第136話 新たな人気者の登場
「これが家畜なのじゃ?」
開口一番、ヴィーヴルが俺に問いただした。
「あぁ、家畜だけど、これは羊という種族だな」
「シカと比べると、随分と小さいのじゃ」
『前に遠くにいたのを見たことがありましたが、こんな感じだったんですね』とは、アンの感想。
『全身毛だらけですね』とはドゥ。
『なにこれ~? けだらけだ~』
『さっきから、くさばっかりたべてる~』
等々、トロワや他のゴブリン達が羊2頭を取り囲んで、羊を見た感想を口々に述べている。
「それで、羊はいつ食べるのじゃ?」
ヴィーヴルは食料としてしか見ていないようだ。
「この羊は、死ぬまで食べないよ。
子羊を産んで、増やさないといけないしな」
家の中からイルデが、食堂のほうからアイリスがやって来た。
「あら、もう連れてきたの? 交渉は上手くいったみたいね」
「あぁ、上手くいったよ。
そうだ、牧場主のセラがイルデに会いたがっていたぞ」
「セラって、小さい頃によく一緒に遊んでいたセラかしら?」
「あぁ、隣に住んでいたと言っていたぞ」
「じゃあ、やっぱりセラなのね。
牧場主って言ったけど、セラって牧場をやっていたの?」
「何でも、結婚した旦那さんが牧場主だったらしい。
だけど、その旦那さんが亡くなったので、セラが引き継いだって言っていたぞ」
「そうなの? 牧場へ嫁いだのね」
「知らなかったのか?」
「えぇ、ドノバンと一緒に街外れに住むようになってからは、会う機会が無くなってしまったから。
それ迄は偶に会うくらいだったし、独身だったから、その後に結婚したのでしょうね」
「そうか……この次に買い出しに行く時にでも連れて行くよ」
「ありがとう。
その時はお願いね」
「そして、アイリスには、これだ」
ストレージから牛、羊の肉を取り出す。
「今日の晩飯に、これも追加してくれないか?」
「え~っと、りょうほうはむりだとおもうから、かたほうだけでもいい?」
「あぁ、じゃあ、こっちを使ってくれ」
そう言って、牛肉の塊を指した。
ヴィーヴルが食べたがっていたしな。
「わかった~、おか~さん、このおにくのれしぴ、いいのある~?」
「そうね……それじゃ、塩と胡椒だけで焼いてみて、クマやシカとの違いを分かりやすくするのはどうかしら?」
「わかった~。
じゃあ、そうしてみる~」
アイリスは肉を抱えて台所へと向かっていった。
「ノアさん、羊だから毛を刈って紡げば毛糸も作れるようになるわ。
私は糸車を扱えるから、今度街へ行った時に、糸車がないか探してくるわね」
「そうなると、街まで糸や布を買ってこなくても良くなるのか?」
「まだ2頭しかいないから、それはずいぶん先の話だと思うわよ」
そう言って、イルデは微笑んでいた。
「しばらくの間は、俺とイルデが世話をするしかないかな?」
「そうね。
新しい人が来るまでは、ね。
小屋と柵があれば、羊なら放っておいても大丈夫だと思うわよ。
外に壁を作ったのならば、クマやオオカミが来ることはないでしょうしね」
「それなら、アインスとツヴァイに任せられるかな?」
「牧羊犬ね。
良いと思うわ」
「ファーティ、アインスとツヴァイに羊の見張りを任せたいんだけど、どうかな?」
『どちらか1頭で十分だと存じます』
「そうだな。
じゃあ、1日交替で見張りにつくようにしてくれ」
『御意』
そうして話している間も、アン達は羊から目を離さずに、あれやこれや話していた。
畑作業に戻る気配が無いけど、もう、すべて任せてあるので俺が心配する必要はない。
それに、少し位早めに作業を止めたとしても、いきなり畑が全滅することもないだろう。
羊に危害を加えるような感じもしないから、アン達の好きにさせておこう。
(ドノバンに話して、小屋を作ってもらわないといけないな)
その場に土魔法で杭のようなものを作り、羊達をそこへと繋いでおいた。
「ちょっとドノバンと話してくる」
ドノバンがいるであろう工房へ向けて歩き出した。




