第130話 畑仕事の手を増やそう(2)
暫く歩いていると、ファーティが迎えに来てくれたようだ。
『主よ、お迎えに上がりました』
「ファーティありがとう、ツヴァイも案内ありがとうな。
それで、ファーティ、ゴブリンは何処に居たんだ?」
『この先の洞窟の中に居りました。
その数、10程度と思われます』
「10体位なら、全員引き取ることも可能だな。
望めばだけど」
『やっぱり、クマに襲われて逃げ延びたのでしょうか』
「多分ね」
ツヴァイからファーティへと案内役は交代し、ファーティの後についてゴブリンが居るという洞窟まで行った。
その場所の入口は岩と岩の間に出来た隙間のようだった。
入口が狭かったので、クマの侵入を防ぐことが出来たのだろう。
俺達は洞窟の入り口前に立ち、ゴブリン達に告げた。
「お前たちは、クマに襲われて集落から逃げ延びた者達だろ? 話があるから出てきてくれないだろうか」
『私は元々あの集落に居ましたが、ノア様に付いて行った者です。
覚えていますか?』
アンの言葉を聞いたゴブリンが、入口からこちらの様子を伺っている。
その内、1体のゴブリンが洞窟から出てきた。
『あなた、生きていたのね? のこのこ人間に付いて行ったから、騙されて殺されたと言われていたのよ』
『私も、他の者たちも皆無事で、何不自由なく暮らしています。
クマに怯えたりすることもありませんよ』
『そうなの? こっちは、あれからも襲われて、私達は何とか此処まで逃げ延びてきたの』
『そうなのね。
他の皆は死んでしまったの?』
『分からないわ。
他の所へ逃げたかも知れないし、途中で襲われて死んだかもしれない』
『集落に死体が無かったようだけど?』
『あぁ、あれはクマが帰った後に私達が埋めに行ったの。
そのままにしておくのは可哀想でしょ』
アンを連れてきて正解だったな。
同族同士だからだろう、話を勝手に進めてくれる。
そうして、洞窟の中に居たであろう全てのゴブリンが洞窟の外へと出てきた。
『それで、話があるという事だったようだけど、何かしら?』
「あぁ、話と言うのは分かっているかもしれないが、こちらに来ないかと言う話だ」
『そうだと思ったわ。
前もそうだったしね。
でも、前と同じようには行かないわ』
「どうしてだ?」
『前はもっと居たけど、今はこれだけしか居ないもの。
連れてきたゴブリンを見たら、今より良い暮らしが出来そうだと思えるから、行きたいと思うでしょうね。
でも、此処に残された者はどうなるの?』
「何だ、そんな事か。
全員受け入れようと思っているぞ」
『え? 全員なの?』
「あぁ、集落全員は厳しかったかもしれないけど、此処に居るだけならば全員受け入れられるよ」
『本当なの?』
「あぁ、勿論だ。
ただ、此方に来たら、アン達と一緒に働いてもらう事となるからな」
『アンと言う方と一緒に働くって、私達で大丈夫なの?』
『アンは私よ。
ノア様に名前を頂いたの』
『名前を貰ったの?』
「あぁ、俺が困るから名前を持って欲しいと言ったのだが、自分の名前が決められなかったので、俺が決めたんだ」
『私達にもできた仕事だから、大丈夫よ』
「今では、俺より上手く出来るかもしれないけどな」
この言葉は、お世辞とかではなく本心だ。
だからこそ、安心して畑の作業を全て任せることにしたのだから。
アンは照れているようだったが、何か誇らしげにしているようでもあった。
『私は行こうと思うのだけど、皆はどうかしら?』
他のゴブリン達も、異口同音にこちらへ来ることを希望した。
これだけいれば、畑を拡張しても大丈夫だろう。
その前に、帰ったらゴブリン達の寝床を作らないといけないだろう。
食堂もこのままだと手狭になるから、拡張しないといけない。
「じゃあ、今から皆は俺の村の村民だ。
村に案内するから、付いてきてくれ。
そして、その間に、自分の名前を考えておいてくれ。
村民を呼ぶ時には名前が無いと不便だからな」
新しく村民となったゴブリン達は、自分の名前をどうしようかと頭を悩ませながら村までの道のりを歩いた。
結果的には、誰も自分の名前を思いつくことが出来なかった。
アン達もそうだったのだから、火を見るより明らかなのだが、『考える』ことを教えたかったので敢えてそうした。
俺は村に着いてから、名前が思いつかなかったことを確認して、アン達と同様に名前を付けて行った。
ゴブリン達は全部で2家族で、4体、6体の家族だった。
両家族ともに両親が健在だったので、ゴブリンとしては2倍増えたことになる。




