守られてるばかりじゃなく
「えっと、そのドラゴン、襲っては来てないんです?」
「幸いと言うか何と言うか、咆哮を聞いたのと上空にそれらしき影を見ただけで、実際にそいつが攻めて来たことは今のところない」
……それひょっとして、わたしたちが雷雨の中で遭遇したアルタイルではなかろうか? いや当然違う可能性もあるけど、こんな近くに二頭もドラゴンが居るとは考えたくない……。
雷に打たれた記憶はほぼ残ってないのだけれども、全身に負った火傷がわずかに蘇ったように肌がチリっとした。
でもそれ以上に……お隣さんが非常にピリピリとしているんです。相当腹に据えかねたんだろうねぇ……死にかけた本人は前述の通り記憶にないからあまり気にしてないのだけども。レグルスもウルの状態からその可能性に気付いたのか、ごくりと喉を鳴らしていた。
急に機嫌が悪化したウルにティガーさんは怪訝な視線を向けるが、わたしが『大丈夫です』とでも言うように手を振ると話を続けた。
「ともあれ、ドラゴンが居座っている、と言うことぐらいしかわからんな」
ふむん、なるほど。
でも馬で二日の距離か……結構狩りで周囲をうろついてるようだし、そんな事態になるまでに気付けなかったのかな?と疑問が湧いたので聞いてみたら、ティガーさんは渋い顔をしながらも答えてくれた。
「あの方向は風神様の怒りに触れて焼かれたとされている廃村があるのだ。それゆえ俺たちは近付かないようにしていたのだが……まさかこのようなことになるとは忸怩たる思いだ」
自分たちが畏れて放置していたせいで、と罪悪感を覚えているようだ。
むーん、風神の怒りとドラゴンと、何か関係あるのかしらん……?
「その村に他に特別な何かがあった、とかはわかりません?」
ティガーさんは周囲の幹部の人たちに「知っているやつは居るか?」と聞くと、誰もが首を横に振るだけだった。
ゴブリンやコボルトなら廃屋に住んでいてもおかしくないようなイメージがあるけど、わざわざヒトが住んでいた村をドラゴンがねぐらにするとかあるのだろうか?
ゲーム時代においてドラゴンは大体ボス扱いだ。重要なヒントのある遺跡の番人だったり、ドラゴン素材でしか作れない重要アイテムがあったりした。
そんなドラゴンが棲み付いたと言うのはたまたまなのか、実は財宝が埋まっているとか何らかの意味があるのか、廃村は近くにあるけれども原因は別で全く関係がないのか……まぁそこは考えても仕方ないか。
本当にそのドラゴンがアルタイルなのだとしたら現段階で再戦は厳しすぎるけど、その地がどうなっているかくらいは確認した方がいいだろう。わたしたちなら瘴気の中に入っても多少の時間なら大丈夫だし。
それに……ウルがものすごくやる気になってるみたいだしねぇ……行けないのならともかく、行きたくないと言う理由で避けるのはね……。
「事情はわかりました。明日……いえ、明後日くらいに見に行って来ます」
「……そうか、よろしく頼む。風神様については、狩りに出た時に何か変わった物が見当たらないか一緒に探させることにしよう」
「はい、お願いします」
一通りの会話が終わり、ウルがだるそうにしてきたところでお開きとさせてもらった。
いつもであればそのまま村に泊めてもらうのだけれども(向こうもそのつもりで空き家を整えてくれていたのでちょっと申し訳ない。またの機会に利用させてもらおう)帰還石も作ったことだし、今日は拠点まで戻って休むことにした。……ウルの気が立ってるからねぇ。
夜も遅いのでグロッソ村への顔出しは明日に回して、大きなあくびをするレグルスに「おやすー」と挨拶をしてから自室へと入る。
「ウルー、お布団ですよー」
「……うむ……」
かなりぐったりとして、最終的にはわたしが背負うことになったウルをそっと降ろす。
「もうちょっとだけ寝るのガマンしてねー。着替えようねー」
外着のままじゃダメなのでなんとか起こして寝間着に着替えさせて、わたしも今日はもう色々疲れて眠いからちゃちゃっと着替えて布団に潜り込む。
するとウルはいつものように腕にしがみ付いてくるので、わたしは体を横に向けてその背をポンポンと叩いてやった。
……エリスと戦わされて、村に着いたと思ったらモンスターが襲撃してきて、ウルのおかげで襲撃はあっという間に終わったかと思えば争奪戦が始まり……濃い日だったな。
「ゆっくりお休み」
「……」
「ウル?」
いつも通りであればそのまま眠りに落ちるウルであるが、今日は何やらもそもそとしている。……精神的に疲労して寝付きが悪いのかな。
人をあしらうことに慣れてなさそうなウルにあれは困るだろう。グロッソ村のちびっ子たちに纏わりつかれるのとは全然レベルが違う。大半は厳つい男性でみんな力いっぱい迫ってくるものだから。
ウルもまさかこんな形でモテ期が来るとは思ってなかったに違いない。わたしがその立場だったらめっちゃ逃げたくなるわぁ、と思わず遠い目になる。
「リオン……今日は我のせいで迷惑を掛けたな……」
「え? あれはきみのせいじゃないでしょ」
しおしおした声で言われたけどさすがにあれはウルに責任はなく、あの脳筋どもが全面的に悪いでしょうよ。どこをどうすればあんな思考回路になるのやら。ウチのウルさんは確かに強くて可愛いですけれど! ……こほん、そういう問題ではない。
しかしウルをまだ気に病ませるなんて、攻撃アイテムを使って徹底的に抗戦してやっても良かったかもしれない、なんて脳裏を過ったりした。……いかん、思考回路が脳筋になりかけている。
暴力的な発想を放り投げるように頭を振り、「気にしない気にしない」と語り掛ける。
「……リオン」
「うん?」
「守ってくれて、ありがとう」
ポツリと零された感謝の言葉に背中がむず痒い気持ちになり、自然と笑みが込み上げてくる。
まったく……一体どれだけわたしがきみに守られてると思っているのか。
それがほんの一部とは言え返せたことに(このような形であることに顔をしかめたくなるような気がしないでもないが)、ウルのためになれたことに、嬉しくなった。
「どういたしまして。……でも、言ったよね?」
「……何をだ?」
「戦いでない時くらいは、わたしがきみを守る番だよ」
……まぁあれはある意味戦いとも言えたかもしれないけれども、モンスターとの戦いではないと言うことで。
ウルの場合、下手に手を出すと文字通りミンチになっちゃうかもしれないから抵抗がし辛いだろうしね……もしもの時はちゃんと自分の身を優先してくれるといいんだけど。
うん……? もしかして『住人を出来るだけ敵に回したくない』というわたしの要望のせいもあって苦労させてるのか……?
「……うむ、言ってたな……」
心の中で唸ってるわたしを余所にウルはそう呟き、わたしの腕に額をグリグリと押し付けてくる。
気に病まれている時点で守り切れてない気もするけど……まぁそこら辺はアフターケアで……明日の朝食はウルの好物でも作ろう。
「……一応聞いておくけど、気が進まないなら残っていてもいいよ? ドラゴンのところに行く前に呼ぶから」
「……ならば我ももう一度言おう。リオンは放っておく方が精神的に良くない」
あっはい、そうでしたね。お手数お掛けします……。
「レグルスだけでは止められそうにないからな」って飛び火してるし……ご、ごめんよレグルス。
……しかし何と言うか、トラブルなくスッキリ終わることの出来た試しがほとんどない気がするな……? あれぇ……?
これまでのあれこれを反芻して眉根を寄せていたら、不意に胸に刺さる言葉が投げかけられた。
「だから……我を置いて行くなよ……?」
それは、『ひとりにしないで』と言っているようにも聞こえて。
……未だにわたしが死にかけたことを引きずっているのだな、と申し訳なくなった。
こんな心配をされる必要がなくなるくらいに強くならなきゃなぁ……。
「……うん、ちゃんと一緒に来てもらうから」
決意も新たにしつつ「約束する」と頭を撫でていると、程なくして寝息が聞こえてきた。
……おやすみ。




