防虫剤作成
(液体のイメージ、イメージ……)
イメージしながら、私は体内の魔力を放出する。
――チャプン――
要らなくなったからと、貰ったコップに
葉っぱから抽出されたエキスが生成される。
あの日、アードルフがのたうち回った翌日から、わたしは防虫剤の研究を始めている。
この原液を作るまでは、順調だった。
翌日にはあっけなく出来ていたのだ。
ひとつの問題を除いて……
わたしは試作1号の液体を、リュエルの木の効力が及んでいない場所にあって、まだ、害虫被害を受けていない葉っぱにかけてみた。
原液が100% だと、かけたそばから、次々と枯れていった。どうやら効きめが強すぎたようだ。
それからは、濃度の研究をしながら、ひたすら試行錯誤を繰り返した。
何日が経っただろうか。おそらく、2ヶ月はゆうに、過ぎた。
そして、枯れない濃度が5% というところまでは判明した。
「やったー! やったね! ついに枯れないラインを探しあてたよ。これなら、とーさんの役に立てるかもしれない」
そう、喜んだのも束の間、翌日の収集の時間には心をへし折られていた。
昨日薄めた液をかけた葉っぱに、虫がついていたのだ。葉は青々としていたのだが、至る所を虫たちが食い散らかしてしまっている。
「うへぇ〜〜……結構頑張っていただけにショックだね。ガックリだよ……何がいけないのかなぁ?」
(虫がついたら意味がないから、濃度を上げるかな? でも枯れても困るし……そうだわっ! 液のかけ方に問題があるのかも。 いつもコップから直接流して振りかけていたのがマズかったのだわ)
前世で防虫剤を使った時のことを思い出してみる。
(確か防虫材を使うときは、噴霧機とかでかけていた気がする。あれなら、満遍なくかけられて、かけすぎを防いでくれる気がする)
そうと決まれば、噴霧機の作成だ。
(そういえば、転生前に一度でも使った道具は作れるって説明があった気がする。噴霧機も、いつもみたいにイメージしたら作れるのかな?)
隠すわけではないが、他の人に道具作れるとか、魔法使えるのバレたら、色々と面倒なことになりかねないし、ちょっと離れたとこでやってみることにする。
(よしっ、イメージ、イメージ)
――ブー、エラーコード03、素材不足――
「えっ? えっ? 何今の?」
突如、頭の中(?)に響いてきた謎の効果音と言葉。
(そうだった。一度でも使ったことがある道具は、基本作れるけど、素材不足とかで例外はあるって言ってたっけ。完っ璧に忘れてた)
そうは思いながらも、原液を片手に、中々諦めきれない。
(道具をつくるのは、現状では厳しい、でも道具はなくても何かしら代替案はないだろうか? 噴霧機って空気をシュコシュコいれて、圧縮した空気を利用して霧状にしてなかったかな。
だとしたら、風の魔法を上手く調整すれば霧状にできるかもしれない。あとコップから、ドバッと原液を垂らして、風魔法をつかっても霧状にするのは難しいだろうから、垂らす量の調節が必要ね。)
――ガリガリ――
土を少し掘って手元に置く。
(コップの口から少量の液だけ垂れるように、土魔法で形状を変えるイメージ)
――ポンッ――
垂らす量を調節出来る形状ができあがる。
(次は、コップから垂らす液を圧縮した空気で霧状に押し出すイメージ)
――シュッ――
今度は綺麗な霧状の液が飛び出す。
この後、数日間かけて、噴霧機もどきで、吹きつける際の濃度を実験した。
結果、35% の濃度がベストだという結論となった。
(あとは、作物に悪影響がでないか、様子を見てみる必要があるよね。確か森の中にコマールと呼ばれる、完全にコマツナだよね? って思える野菜が自然になってる場所があったから、あそこに散布してみよう)
その後私はコマール群生地に行き、印をつけて区画を決め、散布した場所がわかるようにした。
無事に熟成した暁には、自分で食べてみようと決意する。
仮にお腹壊しても、母さんの薬で最悪の状況は回避できるはずだ。
それから、二ヶ月もたたないうちに、無事に収穫ができた。散布していないコマールに比べ、葉っぱは綺麗なものだった。
――キョロキョロ――
家に帰った私は、あたりに人がいないか確認する。
(よしっ、誰もいない。採集してきたコマールをキチンと洗ってっと……パクッ)
食べてみたが、特段変化は見られない。
暫く様子を見てみないと何とも判断出来ないが、ひとまず、実験は成功したとみて間違いないだろう。
(う〜ん……)
実験が成功したことに手放しで喜びたい……
喜びたいのだが、同時に私は、悩んでいた。
国の食糧問題、さらには、我が家の経済状況にまで影響を及ぼす事になる。
「じゃじゃ〜ん、噴霧機もどきと防虫剤が出来ちゃいましたぁ〜(笑)」
いやいや、笑えない。想像してみたが、希望的観測を考慮しても、間違いなく引かれる。
3歳にも満たない、魔法についても教育を受けていない、舌ったらずな子供である。
(せめて、母さんに魔法を教えて貰って、キラリと光る私のセンスを感じてもらってから、教えた方がいいかも。暫くは自重かな)
その夜、私は母さんに本を読んでもらいながら、寝たふりをした。
母さんが部屋を出た後、私は今日までのことを一度整理し、何か課題がないか考えてみる。
(そう言えば、噴霧機を作るときに素材不足エラーがでてたね。あれって私が思い浮かべたのが、プラスチックを使っていたからかな?
確かプラスチックって石油とかと関係あった気がする。つまり、化石燃料を掘り起こさないといけないってことよねぇ〜。
あっ……それとも距離的な問題かな?遠くても、素材を使えるみたいだったけど、小さい頃は、家の周辺程度だっていってた気がする
――ハァ〜――
いずれにしても
マンパワーが圧倒的に足りてないね)
私が必要だと思ったのは、まずは協力者。マンパワーがないと出来ないことも多い。人手は必要だ。
次に、この世界での常識や、雑学など。虫が嫌う匂いとか、最初から分かっていたら、もっと楽に防虫剤もつくれた。
最後は、やはり魔法について。イメージで勝手に発動しているだけで、必要なもの(ベタだが、杖とか?)がいるのか。それに、詠唱によって効果に変化はあるのかということだ。イマイチ使い勝手が分からない。
3歳になったら、母さんに色々と教えてもらおう……
そんなことを考えているうちに、次第に瞼が重たくなってきて、程なく部屋には規則正しい寝息がこだましたのだった。
翌朝私はさっそく母さんに頼み込んだ。
「かーさん、私に魔法をおしえて!」
「あらあら、ノルはオマセさんなのね。ふふっ」
小さい子が背伸びして難しいことを言ってるとでも言いたげな生暖かい眼を向けてくる。
「教えてくれる?」
「うんうん。いいわよ。ハァ〜本当にノルは可愛いわねぇ〜、天使みたいだわ。でもね、誰でも最初から出来るわけじゃないから、最初は出来なくても気にしなくていいわよ」
「わかった〜。頑張ってみるね」
数日後、母さんによる初めての魔法講座で、かあさんの絶叫がほとばしるのは、この時の二人には知る由もなかった。