第148話 畑の様子(2)
(こっちの様子はどうかな?)
アン達大人が作業をしている方へとやって来た。
「アン、もう少しで植えられそうな感じだな」
『ノア様。
はい、そうですね。
どんな物を植えるのか楽しみで、作業を急いでいたかもしれません』
「急いでもイモは逃げないよ」
『次はイモ? を植えるのですか?」
あ、話の流れでつい言っちゃった。
今から、『聞かなかったことにしてくれ』って言うのも白々しいしな……
「済まない、つい言ってしまった」
『良いですよ。
それで、イモとはどういうものなのでしょう?』
「そこまで言ったら、楽しみがなくなるだろうから、当日までのお楽しみだ」
『分かりました』
「ドゥには内緒にしておいてくれよ」
『ドゥも楽しみにしていましたからね。
大丈夫ですよ、他の者には言いませんから』
「ありがとう」
話の流れに流されやすい性格をどうにかしないといけないな。
冒険者をして、幾分は改善できたと思ったのだが、まだまだのようだ。
「この感じだと、今後も畑を作るのは大丈夫そうだな」
『そうですね、手があればどんどん作っていけると思います。
ゴブリンですから、ノア様が作業されるよりは時間が掛かってしまいますが、その分は数でカバーします』
「さっきも言ったけど、急がなくても良いよ。
作り上げることが重要であって、もちろん早く出来た方が良いに決まってはいるけど、急いでできなかったら意味がない。
それに、急ぐことで無理をしないで欲しい。
ドゥにも言ったのだけど、無理をしたら、どこか他の所へ皺寄せが来ることになり、それが全体に広がることになる。
全体に広がったら、最悪、此処での生活が出来なくなるかもしれないから」
『今のところは大丈夫ですよ』
「それを聞いて安心したよ」
『新しくつれて来た者達も、此処での生活に満足しているようですし。
クマに怯え、隠れ住む必要がない、食べ物も十分にあるのですから、無理もありませんね』
「でも、代わりに働かないといけないぞ」
『その代わりに与えられる此処での生活とは、比べ様もありません。
それに……』
「それに?」
『名前まで頂きましたからね。
名前を持つことで、これ程までに『自分』と言うものを意識するとは思っていませんでした』
名前を持たない者にとっての名前とは、それ程重要な物なのだろう。
今後、名前を付けなければいけないようなことがある時には、じっくり考えるようにしなければいけない。
心のどこかで、『あって当然』と考えていたのだろう。
だけど、持たざる者にとっては、軽々しく扱ってよいものではない。
「くれぐれも、無理だけはしないでくれよ。
楽しく暮らしていくのが一番なんだからな」
『はい、お気遣いありがとうございます』
俺は、ヴィーヴルが何時もいるリンゴの木の方へと向かって歩いた。




