第1話 パーティから脱退した
「今日、受注した分はこれで最後だな。あとはギルドに報告して解散しよう」
パーティ『烈火の剣』のリーダシュラウドがそう告げる。
「了解。じゃあ、一休みして帰るとしますか」
魔法使いのセトが返答する。
「明日は休みだったか?」
斥候のルークが誰ともなく問うと、シュラウドが短く「あぁ」とだけ答えた。
「久々に、武器屋でも覗いてみるか…」
俺も誰に言うでもなくつぶやく。
「あ、ノア。悪いんだけど、今日の夜、ちょっといいか?」
シュラウドの問いかけに、俺が答える。
「うん? まぁ、構わないが、今じゃダメなのか?」
「ちょっと落ち着いてからがいいな」
「分かった。じゃあ、いつもの酒場で先に飲ってる」
「あぁ、済まないが、よろしく頼む」
暫くしてセトが再び、
「じゃあ、そろそろ帰るとしようよ。日が暮れちゃうよ」
誰も返事をしないが、全員立ち上がって雑談をしながら街へと歩み始めた。
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「待たせたな」
「いや、飲んでいたから問題ないよ」
グラスを掲げながら俺が答えると、シュラウドは隣の席に座りながらエールを注文していた。
バーテンがエールを持ってきたところで、
「じゃあ、まずは、今日のクエスト完了に乾杯だ」
「あぁ、お疲れさん」
俺とシュラウドはグラスを合わせた。
シュラウドは一気にエールを空けた。
「で、話ってなんだ?」
「あぁ、そのことだがな…おい、もう一杯エールをくれ」
空になったグラスをバーテンに渡しながら、バーテンに告げた。
バーテンはエールを注ぎに行くために、その場を離れた。
「ノア、このパーティは更に上を目指すことにした。今後はより上位ランクのクエストを受注していくけど、おまえには厳しいと思うのだが、どうだろう?」
俺以外のメンバーは多分、もっと上位ランクのクエストでも問題なくこなしていくだろう。
対して俺は、今のレベルでついていくのでやっとの状態だ。
「どうだろう?というのは、抜けてほしいということか?」
シュラウドは無言だが、否定しない。
上位ランクのクエストでは、今の俺では足手まといにしかならないだろう。
それは俺自身が危険だというだけでなく、パーティとしても危険な状態になる可能性もある。
どちらにとっても良いことなど何もない。
暫くの間無言が続いたが、俺は一つ気になっていることを聞いてみた。
「代わりはもう、見つかっているのか?」
「あぁ、候補として2人ほどいるが、明日、どちらにするか決定する」
「そうか……」
前々から抜けさせる準備は進んでいたのか……
間抜けな俺は、何も知らずにクエストを一緒になってやっていたんだな。
いや、抜ける話をされた状態でクエストに行った時に、ポカをやらかす可能性があるから、シュラウドなりの優しさなのか?
抜けさせるのなら、今日は丁度良いタイミングということか。
「他のメンバーに話は通してあるんだよな?」
「あぁ、全員に納得してもらった」
これ以上はみっともないだけだし、俺にこのパーティでの居場所は既にないことは確かだ。
「分かった。長いこと世話になったな」
「あぁ、すまないな」
「いや、いいよ。俺の実力不足のせいだ。みんなにもよろしく伝えてくれ」
「分かった。こちらからの話というのは以上だ。この後、どうする?」
「俺は……とりあえず、部屋に帰って今後の身の振り方を考えるよ」
「分かった、俺はもう少し飲んでから帰るよ」
「あぁ、じゃあな」
「あぁ」
俺は勘定を置いて席を立って、バーを後にした。
「これからどうするか…」
夜はまだ始まったばかりである。




