第153話 オーガの母子の移住(3)
先ほど俺に突っかかって来た警備兵が、窓からこちらを覗き込んでいた。
俺に対する警戒が、半端ではない。
「困りましたね。
此処で私が何か言いに行っても、直ぐに戻ってくるでしょうし……」
「交代の時間になるまで、このまま居るしかないか……」
「それでしたら、もうすぐお昼になるので、その時にはいなくなるでしょう」
「じゃあ、それまで、この家に留まらせてもらうよ」
多少、長居をすることになるが、仕方がない。
瞬間移動で移動してしまっても良いが、後々、面倒なことになる可能性があるのならば、少しでも避けておきたい。
「ハンナ、モーガンとアドラムに食べ物をあげても良いだろうか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「じゃあ、モーガン、アドラム、こっちへおいで」
「「なにくれるの?」」
声を揃えて、こっちへと歩いてきた。
ストレージからリンゴを2つ取り出して、それぞれに1つずつ渡した。
「「わぁ、ありがと~」」
「良いんですか? こんなものを頂いて」
「大丈夫だよ。
前にも言ったろ? 生活には、今のところ困っていないよ。
昼までやることが無いなら、あいつが居なくなるまでに、昼飯を作って食べるか」
「申し訳ないのですが、今日は昼ご飯を作る予定が無かったので、材料が何もありません」
「じゃあ、こいつを焼いて食べよう。
台所は使えるんだろ?」
今度はストレージから、肉の塊を4つ取り出した。
「子供達はリンゴを食べたから、小さい方で良いだろう。 俺達は大きい方を1つずつで良いかな?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、台所を借りるぞ」
台所へ向かい、ストレージから塩、胡椒、木の枝4本、薪を取り出した。
木の枝を肉へと刺して、塩、胡椒を振り掛け味付けをして、薪を並べて着火の準備をする。
「ファイア」
並べられた薪に、火魔法で着火する。
「すげ~、まほうだ~」
「いま、まほうつかったよね?」
モーガンとアドラムが、いつの間にか脇へと潜り込み着火の様子を見ていたようだ。
「魔法なんて、それ程珍しいものでもないだろ?」
「おーがはつかえないって、おかーさんがいってた」
「そうなのか……じゃあ、次は水魔法を使って見せようか?」
「ほんと? みせてくれるの?」
「あぁ、良いとも。
じゃあ、肉が焼き上がったら、火を消すときに水魔法で消してみようか」
「わかった~」
モーガン、アドラムと共に、肉が焼けるのを待った。
「よし、そろそろ良いだろう。
じゃあ、水魔法で消すからな」
「やって、やって~」
「は~や~く~」
その前に、肉を取って各々に配った。
「よし、ウォータ」
薪に水が掛けられ火が消えた。
「すげ~、かんたんなの~?」
「そのみず、のめるの~?」
「今は簡単に出せるけど、結構頑張ったんだぞ。
それに、飲んでも大丈夫な水だ。
上から降らせると、水浴びだって出来るぞ」
「じゃあ、こんど、みずあびしたい」
「みずあびしたいな~」
「あぁ、いいぞ。
それより、今は肉を食べてしまおう」
「たべていいの~、やった~」
「おにく♪ おにく♪」
肉を食べ始めてすぐに、例の警備兵の姿は消えていた。
もう大丈夫だろう。
「肉を食べ終えたら、移動を開始しよう。
例の警備兵がいつ戻ってくるか、分からないからな」
皆が肉を食べ終えて、窓から覗いて、近くに誰もいないことを確認すると、街の外の森の中へと瞬間移動で移動した。
ハンナはアリシアと似たような反応をした。
やはり、親子は似るのだろうか? しかし、モーガンとアドラムは興奮冷めやらぬ状態で、周辺を駆け回っている。
そんなこんなで、何度か瞬間移動を繰り返して村へと帰って来た。
これ程までに1日に瞬間移動をしたことが無かったので、本当に疲れた。