魔物は魔物で皆一緒だから、全部討伐しても良いよね?」
「魔物から見れば、人間は人間でしかないし、区別できない。
同じ人間なんだから、全部討伐しても問題無いよな。
人間だけが魔物を討伐したりすることが許されて、魔物からは許されないのか?」
「襲われたら殺すしかないよ」
「そうだな、襲われたら殺したりするだろう。
だけど、魔物だって襲われたら人間を殺そうとしているだけだ。
それとも、魔物は襲ってくるな、人間に黙って殺されていろとでも言うのか?」
「ノアさんはどっちの味方なの?」
「俺はどちらの味方と言う訳じゃない。
人間は正義、魔物は悪という、一方的な見方は違うと言ってるんだよ。
人間が生活しているように、魔物だって生活している。
人間が魔物を恐れているように、魔物も人間を恐れているんだよ」
「魔物が人間を恐れている?」
「全ての魔物がと言う訳ではないけどな。
それだって、人間も一緒だろ?」




