第128話 村長就任
その日の晩飯終わりの頃、イルデが「皆さんに話があるから、晩酌は待って欲しいの」と告げた。
(何事だろうか? 何処かに酪農家の伝手が無いかでも聞くのだろうか?)
ヴィーヴルやルシフェル達は、元々、食べる必要が無いから、そんな伝手は無いだろう。
アン達だって、ゴブリンが酪農をやっているなんて話は聞いたことが無い。
ファーティ達は酪農家を見かけたことはあるかもしれないが、伝手とは言えないだろう。
良く分からないが、アン達とファーティ達に「そのまま待ってくれ」と言っていることを伝えた。
「此処を村として、ノアさんに村長として活動して欲しいのだけど、どうかしら?」
突然の話に、俺はそのまま固まってしまった。
「なんだ今更という感じだな」とは、ルシフェルの言葉。
「構わんのじゃ。
前からそんな感じだったのじゃ」とはヴィーヴル。
『何があったのですか? ノア様』
『何かの確認でしょうか?』とは、アン、ドゥの両名。
「ノアをこの村の村長にとの事じゃ」と、ヴィーヴルがアン、ドゥへのフォローをしてくれた。
ヴィーヴルのフォローを聞いたファーティが、『村長就任、おめでとうございます』と祝辞を述べた。
「誰も異存はなさそうね」
イルデが話を進めようとする。
「いや、ちょっと待ってくれ。
何で俺なんだ? ヴィーヴルやルシフェルが村長で良いだろ?」
「ヴィーヴルさんは村を仕切ることは出来ないと思うの」
「妾は、妾のやりたい事しかせんのじゃ」
「ルシフェルさんは仕切れるとは思うけど、魔王の務めがあるでしょ?」
「うむ、これ以上仕事を増やされると困るでの」
「今、この場を仕切っているイルデが良いじゃないか」
「私には村全体を仕切ることは出来ないわ。
壁を作ったのもあなた。
新しく連れて来ようとしているのもあなた。
私は、私の目線から提案なんかは出来るけど、村全体を仕切るようなことは出来ないわ」
「壁を作ったのは、ヴィーヴルやルシフェルだよ」
「実際の作業はそうかもしれないけど、作ろうと考えたのはあなたでしょ?」
「ドノバンは駄目なのか?」
「儂か? 儂は物を作ることは出来るが、村長の仕事は出来んじゃろう」
「あとは……」
「あなたがやるしかないのよ。
いい加減、諦めた方が良いわよ。
それにこの提案は、ノアさん、あなたの為でもあるんだから」
「俺の為?」
「えぇ、そう。
あなたは何でも自分一人で抱えすぎるの。
まずは、畑仕事を手放して、アンさん達に全てを任せた方が良いわ。
それとも、まだまだ任せられる状態ではないかしら?」
「いや、安心して畑仕事を任せられるけど、まだ始めてからそんなに経ってないんだぞ?」
「何時になったら任せられるようになるのかしら? 必要なのは時間の経過じゃなくて、信頼できるかどうかだと思うの。
アンさん達に畑の作業を任せられるだけの信頼があるのならば、何も問題はないでしょう。
台所だって、アイリスに任せているわ。
料理を始めたのは、此処に来てからなのによ」
そうだな……冒険者でも、長くやっていれば良いってものではない。
その仕事を任せて、きちんと終えることが出来るかどうかだ。
「イルデの言う通りだな。
アン達に畑の事は全て任せよう。
アン、ドゥ、畑の仕事を全てを任せても良いだろうか?」
『はい、私達にお任せください』
『ノア様のご期待に沿えるよう、頑張ります』
「ノアさん、きつい言い方になってしまってごめんなさい。
でも、ノアさんの為にも、此処に住む者としても言わないといけないと思ったのよ」
「ノアよ、お前には此処に連れてきたものが居るのだから、その責任を負わなければならないのだぞ。
その一端として、村長となる必要があるのだ」
ルシフェルの為政者としての言葉が重かった。
「その覚悟が俺には足りていなかったようだな。
分かったよ、村長就任を受け入れるよ」
「では、村長就任を祝って、パーティを開催するのだ」
「ところでルシフェルよ。
お前はさっき『連れてきた』と言ったが、お前は此処へ『押しかけてきた』んじゃなかったか?」
「何の事だろうか? とりあえず、パーティを行うのだ。
ノア、今日は街で酒を買ってきたのだろ? 早く出してくれ。
パーティでは、細かい話はせぬものだ」
「今回は全部飲まないでくれよ。
また明日、買いに行く事になるのは敵わないからな」
こうして俺は、住民にドラゴンと魔王が居る村の村長となった。




