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008 派閥

「マジだこりゃ……」


 真偽の確認をしたいとのことで、暁とガランド、ラッド、そして最高責任者として呼び出されたトワラと彼女の秘書官であるバルサの五人で叛逆(リベリオン)を見ていた。


 操縦席の端末で機体情報を見て、機体名が『リベリオン』となっている事や、データベースにある叛逆(リベリオン)と機体の外見を見比べてみて、ようやく納得をした様子の面々。


「まさか、この目で伝説の機体を見る事になるとは……」


 感心したような、歓喜しているような、そんな声音でトワラが言う。


「ええ……生きてりゃ何があるか分からないとは言うが……こいつを拝むことになるとはなぁ」


「しかし、カラーリングがデータと違うようだが……これは君の好みかね?」


「好みというか……」


 一瞬、トワラに視線をやってしまうけれど、トワラは生で見る叛逆(リベリオン)に感激している様子で気付いていない。


 ガランドとバルサは気付いていたけれど、特に何を言う事も無く暁の次の言葉を待つ。


「まぁ……好み、だったんだと思う」


 このカラーリングにしたのは、暁がトワラの騎士である事を示すためだ。流石に全体を橙色にするのは元の色合いが好きだったので(はばか)られたけれど、トワラが寝る間を惜しんで考案してくれたこのカラーリングはとても好きだ。トワラが考案してくれたからというだけでなく、派手な見た目では無いというのが好ましいのだ。


 暁はトワラの事を知っていた。けれど、トワラは暁の事を知らない。暁が気絶した後、トワラに暁との接点を問うてみたけれど、トワラの記憶にはかすりもしなかった。


 厄介なストーカーかとも思ったけれど、暁のトワラと距離を置こうとする態度を見るに、そういう類いの輩では無い事が分かる。


 いったい暁の中ではトワラはどういう認識になっているのかと、トワラの秘書官であるバルサは気になるところではあるけれど、変に拗らせた厄介な変質者で無いのなら今は良い。自分が注意を向けていれば良いだけの話なのだから。


 しかし、並々ならぬ事はあったのだろうなと、暁の眼を見て確信はする。


 暁がトワラに向ける視線は親愛と困惑だ。親愛していたからこそ、トワラが自分を知らない事に困惑しており、距離感を掴みかねているのだろう。


 と、バルサが暁に関してそんな考察をしていると、暁はラッドに言う。


「盾は、あんまり重くない奴が良い。それと、ちょっと乱暴に動こうと思うから、肩にも小さな盾を付けておいて欲しい。後、加速器(ブースター)推進器(スラスター)のメンテはしっかりやって欲しい。出来れば、駆動系も問題無いか見て」


「注文クソ多いな!! てか、これ俺いじれるか……? 伝説の機体だろ……?」


「大丈夫。パーツは既存の物使ってるから。知識があれば整備は出来るから。あ、けどエンジンはいじらないで欲しい」


「そりゃまたなんでだ?」


「ブラックボックスエンジン使ってるから。いじられると困る」


「ブラッ!? お、お前、マジで言ってんのか!?」


「当り前だろ? 叛逆(リベリオン)なんだから」


「マジかよ……」


 げんなりとしたような表情を浮かべるラッド。


 しかし、分かっているのは暁とラッドだけらしく、他の面々は話しの無いように着いていけていないようだった。


「ブラックボックスエンジンとは何かしら?」


 トワラが暁に問えば、暁が答える前にラッドが答える。


「ブラックボックスエンジンっつうのは、どうやって動いてるのか分かんねぇエンジンつうことっすよ。これも大戦時代のエンジンなんすけど……なんでか、こいつは壊れない。それでいて、起動すれば無尽蔵にエネルギーを放出し続けるっつう、有り得ないエンジンなんすよ」


「そう。それはまた、凄いのね」


「凄いなんてもんじゃねぇっすよ!! 身体が持つ限り永遠に戦い続けられるんすよ!? 歴戦の猛者がこいつに乗りゃあ、一機当千っすよ!!」


「まぁ……!」


 ラッドの言葉に、上品に驚くトワラ。


 ラッドの言う通り、ブラックボックスエンジンの内部構造は分からない。どう動いていて、どう組み合わさっているのかも分からない。その上、不滅であり永久機関であるというのだ。


 解析がされないのは、壊したらそこでお終いな点と、中のエネルギー源が何であるのかを特定できないからだ。だからこそ、ブラックボックスエンジンの数には絶対数がある。


 ブラックボックスエンジンは全てで七つ。その全てが叛逆の七機(シリーズ・リベリオン)に搭載されている。


 機体の破損が無い限り、永遠に動き続けられる。だからこそ、叛逆の七機(シリーズ・リベリオン)が戦場に立てば、戦況が大きく変わるのだ。


 他に類を見ない機動性。倒さない限り戦い続ける不屈の機体。そこに、叛逆の七機(シリーズ・リベリオン)で戦える超一流の操縦者(パイロット)。そして、もう一つ搭載された叛逆の七機(シリーズ・リベリオン)に搭載された特殊技巧。


 その全てが合わさった時、彼等は一機当千の猛者となる。


「この機体と、貴方さえいれば……」


「と、思うだろうけど、実際そんな上手く行くもんじゃない。装備のリストを見せて貰ったけど、俺の主武装(メインウエポン)も此処には無いし、何より一機当千が出来るのは、殲滅戦の時だけだ。普通に戦えば、ちょっと動きの良い機体ってだけだよ」


「む……」


 希望を見出したように呟かれたトワラの言葉に、しかし、暁は冷静な言葉で水を差す。


 せっかくの気分に水を差されたトワラは、皮肉の一つでも言ってやろうと暁を見たけれど、その横顔を見て言葉を飲み込んだ。


「……護れないんじゃ、一機当千だろうが意味が無い……」


 悲し気な、過去を悔やむようなそんな言葉。


 しかし、そんな感傷も一瞬の事。暁は直ぐに常の表情に戻ると、視線を叛逆(リベリオン)からラッドに向ける。


「盾はこれとこれ、散弾銃(ショットガン)はこいつを用意しておいて」


「わーったよ。ったく、人使い荒ぇ奴」


「それが仕事だろ。防衛戦なら、絶対に準備は怠りたくないんだ」


「……そうかよ。じゃあもう邪魔はすんなよ。俺は今からこいつにかかりっきりになっからよ」


「ああ。分かった」


 暁が頷いたのを見てから、ラッドは早速準備に取り掛かる。方針が決まれば、後は行動に移すだけだ。


 ラッドが準備に取り掛かったのを見て、暁は考える。


 どうにも、今回の事は敵が帝国だけではないように思える。


 そもそも、敵が帝国だけであれば、完全に武装をしてこの巨大移動旅団機(キャラバン)を護れば良いのだ。敵は簒奪(さんだつ)極まる大帝国。こんな不十分な装備や人員で挑む必要は無い。


 それに、此処は国内(ミラバルタ)だ。だというのに、商業艦と偽って移動する意味が分からない。


 賊がいるにしても、先程の通り最大戦力を持って防衛をすれば良いだけの話なのだ。


 会談に向かうのにお忍びで行く必要はまるでない。イラマグラスタも会談の事は知っているだろうし、敵対している訳でも無いのだから見境なく攻撃をしてくる事も無いだろう。


 大々的に移動をしないのは、大々的に移動できない理由があるからだろう。


「なぁ、ト……姫様」


「なんでしょう?」


「敵は本当に帝国だけなのか?」


 暁が直接そう問えば、トワラの表情が険しくなる。


「何故、そう思うのです?」


「姫様であるあんたがこんな偽装をして国内をうろつく必要を感じられない。あんたが移動するなら、サンサノーズだけじゃなくて、サンサノーズ・ジェネラルで護衛をすれば良いだけの話だ。ジェネラルには少量ながら黄昏鉱(トワイニウム)を使ってる。剣としても盾としてもサンサノーズだけよりも何倍も安全になるはずだ」


 サンサノーズ・ジェネラルとはミラバルタの上級騎士に与えられる特別な機体だ。


 暁の言う通り、サンサノーズ・ジェネラルには黄昏鉱(トワイニウム)を使用しており、剣と盾は黄昏鉱(トワイニウム)を使用しており、装甲の表面には二センチ程の厚さで覆っている。


「そうじゃなくても、あんたの直属部隊である黄昏の騎士団(トワイライツ)を使えば良いだけの話だ。黄昏の騎士団(トワイライツ)には各人に専用機が与えられてるはずだ。戦力としても申し分ないし、あんたの直属の部下であればあんたが自由に使えない道理はない。ましてや、あんたは国の命運を左右する会談に赴く身だ。護りを手薄にする意味が無い」


 離しながら、暁は自分の中で情報を整理する。


 暁は決して馬鹿ではない。これでも、トワラの騎士を務めていた。少なからなずミラバルタの派閥内のやり取りや駆け引きを見てきた。そして、トワラの一の騎士として隙を見せる訳にも行かないので、トワラとは反対の派閥の相手には警戒をしていたりもした。


 ゲームの頃の知識を総動員して、考えられる可能性を導き出す。


「あんたの敵ってのは、帝国だけじゃなくて、帝国派の人間……つまり、身内も含まれるって事で良いのか?」


 暁の問いに、トワラは悲し気な表情を浮かべて俯きがちになる。


「はい……現在、ミラバルタの派閥は大きく二分されています」


「同盟派と帝国派の二つか?」


「はい」


 やはりと、暁は納得をする。


 ゲーム内でも、その二つの派閥に二分されていた。トワラは戦わずに戦争を終わらせる事を考えてはいたけれど、帝国は完全に戦う事しか考えておらず、終戦のための議会を開きたいというトワラの言葉には耳を貸さなかった。


 しかし、これは仕方のない事なのだろうと思う。政治というものがゲームに実装されているとはいえ、そこはゲーム的におまけであり、ただのやり込み要素でしかない。ロボット物のゲームであれば、戦って勝ち取りたいと思うのが普通だろう。


 根底がゲームであるからこそ、ミラバルタの派閥も両方とも戦う事を選んでいたのだ。


 現実となった今では戦わない道を選ぶ事もあるかもしれないけれど、帝国の現状を見るに戦わないという選択肢が無い事が分かる。


 ゲームでは偽りの歴史――設定だった帝国の過去だけれど、今では紛れもない事実なのだ。略奪をして領土を増やしてきた帝国が、今更略奪以外の道を選ぶとは限らない。ましてや、自分達がミラバルタを支配すれば黄昏鉱(トワイニウム)の利権の全てが手に入るのだ。終戦の提案など受け入れるはずもない。


 そこで、帝国派と同盟派に分かれたのだろう。そして、隠れて移動をしている事から、トワラは同盟派。そもそも、同盟を結びに行くとトワラは言っていたけれど。


「わざわざ隠れているのは、帝国派の貴族連中にバレないようにするため。サンサノーズしか使えないのは、あんたが動いている事を悟らせないため。んでもって、帝国派はすでに帝国と繋がっているから、味方では無く敵となって嬉々として帝国に報告するから、と」


「はい……」


 トワラがこそこそ移動しているという事は、トワラは帝国派を黙らせる事が出来なかったという事だろう。


 事情は分かった。内にも外にも敵がいるお姫様。


「なんだ、変わらないじゃないか……」


 あの時と同じだ。あの時も、内側と外側に敵がいた。立ち位置は、変わらない。


「その、私達と同時に、国の同盟派にも動いてもらっています。帝国派の貴族の説得や、帝国に密告をしていた貴族の制裁を並行して進めています。ですから――」


「ああ、別に事実確認がしたかったから聞いただけだ。手を貸すって言ったんだから、あんたらに手を貸すよ」


 暁が自分の立ち位置を憂慮しているのだろうと思ったトワラは、口早に国内の整備も進めている事を説明しようとしたけれど、暁は興味なさそうに答えた。


「そう、ですか……」


「それに、子供は見捨てられないだろ」


 自分が戦う理由はそれだけで十分だ。


「そういう坊主も十分ガキに見えるが……坊主、いくつなんだ?」


「十五」


「十五!? で、あの操縦技術かよ……」


 末恐ろしいな、こりゃあと感嘆とも呆れともとれる言葉を漏らすガランド。


「私よりも年下なのですね……」


「何か問題が?」


「え?」


「戦えれば、問題ないでしょ。あんたは人の事じゃなくて、自分の事考えな――いでっ!?」


 どすんっと、頭に衝撃が走る。


 見やれば、バルサの手が手刀の形をしており、その目は子供を諫める大人の眼をしていた。


「不敬だぞ。口を慎め。それと、少し言葉を選べ」


 最初はトワラの秘書官として、後半は大人として子供を叱り付けるために。


 バルサの言いたい事が理解できたのか、暁はバツが悪そうな顔をする。


 自分でも、少し言葉に刺がある事は分かっていた。しかし、どうしようも無く苛立ってしまうのだ。トワラの顔で、トワラの声で他人行儀にされてしまうと、心がささくれ立ったように苛立って仕方が無い。


「……悪い……」


「いえ。事実ですから」


 言って、トワラは自嘲気味に笑みを浮かべる。


 苛立っていたとはいえ、そんな顔をさせたかったわけではない暁は少しだけ反省をした。


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