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2歳児はじめて外に出る

「しっかりと地面を見て、石とかに躓かないように気をつけるんだよ」


 マルクはそう言うと、わたしに手をのばす。


「あい!」

舌ったらずな返事をしながらも、その手を取るわたし。


 6歳になるマルクは、近くの聖グランツ教会が母体となって、管理・運営している幼稚園に通っている。そして、お昼頃には帰ってくるので、一緒に昼食を摂り、畑へと行くところだ。


 朝は近所の2、3歳児と、手の空いた大人と森に行き、食べれるキノコかどうかを教えてもらいつつ、採集して昼までには戻り、昼食後は父さん、兄さんと一緒に畑に行くのが最近のわたしのライフサイクルだ。


「あっ、ダンコムシ!」


「ダンゴムシだろ?」


 2歳から、母さんが毎晩、読み書きを教えてくれている。わたしはリスニング力と語彙力は高く、2歳半くらいになった今では、日常会話に支障ないくらいには理解できている自信がある。


 しかし、しかしながらだ、発音と書字だけは、体の成長が伴わなければ如何ともし難い。

 決してわたしの頭がお花畑なのではないと断固主張したい。


 幸いなことに、この世界は紙とインクは高価なものではなく、望めば普通に手に入る。

 母さんは、理解力の高いわたしに教えるのが、殊の外楽しいらしく、紙とインクのストックは豊富であり、わたしのラクガキ、もとい、文字の練習には役に立っている。


 それにしても、母さんは教えるのが凄く上手い。

何故だろうかと疑問に思うこともあったが、母さんの仕事がお医者さんだと分かって納得した。


とにかく、要点のまとめ方や、必要なポイントの押さえ方が秀逸だ。


(まぁ、発音と綺麗な字を書くのはボチボチ慣れていくしかないかな)


そんなことを考えながら、歩いていると、目的地である畑についた。


「あれ?」


「ん? どうかしたか?」

ドミニクが何かに気づいた様子のわたしに尋ねてくる。


「とーたん、あそこ」


「ん? トマを植えた所か?」


「そうそう、あの赤い実のとこ」


「どうかしたのか?」


「なんかね〜、葉っぱのとこが、バッチくなってる」


「おっ気づいたか? あれはな、虫が食べてしまってああいう風になってしまってるんだよ。多少であれば、収穫にも影響はないんだが、毎年あれのせいで出荷出来ない作物もでてくるんだよ。ただでさえ、天候次第なとこもあるんだがなぁ、中々上手くいかないもんだ」


 父さんの話をまとめるとこうだ。

毎年自然災害やら、害虫の被害やらを多かれ少なかれ受けている。

 そして、特にこの地方の作物の収穫量は、それと比例するように、国民の食卓に影響を及ぼすのだという。


 つまり、この地方は農業が盛んな地域で国の食料庫の役目を担っているとのことである。


 自然災害はどうしようもないが、害虫被害も馬鹿にならず、対策を考えているものの未だに解決できていないというのが現状のようである。


「とーたん、ノルは、毎日森に行ってるでしょ? 」


 余談だが、わたしは、エレオノーレひいお祖母様の名前と似てるので、家族やご近所さんの間ではノールの方にフォーカスをあて、さらに省略して、ノルと呼ばれている。


「そうだな。朝早くから、休まずに行ってノルは偉いぞ。母さんからも、ノルはあり得ないぐらい賢いって聞いてるし、父さんも知り合いに鼻が高いぞ」


「それでね、不思議だなって思ったの」


「ん? 何が不思議なんだ?」


「あのね、森にちょと赤い感じの、おっきな木があるでしょ? あの木の近くの葉っぱは、こんなバッチぃのは無いの」


「そういえばそうだなぁ。たぶんリュエルの木を言ってるんだろうけど、確かにあの辺の草は虫に食われてなかったな。昔からあの辺には魔物も寄り付かないって聞くしな」


「まっ……魔物? あにそれ?」


「あ〜すまんすまん、ビックリさせてしまったな。魔物といっても、犬・狼の親戚みたいなやつや、大きいのでも熊みたいなやつがほとんどだよ。ノルに分かるかな? デッカいワンワンみたいなもんだ」


(いや違う! クマをデッカいワンワンだという、想像の斜め上の解釈は、わたしが子供だからとて、看過できない、父さんは細かいことは気にしないし、若干天然なんだろうか?)


「父さんの小さい頃は、年に1回くらいは見かけた気がするが、そっと逃げれば追いかけてこないし、今では宮廷の魔導師さまが、所々に結界をはってるみたいだから、街で遭遇することはないぞ。」


「そっかぁ〜、とーたん、色々教えてくれてありがと」


(今の話だと、そのリュエルの木というのと虫には必ず因果関係があるに違いない。明日森に行くし、調べてみよっかな。もうキノコ採りは飽きたしねっ!)


〜翌朝〜


 いつもの採集場所に到着し、自由行動の時間になったわたしは、早速リュエルの木の調査を開始した。


(ん〜、大きさや、見た目が赤みのある点を除いて、他の木とあまり変わらないのよね。でも、あの辺の一帯だけ、明らかに害虫被害が無いのは事実だわ。しかも、よく見ると近くには大人から食べれると教えられたキノコやキュウリに似た野菜が、養分たっぷりといった感じで実をつけてるじゃない!?)


そんなことを考えながら、何気にリュエルの葉っぱを手にとってみる。


(くんか、くんか)


匂ってみる。


(うわ、凄くいい匂いがする。日本にいた頃だったら、香水の原料としても使えそうだわ。)


――パシパシ――

叩いてみる。




……より匂い立つ。



――グリグリ――

すり潰す。



……ヤバイぐらいに匂い立つ。


「何の役に立つか分からないけど、何枚か研究素材に持って帰ろ〜っと」


カリーナお手製ポーチに葉っぱを数枚いれて、残り時間はキノコなどの採集を行い、帰路につく。






(むむっ、おかしい)

家に戻ってきたわたしは、ある異変に気付く。


 いつも森から帰ると、真っ先にアードルフがお迎えにに来てくれるのだが、今日は来てくれてない。


(アードルフのやつサボったのかな? も〜〜職務怠慢よ! 見つけたら頭撫でまわしの刑に処してやるんだから。)


「ふんふん、るるる〜、処す処す〜、処すとき、処すれば、処せ……らららんらん」


変な歌を唄いながら、アードルフを探して家を探し回る。


「あっ、みぃつけたぁーー!」

獲物を見つけ、さながら自分が猛禽類にでもなったかのような気分でダッシュをかますわたし。


――ササッ――

しかめっ面でわたしから逃げようとするアードルフ。


――タッタッタ――

追いかけるわたし。


――ササッ――

逃げるアードルフ




何度この攻防を続けただろうか。お互いに息は切れ、肩で息をしている状況だ。


「バゥゥ〜」

情けない鳴き声をあげ、アードルフが床に崩れ落ちる。


「も〜なんで逃げたの! 頭を出しなしゃい」


――グリン――

首がねじ切れるくらいの勢いで顔を逸らすアードルフ


 ジト〜とした眼は、わたしの手と、どうやらポーチに向いてるようだ。


(あれ? 手を嫌がってる? なんか匂いとかするのかな? っていうかもしかして、気づいてなかっただけで、凄い臭いとか?)


不安になり、自分の手を嗅いでみる。

(あっ、森ですり潰してみたリュエルの葉っぱの匂いがする。……ということは、もしかして、この匂いが嫌いなのかしら?)


――グリグリ――

ポーチから葉っぱを1枚取り出し、アードルフの眼の前ですり潰す。


あのヤバイくらいの匂いが部屋を包み込む。


 瞬間、アードルフは床をのたうち回り、暫くして、ふらつく足取りで部屋をでていった。


(あちゃ〜、実験のためとはいえ、アードルフに悪いことしちゃったな。まさか、あんなに、効果があるなんて思わなかったんだもん。すまんすまん。でも、あの嫌がり様、きっと害虫被害がないのも、虫があの匂いを嫌って寄りつかないせいだわ)


「よし決めたっ! 葉っぱの成分を使って防虫剤を作ってみせるわ!」

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