第150話 魔王様の愚痴
「ノアは、もう楽隠居するような歳なのか? 川遊びなんぞしおってからに……身体が動くうちは、少しは苦労せよ」
今日、水浴びに誘わなかったことを僻んでいるのか? 随分と俗な魔王様だな。
魔族はあまり酔わないはずだが、今日は酔っているのかもしれない。
ベルゼバブが助け舟を出してくれた。
「魔王様、魔王様の務めを果たされましたら、ご自由になさっても構われません」
「朝から晩まで働いて丁度の分を持ってこられては、自由な時間など取れなかろう」
「毎日、晩酌の時間までには終われるように調整しております。
それとも、こちらへ来た書類全てをお回ししてもよろしいでしょうか」
「そんなことをされたら、晩酌も楽しめ無くなるではないか。
明日1日、休みをくれんか?」
「明日は無理です。
明後日ならば調整致しましょう。
ただし、その後に多少の皺寄せが発生しますが、よろしいでしょうか?」
「ルシフェル、あんまり無理矢理休みを取ると、後が大変になるぞ」
「しかしな、こうも仕事詰めだとな……」
「俺が少しでも手伝えれば良いんだけどな……流石に魔族の、しかも政なんて手伝えることなんて無いと思うしな」
「気持ちだけもらっておこう。
城に居た時と比べて、書類が増えておったので、つい、愚痴が出てしまったのかもしれんな」
「それは陳情に於いて、面会による裁決から、全て書面による裁決へとなってしまった為だと思われます。
「あの装置を使えば、書面に依らずとも陳情ができるであろう?」
「こちらから繋げることは出来ますが、あちらからは繋げる事が出来ません」
「うむ……ヴィーヴル、あちらからも繋げられるように出来んか?」
「あの魔道具が手元に無いと無理なのじゃ。
まぁ、魔道具があったとしても、作ることが出来ないのじゃ」
「どうしてだ?」
「魔道具から発せられた魔力を受ける為に、ヒヒイロカネが必要なのじゃ。
もう、手元には魔力を受けられるだけのヒヒイロカネが無いのじゃ」
瞬間移動で言えば、ヒヒイロカネが移動先となる目印になるのだろう。
「他の金属じゃ駄目なのか? ミスリルやオリハルコンならあるだろ?」
「ミスリルは、魔力を吸収してしまうのじゃ。
オリハルコンは、更に魔力吸収が過ぎるので問題外なのじゃ」
「魔力を吸収するのは駄目なのか?」
「近くや途中にミスリルがあった場合、対象のミスリルではなくても魔力を吸収してしまうのじゃ。
その為、目的のミスリルへ繋ぐのに必要な魔力が魔道具では作れんのじゃ。
もし、繋ぐだけの魔力が作れたとしても、繋げた途端にそのミスリルで全ての魔力が吸収されてしまい、話すことも何も出来んのじゃ」
「ヒヒイロカネは魔力を吸収しないのか?」
「ヒヒイロカネも多少は吸収するが、ほんの僅かばかりなのじゃ。
ミスリルやオリハルコンと比べれば、誤差の範囲なのじゃ」
「ベルゼバブ、宝物庫の中にヒヒイロカネは無いのか?」
「残念ながら御座いません」
「うぅむ、残念ではあるな」
このまま、ルシフェルの仕事が減ることは無いと思い、せめてもの慰みに、ルシフェルのグラスへとワインを注いだ。
ルシフェルに『無理するな』と言ってやりたいが、政の事だから多少は無理をしてでも進めないといけないだろう。
ルシフェルの判断が遅くなった影響で、大勢の魔族が困ることになるかも知れない。
「まぁ、俺が政に口出しすることはできないししない。
だけど、ルシフェルが気晴らししたいのなら付き合ってやるよ。
勿論、ルシフェルの空いている時間でならだけどな」
魔王って、もっと高圧的に魔族を支配しているイメージしかなかったけど、ルシフェルは違う。
この様子だと、ルシフェルが病気かなんかで倒れたら、魔王領は崩壊するんじゃないか? でも、魔族が病気になることはないか。




