第144話 魔王領での移動拠点
「ノアさん、子供達と会って行って頂けませんか?」
家の場所が知りたかっただけだったので、それは丁重に断った。
そろそろ、ベルゼバブが来ていてもおかしくないだろう。
ハンナにしてみれば、より確実に移住することへの一種の保険なのかもしれない。
「次に来る時は、どうしたって皆と顔を合わせるのだから、慌てなくても良いだろう。
そちらの家族全員を受け入れるつもりだから、心配しなくても大丈夫だ。
それより、子供達へは説明してあると思うけど、最後にきちんと確認しておいてくれ。
これは、親であるハンナの責任でもあるのだからな」
「はい、分かりました。
皆、賛成しておりますが、今夜、もう一度確認します」
「あぁ、頼んだ」
そうして、俺はルトルーラ達の待つ家へと帰ってきた。
家の前には、ちょっと窓付きの箱らしきものが置かれていた。
ベルゼバブが戻ってきているのだろう。
「今戻った、遅れてしまったようだな、済まない」
「いいえ、大丈夫です。
ルトルーラ様のご用意も済んだようで御座いますので、早速、帰りましょう」
「あぁ、済まないがよろしく頼む。
序と言っては何なのだが、途中、所々で降ろしてもらえないだろうか?」
「よろしいですが、何か御座いましたでしょうか?」
「いや、瞬間移動の為の準備をしていきたいんだ」
「瞬間移動ですか?」
これも魔族は知らなかったのか。
魔力の紐や空間を引っ張り込む魔法陣なんて想像もつかないしな。
ヴィーヴルが居ない所で、教えてしまって良いのだろうか悩むが、教えてしまったとしても、ヴィーヴルは笑って許してもらえるとは思う。
だが、それに甘えるのは筋違いだとも思うので、此処では詳しく教えない方が良いだろう。
「今度、ヴィーヴルの許可が出たら教えるけど、今はその準備をしたいんだ。
3日後にまた此処へ、あの母子家庭を迎えに来る必要がある。
その時はルシフェルやベルゼバブに頼ってばかりじゃ駄目だろ? だから、俺一人で迎えに来ようと思っているんだ」
「その点については承知いたしましたが、何故、途中で降りないといけないのでしょうか?」
「俺が瞬間移動で移動できる距離に、限度があるからだよ」
「承知いたしました。
降りたい場所へと近づきましたら、お知らせください」
「手間を掛けるけど、よろしく頼む」
「その代わりと言っては何ですが、1つお願いをお聞き届け願いますでしょうか?」
「あぁ、内容によるけど俺が出来ることなら良いよ」
「その瞬間移動を、今、お見せいただきたいのです」
「あぁ、それ位なら問題ないだろう。
体験してみても構わないと思うし、やってみるか?」
「体験させてもらえるのでしたら、是非、お願いいたします」
それならと言う事で、俺とベルゼバブは家の外へと出た。
家の中へ目印は設定済みだ。
ルトルーラ達には、此処に突然俺達が現れるけど、驚かないように言い含めた。
「この辺で良いか」
裏道に入り、人通りが無いことを確認した。
「何故、このような場所へ来たのでしょうか?」
「突然、人が消えるから、周りの人がびっくりするだろ? 余計な揉め事は起こしたくないしな」
「承知いたしました」
「じゃあ、瞬間移動するから、手を出してくれ」
ベルゼバブが首を傾げている。
「自分以外も瞬間移動するためには、その物に触れていないと駄目なんだよ」
ベルゼバブが首肯して、手を出してきた。
ヴィーヴルと言い、ベルゼバブと言い、どうして女性の手というのはこんなにか細いものなのか。
ちょっと力を籠めたら、折れてしまうのではないかと思うぐらいにか細い。
実際は、俺なんかが敵う様な相手ではないと思うのだが。
ベルゼバブの手を取り、瞬間移動に必要な準備を行う。
あれから、瞬間移動を何度も使っておかげか、瞬間移動も無詠唱で発動できるようになった。
距離は然程伸びてはいないのだが……
「じゃあ、行くぞ」
目標をサーチして、魔力の紐を伸ばしてその場所を此処へと移動させると言う、一連の作業を行い移動を終了させた。
ベルゼバブは勿論、俺達が突然現れたルトルーラも目を大きく見開いて驚いているようだった。
まぁ、いくら驚くなと言っても、慣れるまでは驚くのも無理もない話だ。
ベルゼバブはその後暫くの間、顎に手をやりながら、何かを考えているようだった。
「ルトルーラ、此処を俺達の魔王領への移動拠点にしたいんだが、良いだろうか?」
「あ……、あぁ、えと、済まないね。
今、何て言ったのかよく聞き取れなかったから、もう一度言ってくれないか?」
呼ばれてようやく立ち直りつつあるようだ。
「此処を、俺達の移動拠点にして良いか?」
「あぁ、良いよ。
どうせ誰もいなくなるんだから、好きに使って構わないよ」
「ありがとう。
街中に突然現れたら、皆びっくりするだろうからな」
「まぁ、そうだろうね。
あれだけ言われていた私達でさえ、このザマだしね」
よし、これで魔王領とも頑張れば行き来出来るようになるだろう。
「ベルゼバブ、考え中のところ済まないが、そろそろ帰らないか? あまり、遅くなりたくないのだが」
「申し訳ありませんでした。
はい、遅くなるといけませんので、向かう事といたしましょう」




