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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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意外な素材の入手

 翌朝、グロッソ村に少し顔を出してちびっ子たちに癒されてからバートル村へと移動する。

 ……同じ獣人ビーストの村でこうも違うのは、大人の比率のせいもあるのだろうか……あの風習はバートル村だけだと思いたい。

 とは言えアルネス村でも変な風習があったからね……とフリッカを微妙な目で見てしまったら不思議そうに首を傾げられた。いやごめん、きみに不満はないです。


 まずは昨日の戦場(笑)の後片付けから。非常に面倒くさいと言う顔になるのは仕方ないことだよね。ウルに申し訳なさそうにされたのですぐに戻したけれども。

 その次は村中を回って壊れたままの部分、耐久値がかなり減っている部分の修復である。わたしが知らない様式もあって勉強にもなるので一石二鳥だ。

 移動中、作業中に、騒動に加わったらしき人たちに謝られたけれどそれは全然問題ない。中にはまだ諦めず襲い掛かってきた人も居たので、それはサクッと足元を掘って埋めて放置してやった。その中でも更に極一部が「戦え卑怯者!」とか叫んできたので石ブロックを上に追加しておいた。ハハハ。……武器で戦えば確かに負けるだろうけれども、攻撃アイテムを使わないだけ有情だと思ってほしいな?

 そんなこんなで直ったかに思われたウルの機嫌は低空飛行。アルネス村とは別の意味で居心地が悪そうだ。


「す、すまない……」


 顛末を誰かから伝えられたのだろう、慌てて走ってきたエリスが出会い頭に謝罪してきた。

 いやまぁうん、きみは一回でスッパリ諦めただけ十分マシよね。それとも(こっそりブーストしたけど)ちゃんとした戦いで勝ったからかな?

 ガタイの良い女性も険しい顔でやって来てちょっと警戒してしまったけど、わたしに申し訳なさそうに謝ってから埋められた男性を掘り返し、男性が再度騒ぎ始めたのを「敗者がグダグダみっともない!」と腕力グーパンで黙らせて引き摺って行くので、冷や汗を掻きながら横目で見送る。

 などとやっているうちに周囲に人が増えてきた。割合は女性と子どもが大半だ。


「神子様、そんな細っこい姿なのに結構強いんだねぇ」

「あいつが埋められてるサマを見て、神子様には悪いけど笑っちまったよ!」


 特に責められるでもなく和やかな雰囲気にわたしは内心ホッとした。わたしの戦い方が正道ではないのは理解しているからね、場所柄によっては受け入れられないかもと思ってたからさ。

 そして話を聞いているうちに、意外にもわたしは評価されてるのだな、と気付く。


「えぇ? だってそりゃ、大人数の馬鹿相手に一人で立ち回ったんでしょ? 肉体が全てというヤツも居ることは居るけど、あたしゃ神子様も十分にすごいと思うさ」

「そっちの角のねえちゃんもメチャクチャスゴかったけどな! 俺は遠くから見てるだけだったけど、ゴブリンたちが次々にぶっ飛ばされてく様子はいっそ爽快だったぜ!」


 戦いを見てた人も見てなかった人も、口々に褒めてきてくれてこそばゆい。ウルも温度差に目を白黒させているようだ。

 レグルスは活躍がなかったけど「アンタもそれなりにやるんだろ? 今度手合わせしよう!」と言われてたりする。……頑張れ?

 そんな中、エリスがこんなことを付け足してくる。


「あー、あと、私の父上も褒めてたよ。と言うか最初から好印象だったね」

「……最初から?」

「だってリオン、父上の眼光から逃げなかっただろう? あれ、ウチの者達みんな背筋を凍らせるんだよね。だから『意外と胆力があるな』って」


 ……あぁ、最初の。

 でもあれ……わたしの側にウルが居たからなんだよね……虎の威を借る何とやらの気分だよ。

 ……これも黙っておこう。



 昼過ぎにはわたしに埋められることが広まったのか、しつこい人が少なかっただけか、言い寄ってくる人は居なくなっていた。ふぅ。

 わたしは引き続きウルと一緒に村の中を回り、レグルスは同じ年ごろの少年たちに引きずられもとい誘われて訓練に行った。

 エリスはあれからしばらく共に行動していたけれども食後には「仕事がある」と別れ、今わたしたちと一緒に居るのはバートル村の司祭さん――妙齢の兎の獣人の女性、ラディさん――だ。

 ラディさんと一緒な理由は、単に現在わたしたちが居る場所が祭壇前だからである。


「神子様には昨夜お手をわずらわせてしまったようで……」

「いえ、あなたのせいではないでしょう」


 何のことかって、聖水散布の件である。ラディさんは騒動で怪我した人たちを癒していたとのことで、その後に慌てて作業を行おうとしたらすでに聖域化されていてびっくりしたそうだ。怪我させたのはわたしだけど……降り掛かる火の粉を払っただけだから仕方ないよね。

 まぁそれでもしわ寄せをさせてしまったのは事実なので、お詫びとしてMPポーションを少し渡しておいた。


「このような貴重なものを……重ね重ねありがとうございます」

「えっ? 初級ですよ? 作れる人居ますよね?」

「……それが……」


 ラディさんの言によれば、この村の人たちは肉体派が多く錬金含むモノ作りをする人は少ないらしい。後は大雑把な性格の人も多くて、きっちりとした製薬となると難しくなるのだそうだ。なお、武器防具だけ例外でやたら器用な人も居るとかなんとか。

 ……うぅん……わたしの鍛冶はスキル頼りなので教えられることはほぼないし、それ以外となるとこの村にモノ作りのあれこれを教えるのは厳しいかな……いやしかし試しもせずに諦めるのもな……。これも落ち着いたら考えるか……。


 祭壇周りも耐久が落ちていたので修復して、掃除を手伝って、聖域展開アイテムの作成をする。

 ラディさんはこの地を保たせているだけあって、そこそこスキルレベルが高いようだ。わたしはいつも聖水で済ませているのだけれども(それが一番作成コストが低いし、拠点近辺は平和なのでそれでも十分通用するからランクを上げる必要がないのだ)ラディさんは聖石を作成していた。

 聖石とは、聖水が水をベースとするのに対し、魔石をベースとすることで作成出来るアイテムだ。一定間隔を空けて円を描くように地面に埋めることでその内側が聖域化される。水より魔石の方が当然コストが高いのだけれども、その分強力になるのである。ただ一日で効果が切れてただの魔石に戻るので、毎日交換しなければいけないのが地味に大変なのよね。


 そして締めにお祈りタイムとなるのだが、そこでラディさんは何かを取り出し、風神の像の前に設置してある供物台に置こうとした。


「あれ、それは何です?」

「神子様であればご経験がないのでしょうか。これは風神様の怒りが落ちた場所に偶に遺される物です。私共はこれを祀り、風神様に怒りを解いていただくように祈るのです」


 「最早形だけの行事とも言えますが……いっそ神罰だとしても風神様に御姿を見せていただきたいです」と苦笑するようにラディさんは続ける。

 ……まぁ、それは、うん。頑張ろう。


 しかし遺物……生成アイテムかな。わたしの探求心が疼いたので頼み込んで見せてもらう。

 それは表面がザラザラした白っぽい石で――


「……は?」

「どうした、リオン?」


 意外すぎるそれに、思わず間抜けな声を上げる。

 わたしが手にしたそれは、ただの石などではなかった。


「……フルグライト」

「何だ? それは」

「……雷属性を帯びた触媒」

「む?」


 つまり……これがあれば雷系の魔道具が作れると言うことである。それゆえわたし含むプレイヤーたちは雷石と呼ぶことが多かった。

 風神の怒りが落ちた――先日のティガーさんの話によるとつまりは雷が落ちた場所だ。

 ゲーム中盤以降でならそれなりに手に入るけれどもこの段階で見かけるなんて、これも制限が外れた影響なのだろうか。

 ……この前アルタイルと遭遇した場所に行けばまだ落ちていたりするのだろうか。探しに行きたい……と言う気持ちはぐっと飲み込む。今はちょっと時間がない。


「ラディさん。この石もらっても良いですか?」

「え? ……いえ、神子様なら大丈夫でしょうね。ただ、翌日以降にしていただいてもよろしいでしょうか?」

「それでも十分です。ありがとうございます」


 これはただの偶然か、それとも創造神か風神の思し召しとでも言うのだろうか。

 どちらにせよマイナスになることはないだろう。わたしはありがたくもらっておいた。

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