第110話 魔王様のいる日常
今日も朝から畑へ行って作物の様子を見る。
今ではゴブリン達が世話をしてくれるので、俺の出る幕は殆どない。
ゴブリン達は言われたことを愚直にこなすので、心配することが全くない。
エルフ達から仕入れた畑に関する知識も、全てゴブリン達にも教えている。
ジャガイモやキャベツなど、連続して植えてはいけないものとか、逆にニンジンなど連続して植えても大丈夫なものとか……
2~3回、別の作物を植えて間を空ければ大丈夫らしいので、畑をローテーションさせないといけないようだ。
また、畑の周りに植えたほうが良い植物も教えてもらった。
とりあえずは、今だ。
ついこの前、ヴィーヴルがエルフ達にリンゴの木の様子を見てもらう時に、畑の様子も見てもらった。
俺も一緒に水浴びに行こうと言ったのだが、アン達に『丁度良い機会なので、エルフ達に畑の様子を聞いてください』とのことで、ファーティ達と行ってしまった。
畝の作り方も問題ないとのことだったし、畑の土も問題ないとのことだった。
後は育ちが悪くなってきたと思ったら、畑の横に避けてある雑草を燃やして土に混ぜ込むと良いらしい。
腐らせて肥料の代わりにならないかと思って横に積んでいたのだが、このままで腐ることは腐るのだが、肥料としては使えないらしい。
正確には腐った後に更に発酵? すれば使えるのだが、それまでには時間が掛かるとのことで、そのままではすぐに使えず、腐ったものを畑に入れたならば、作物も腐ってしまう。
山の土は腐っているのではなく、発酵しているから畑に使えるらしいのだ。
農家の子だから……と言っていたが、エルフの知識を目の当たりにして恥ずかしくなってきた。
だけど、恥ずかしがっている場合じゃない。
俺には今、一緒に生活している皆がいるんだから、獲られる知識は貪欲にでも吸収していきたい。
ドノバンには、鉄で農機具や道具を、ミスリルやオリハルコンで武器を作ってもらった。
作られた武器は1つも売らずに手元に置いてある。
街へ持って行って流通させると、イルデへの追及が厳しくなる可能性があるからだ。
だけど、今のところ定期的な収入がある。
ルシフェルから場所代および晩酌の酒代として1日金貨1枚を貰っている。
「場所代なんていらない。
気にせず住んでくれ」
「いや、このままではこちらとしても気が引ける。
それでは、これは、晩酌の酒代も含めて支払うこととしよう。
これは、正当な取引だ。
酒はタダでは飲めんだろ?」
そう言われて押し切られてしまったが、酒のグレードがアップしたから良いだろう。
その為か、最近の晩酌の酒の肴のレパートリーが増えてきたように思える。
「いろんなたべものをもってきてくれるから、おかあさんにたくさんおしえてもらってるの」
小さな料理長は胸を張っていた。
『私達も、新しい料理方法が見られて楽しいです』と、ドゥが言った。
俺は最近、食堂のキッチンには入っていなかったので、アン、ドゥへの通訳がいない状態でキッチンに入っていたのだが、見ていて料理を覚えているらしい。
やっぱり優秀だよ、ゴブリンは……
その土地を貸している相手である魔王様だが、今のところ、仕事も滞ることなく進んでいるらしい。
ベルゼバブが常時目を光らせているので、滞りようが無いと晩酌の席で愚痴っていた。
まぁ、諦めろと慰めておいたが、そもそも、怠けるために来た訳ではないはずなので、これが正しい姿だろ? とも思ったが、口にはしなかった。
それでも、毎晩のように晩酌をして、美味い酒の肴があるのが救いで、城にいた時に比べると楽に暮らせるとも言っていたので、城にいた時は随分と窮屈な暮らしだったようだ。
今の家は城と比べると窮屈だろうが、身体の窮屈さよりも心の窮屈さの方が耐え難いらしい。




