第103話 魔王来訪の報告
「では、妾はルシフェルに頼まれたものを作るのじゃ。
その間、こちらには来られぬので、リンゴのことは頼むのじゃ」
「あぁ、分かったよ。
リンゴの世話はしておくから安心してくれ」
「あと、妾が出てくるまで、洞窟の中には入ってはならんのじゃ。
少しばかり複雑な魔法を使うので、気が散ると上手くできないのじゃ」
「ヴィーヴルでさえも、そんなに大変な魔法を使うんだ」
「気が散らなければ、大丈夫なのじゃ」
「分かった。
頑張ってくれ」
ヴィーヴルは洞窟の中へと姿を消した。
洞窟に入るなってことは、鉱石を持って来ることもできない。
ドノバンには3日程、鉱石を要求されても持ってこられないことを、伝えておこう。
その日の夕食では、席が一つ空いていた。
ヴィーヴルの席だ。
「いつもどおり、ヴィーヴルさんのぶんもつくっちゃいましたよ。
いらないならいらないと、ちゃんとおしえてください」
「済まない。
色んなことがありすぎて、俺が言い忘れていたんだ」
「では、これはあしたのノアさんのぶんということにします」
最近は小さな料理人が、食堂を仕切っている。
イルデは料理の仕方やレシピをアイリスに教えているだけで、実際の料理はアイリスが殆どをしているとのことだった。
料理程の上達スピードではないが、裁縫の方も上手くなってきているそうで、もう少し上手くなったら、服造りも任せられるらしい。
衣食住のうち、衣と食はドワーフ頼りになってしまった。
ドノバン一家の移住は、本当にありがたい。
「そのヴィーヴルだけど、あと2~3日ご飯は要らないそうだ。
洞窟に籠って、ルシフェルからの依頼の品を作っているんだ」
「ルシフェルとは誰なのじゃろうか? この辺では聞いたことのない名なのだが」
「あぁ、昼間に来た魔王の事だよ」
ドノバンが、スープを口から噴き出した。
「おとうさん、おぎょうぎがわるいよ」
アイリスが、ドノバンの噴き出したスープを拭いていた。
「魔王じゃと? 魔王が来ておったのか?」
「あぁ、気になった事があったので、確認しに来たんだと」
「それで、どうなったのじゃ?」
「何がだ?」
「魔王が来たのじゃろ? 徒では済むはずがない」
「あぁ、魔王も此処に暫くの間、住むそうだ」
「今、何と言った?」
「魔王が暫くの間住むって」
ドノバンがスプーンを落とした。
口は開いたままだった。
「おとうさん、だらしない」
ドノバンが落としたスプーンの代わりを、アイリスが持ってきた。
アイリスが、いつの間にか食堂の支配者へとなっている様だった。




