自覚と無自覚
瘴気地帯を抜けたところで帰還石を使用してバートル村へと戻る。ドズレさんがまだ戻って来てないようでちょっと驚かれたのはさておき。
状況をティガーさんに説明し、『瘴気の解決はまだだけどドラゴンが直接攻めてくることはほぼない』とひとまず安心させてから、討伐方法の模索のために拠点へと帰還した。
「白竜ゼピュロス、ですか……」
これまでの経緯の説明を終えて、フリッカが難しい顔で呟いた。
今ここに居るメンツはわたし、ウル、フリッカと、会話にはほとんど加わらないけどフィンも居る。レグルスは休息も兼ねてひとまずグロッソ村に残して行った。
なお、ウルの争奪戦の話も一応したけど、わたしとウルが相当げんなりしていたせいか、空気を読んで触れないことにしてくれたようだ。
「通常状態なら何とか出来るとは思うんだけど、瘴気を纏ってるのがネックなんだよねぇ」
と言うか瘴気モンスター多すぎ。今後は瘴気対策も本腰を入れて行かないとなぁ。
「いつぞやの木の時のように、聖なる矢をリオンが使えばよいのではないか?」
「それも一つの手だね。フリッカ、後で協力してもらっていい?」
ウルの提案はもっともだしわたしも考えていたことだ。フリッカは「もちろんです」と快諾してくれた。
でもこの対策には懸念点もある。
ゼピュロスが風属性であり、風のバリアでわたしの矢が逸らされそうと言う点だ。
なのでこれ以外にも攻撃手段をいくつか用意しておきたい。
遠距離攻撃の手段は大まかに三つ。
一つは弓や投擲用槍などの武器の使用。弓はわたしの役目として槍は……たとえ聖属性が作れてもわたしじゃ力が足りなくてまだ弓の方がマシだし、ウルだと壊しそうだな……。そこまで丈夫な素材がまだないからね……
二つ目は魔法。……フリッカが魔法を使えるけど、聖属性だと彼女が昏倒してしまうかもしれない。さすがに戦闘中に倒れられると命に関わるので勘定には入れられない。
三つ目はアイテムだ。しかし空に居るモンスターが相手となると結局投擲系となり、弓と同じようなコースを辿ることになる。何か工夫を凝らさないと……。
あれくらいの高さなら石ブロック積んで直接攻撃出来るのでは?と一瞬思ったけど、どう考えても登ってる途中に落とされるか足場を壊されるかしそうよね。
「逸らされないほどの質量のある物を使用すれば良いでしょうか?」
重量級の物を投擲すると言えば攻城戦の時に使うカタパルトとかだろうか。でもわたしはレシピを知らないし、仮に手作業で作れたとしても的がデカすぎて即ぶっ壊される未来しか見えないな……。
いっそ石ブロックに聖水をぶっかけてウルに投げてもらう方がいいかもしれない。でもあの聖属性の威力が神子のボーナスが入ってる可能性もあるのでまだまだ他の手段も欲しいな。
うーむ、ゲーム外機能を使う発想力が足りなすぎる……ウンウン唸りながら考えていると、ウルが「そう言えば」と切り出してきた。
「リオン、雷属性の触媒をもらってただろう? スパークなんとかと言う魔法の籠ったアイテムは作れないのか?」
「あー」
スパークフィールドは痺れの状態異常付与が出来る魔法だ。広範囲であるので高速で動いているモンスターならともかく、移動制限があるゼピュロスなら避けられることも早々なさそうだ。
ゼピュロスの問題は空を飛んでいることでもある。スパークフィールドを使用すれば痺れてポトっと地面に落ちてきて、そこをフルボッコすれば良いのでは? と言う意見のようだ。
瘴気で減衰される上に風属性であるゼピュロスに風の派生属性である雷がどこまで効くかはわからないけど、試してみる価値はあるだろう。後で作っておこう。
所変わって作業棟。
アイデアも行き詰まってきたので一旦ストップして、まずは確実に使うであろうセイクリッドフレイムの魔石を作ってもらうことにした。
わたしとフリッカだけで作業は出来るのだけど、ウルとフィンも「ヒマだから」と言う理由で付いて来た。ウルなら体を動かしに行きそうなものだけど珍しいな。
取り出した魔石は六個。少ないと思うかもしれないけれど、セイクリッドフレイムの魔法を篭めるにはちょっと良い魔石が必要であるし、そもそも魔法一回だけでフリッカがダウンしてしまう程で負担が大きすぎるのだ。
……頼めばいくらでもやってくれるだろう。でも、そう言う相手の好意に付け込むようなのは……何か嫌だ。切羽詰まってるならともかく、現時点でゼピュロスの討伐する必要性は感じないし。
なので魔石があまりないからと言う理由を前面に出している。嘘ではない。
フリッカは魔石を取り手の上で弄ぶように転がしてから、どこか深刻そうな顔をわたしに向けてくる。一瞬『え? バレた?』と思ったけど……全然関係なくてちょっとホッとした。
「……リオン様。魔法を篭めるのは構わないのですが……代わりに一つお願いを聞いていただけないでしょうか?」
「ん? いいよ。こちらもお願いしている身だからね」
何だかんだで控えめなフリッカが希望を主張してくるのはレアだ。大変なことを頼んでいるんだし今なら何でもするよ? ……出来る範囲でだけど。
そして何故かチラリとウルの方を見てから告げられた『お願い』に、わたしはつい吹き出してしまう。
「白竜の件が終わってからでもいいので、抱き締めていただけませんか?」
「――ブフッ」
……はい……?
「……無理でしょうか」
「え、あ、いや、無理ってことはない、けど……!」
わたしが返答に詰まっている間に拒絶と取られてしまったのか、不安気に俯かれてしまった。
い、いやいやいや、そういうことじゃないんです。ただ唐突にそんなこと言われてビックリしたと言うか何と言うか……!
「えぇと、逆に聞くけど、その程度でいいの……?」
「……つまりもっと先のことを望んでも良いのですか?」
思わず聞き返してみたら、フリッカはわたしに向かって一歩、二歩近付いてきた。
わたしの頬に手を添え、じーっと近い位置で見詰めてくる。ち、近い近い……!
何も言えずに口をパクパクとさせていたら、フリッカはそれ以上何をするでもなく離れていった。
「無理そうですね」
ぐ、ぬぅ……一体何を頼む気だったんですかねぇ……いやいくらわたしでも察することは出来るけれども。
それは、その……うぅ……くそう、この程度でめっちゃ動揺するチキンハートで恥ずかしい……!
「……な、何でまた急に」
「いえ、ウルさんが羨ましいと思っただけです」
出し抜けに名前を出されたウルが目を瞬いてるのが見える。ついでに言えばその隣でフィンがぷぅと頬を膨らませている。……そ、そんな顔されても。
ウルは首を傾げて、何事かを考えているのか視線を彷徨わせてから、フリッカに……ではなくわたしに問いかけてきた。
「ときにリオンよ、我とフリッカで随分と態度が違うのだな?」
「え? ウルとフリッカは違うヒトなんだから、態度も違ってくるのは普通では?」
「……う、む……? そういうもの、なのか……?」
質問の意図がよくわからなくて思ったままの回答をした。
のだけれども、それはウルに、と言うよりフリッカに不評だったようで眉尻を下げられてしまった。
「……リオン様、その答えは……」
「……ちょっとウルちゃんかわいそうなの……」
えっ、何が? フィンまで呆れたような目で見て来てるんですけど?
わけがわからないよ、となるわたしに対して小さく溜息を漏らしつつ、今度はフリッカがウルに尋ねた。
「ウルさんも、そのような質問をすると言うことは……自覚されたと言うことでしょうか?」
「む? 何がだ?」
「……そうではないようですね……」
「……こっちもこっちでダメみたいなの……」
ウルも質問の意図がわからなかったようで疑問で返したら、わたしの時と同じように姉妹揃って溜息を吐いていた。
……えぇ……?




