第124話 ドノバンの弟子探し(3)
「俺とドノバンは、人里離れた場所で暮らしているのだが、今、そこにルシフェルも暮らしているんだ」
「魔王様を暫く見かけないと思ったら、そんな所へ行っていたのか」
「そこでドノバンは鍛冶をやっているのだが、弟子となる者が居ない為、このままではドノバンの技術を受け継ぐものが居ない。
それで、ルシフェルが見所ある鍛冶師として、ガレスを紹介してくれたんだ」
「成程のう。
魔王様にそこまで見込まれていたとは、有難いことだ。
ただ、弟子となるからには、ドノバン殿の腕を見て決めたいのだが」
「当然なのじゃ。
儂もお主の腕がみたい所じゃしな。
とりあえず、ノアよ、まずは普通の剣を出してもらえるかの」
ストレージ化してある袋の中から、鉄の剣を取り出した。
ガレスからは何の言葉も無いが、剣をまじまじと見ている。
悪い感じではなさそうだが……
「ノアよ、次の剣を頼むのじゃ」
ストレージからミスリルの剣を取り出した瞬間、ガレスが絶句していた。
「やはり分かるかの」
「ミスリルの剣は久しぶりに見ます。
見せて貰えるでしょうか?」
「あぁ、構わんじゃろ」
ドノバンが許可したようなので、ガレスにミスリルの剣を渡した。
ガレスは全体を隈なく眺めていた。
「どうじゃな、お主の師匠足りえるじゃろうか?」
「私などで宜しければ、是非とも師事させて頂きたいと思います」
ガレスは頭を深々と下げていた。
「お主の物を見たいのじゃが、良いかの?」
「はい、少々お待ちください」
ガレスは炉の横に置いてあった剣を持ってきた。
「これになります」
今度は、ドノバンがまじまじと剣を眺めている。
「ふむ、筋は悪くないようじゃが、叩きが甘い所と叩きすぎの所があるようじゃ。
師匠は何と言っておったのじゃ?」
「師匠は5年ほど前に他界されました。
その頃も師匠は同じようなことを申しておりました」
「その師匠が他界した後も、他の師匠には弟子入りせんかったのじゃな」
「はい、弟子入りして学びたいと思えるような鍛冶師が、この街には居りませんでしたので」
「じゃからかもしれんが、お主の剣には迷いが見られるのじゃな。
迷いがそのまま叩きの甘さ、叩き過ぎとなって出ておるのじゃよ」
「ドノバン、ガレスは弟子として見合うのか?」
「あぁ、合格じゃろう」
「じゃあ、ガレス。
ドノバンの弟子となるに当たって、条件があるのだが、確認させて貰っても良いかな?」
「何でしょうか?」
「まず、俺達が住んでいる所は、とてもじゃないがここから通うことができない。
こちらに移住してもらうことになるが、良いだろうか?」
「家内と相談させてもらって良いでしょうか? 私としてはそちらに行きたいのですが、相談もせずに勝手には決められませんので」
「勿論、そうだろう。
家族がいるのならば、当然だ。
確認だが、家族は奥さんだけだろうか?」
「娘が2人居ます。
今は、多分遊びに行っていないとは思います」
「家族で良く相談して決めてくれ。
娘さんもこちらに来ることになると、今の友達とは会えなくなるかも知れないからな」
「はい、分かりました」
「次に、今、俺達が暮らしている所にはゴブリンも一緒に暮らしている。
ゴブリン達と一緒に暮らすことができないのならば、こちらへの移住はできないと思って欲しいんだ」
「ゴブリンとですか? 何故なのか聞いてもよろしいでしょうか?」
「ゴブリン達には畑の仕事を手伝って貰っているんだ。
いや、今は主に畑の仕事をゴブリン達に任せている状態だな」
「ゴブリンに畑仕事ができるのですか?」
「教えたら、出来るようになったぞ」
「そうですか……今までそのようなことは聞いたことがありませんでしたので」
「今のところの条件はそんな感じかな? あ、今いる所ではお店がないから、全て共有の財産という感じになっている。
必要なものとかは、俺とドノバンの奥さんで街に行って買って来るという感じだから、お金のやり取りはないんだ。
食堂があるから、食事は皆で一緒に食べているんだけど、もし、家族だけで食べたいのならば、食材はその都度提供する形でも構わない」
「住むところはどうなのでしょうか?」
「土で出来た家を作っておく。
工房はドノバンの所をそのまま使うだろうから、家を工房の隣に作っておくよ。
大きさは……4人家族ということだから、ドノバンの家より少し大きめのほうが良いかも知れないな」
「土で崩れたりしないのですか?」
「今のところ、崩れたりしていないから大丈夫だと思う。
今は木材を乾燥させている最中だから、乾燥が終われば木で立て直すかもしれないけど」
「今のままでも良いかも知れんな。
火事の危険は無いし、木で作るより頑丈かも知れんのじゃからな」
「それにしても、ドアだけでもきちんとしたものにはしたいよな」
「門のドアだけは立派になったんじゃがな。
すっかり忘れておったわい」
「俺も忘れていたよ」
ドノバンと俺は笑いあった。
「あの、それ以外には何かありますか?」
「あ、放置してしまって済まなかった。
とりあえずは以上かな? ドノバン、何かあるかな?」
「儂からは無いのじゃ」
「それじゃあ、家族で後悔がないように話し合ってくれ。
返事は、後でルシフェルと連絡方法を相談しておく」
「分かりました」
「良し、後はルシフェルが来るのを待つとするか……ドノバン、何かやりたい事とかあるか?」
「それでは、燃料を仕入れて帰りたいのだが良いだろうか?」
「あぁ、折角街まで来たんだ、必要なものは買って帰ろう」
「ガレス、燃料店まで案内頼めるかの?」
「はい、ご案内いたします」




