第134話 羊を手に入れた(1)
それから街の壁伝いに暫く歩いていると、道らしきものが見えた。
肉屋が言っていた道というのはこれのことだろうと思い、その道をさらに歩いた。
暫くすると、大きな小屋が見えてきた。
牛舎か何かだろうと思いながらさらに近づくと、その牛舎らしき建物の前にそれよりは小さな小屋と、向かい側には大きな丸太小屋が見えてきた。
丸太小屋が此処の人が住んでいる所だろうと当たりを付け、ドアの前へと移動した。
「此処へ、何の用でしょうか?」
反対側にある、小さめの小屋の方から声を掛けられた。
声を掛けたドワーフの女性は、小さい小屋で掃除をしている途中だったのか、大きいフォークのようなものを持っていた。
「家畜を売って貰えないかと思って、街で此処の場所を聞いてきたんだが、誰に話せば良いかな?」
「あら、そうなの? ちょっと待ってね」
そう言って、ドワーフの女性は丸太小屋の中へと入って行った。
交渉相手となる者に、話を通してくれているのだろう。
大人しく、その場で待つことにする。
「お待たせ。
此方で話を伺うから、入って頂戴」
「ありがとう。
遠慮なく、入らせてもらおう」
丸太小屋の中に入ってすぐに、テーブルと椅子が2つ向かい合わせで置いてあった。
「そこに掛けて頂戴。
今、お茶を持って来るわね」
俺は椅子へと腰掛けた。
先ほどから対応してくれている女性が、お茶を持ってきてくれた。
そして、そのまま反対側への椅子へと腰掛けた。
「改めまして、私はこの牧場を管理しているセラよ」
ちょっと驚いてしまったが、それを悟られないようにと気を付けて、
「俺はノアと言う者だが、さっきもちょっと話したが、家畜を売ってもらいたくて来たんだ」
「それは分かったけど、その前にこちらから聞きたいことがあるのだけど、良いかしら?」
「なんだろうか?」
「まず、どうして家畜が必要なのか教えて貰える?」
「俺はこの街の者ではない。
この街からは離れた場所で暮らしているんだが、そこで家畜を飼いたいと思ってな。
なにせ、この街まで来るのは一苦労だからな」
「この街へ来るにはどの位掛るのかしら?」
瞬間移動だからすぐに来られるとは言えない。
「1日くらい掛かるかな? 殆どが森の中だから、思うように歩けないし」
「そんなところに居たら、食べ物も無いんじゃないの?」
「畑を作ったんで、少しは自給自足が出来るようになったんだ。
肉もシカやクマを狩れば良いけど、それだと安定しないだろ? だから、家畜が欲しかったんだ。
今は街まで来られるけど、何時までも街に来られるとは限らないしな」
「畑もやって、狩りもやってということは、あなた一人じゃないのね?」
「あぁ、畑も狩りも、今後は酪農もって俺一人には手が余ってしまう。
俺以外にも住民が居るから、その為にも食料供給を安定させないといけないからな」
「そうなのね。
此処、この街への影響はなさそうだから、家畜をお譲りしても良いわ。
そうね、羊の番をお譲りしましょうか?」
「牛と山羊も欲しいけど、駄目なのか?」
「牛は今、お渡しできる雄牛が居ないし、連れて帰れないと思うから駄目ね。
山羊は此処に居ないから、お譲りできませんね」
「牛は連れて帰れないか?」
「そうね、森の中を遠くまで歩かせるのは多分無理ね。
動かなくなったら、どうしようもならないでしょ?」
「あぁ、確かにそうだな」
「それで、雄が金貨5枚、雌が金貨10枚の合わせて金貨15枚でどうかしら?」
雄の価値は雌の半分しかないのか……同じ雄として同情してしまう部分もあるが、雌の方が有用性が高いから仕方があるまい。
「それで頼む」