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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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遭難少女

「あわわわわ、も、もしもーし、大丈夫ですか?」


 倒れている人に駆け寄り声をかけてみるも、全く反応はなかった。


「びしょ濡れだ……単に倒れているだけじゃなく、船が難破して流れ着いたとかかな……?」


 体の下にそこそこ大きな板切れが挟まっていた。きっとこれのおかげで沈まず、運良くこの砂浜まで漂ってこれたのだろう。


「ええっと……傷薬傷薬……」


 溺れないように水中呼吸できるアクセサリの作成は(スキルレベルが上がれば)できるけど、溺れた人を回復するアイテムなんて存在しない。ゲームでは呼吸ができなくなってしばらく経つと死に戻りしていた。

 わたしが傷薬を使用するのは死者かどうか確認するためだ。死者が相手なら使えないからね。

 結果、傷薬は消費された……つまりこの人はまだ生きている!


「ま、まずは意識の確認して、あればよし、なければ呼吸の確認、だっけ?」


 元の世界でも溺れた人の手当なんてしたことがあるわけがない。うろ覚えの知識を必死に手繰り寄せる。

 うつ伏せになっていた体を仰向けにする。そうすることでやっと顔を見ることができた。

 その人は、こんもり昆布の塊と思ってしまった、黒く長い髪をした綺麗な少女だった。


「引っ繰り返しても反応がないから意識はない……呼吸……もしてない! あぁもう心肺蘇生なんてやったことないんですけどおおおお!」


 口元に耳を近づけてみたけど呼吸音が聞こえないので、胸元に手を当てて押し込む。まるっきりの素人だけど、やらないよりは遥かにマシ!


「どうかこれで回復してえええ……」


 緊急時で同性が相手とはいえ人工呼吸するのはものすごく気が引ける。これでなんとかなってほしいという願いが届いたのか、やがて少女が飲んでいた水を吐き出し、自発呼吸をしだした。


「ああぁー……良かったぁ」


 安堵からか、汗もかいていないのに額の汗を拭う動作をする。

 モンスターの命を奪うことには(不本意ながら)慣れたけど、逆に誰かを助けたことなんて今までなかったから……ずっと独りぼっちだったからね!


 改めてまじまじと少女を観察してみる。

 年の頃はわたしより年下の十代前半くらいに見える。……わたしは体を作り直されたせいで多少若く見えるけど、これでも(ギリギリ)成人してるからね!

 目の色は瞑っているのでわからないけれど、肌はとても白かった。

 そして……ところどころに、髪と同じ色の鱗が生えていた。頭には一対の小さな赤い角、お尻近辺から尻尾も生えている。


「……リザードか……」


 リザードはその名前の通り、トカゲをベースにデザインされた種族だ。形態は二足歩行のトカゲから人間ヒューマンに鱗が生えた程度くらいまで様々である。どちらかと言えば前者が多い。

 だからなのか、リザードは場所によってモンスターとして扱われているところがある。

 ゲーム時代のストーリーにおいて、一歩対応を間違えると完全に敵に回ってしまう、逆に気を遣って対応して友好度を上げきれば味方になってくれる、要注意種族なのだ。

 なお、彼らの牙や鱗は良い武器防具の素材となるので、わざと敵に回す人も多かったという。味方になると自然に剥がれたやつや怪我で折れてしまったものを譲ってくれるようになるのだけれども、その友好度を上げるまでが大変なんだよね。

 それまでモンスターとして扱われてきたせいか初期は敵対的で警戒心も強く、味方になるまでのクエストが非常に多いのだ。敵に回してもストーリーの細部が変わるだけでエンディングに変わりはなかったから面倒くさがる人が多かった。

 わたし? さすがに会話できる種族と敵対するのは気分が悪かったので、頑張って味方になってもらいました。


 さて、今ここに倒れている少女はそんなリザードである。

 こんなご時世であるし、助けることで他の種族の友好度が下がるかもしれない。……ゲームで下がって色々大変だったんですよ……。

 それでも。


「……さすがに目の前で死にそうなのを放っておけるほど、図太い神経の持ち主じゃないですわぁ……」


 それが人間に近い形態をしているならなおさらである。

 でも、ただでさえやり直しができない現実リアルで、これから困難が増えるのかと思うと少しばかり憂鬱になってしまうのは許してほしい。

 せめてわずかでも心が軽くなるように、大きな大きな溜息を吐くのであった。


「早く目を覚ましてくれないかなぁ……って、あ、しまった!」


 鱗に気を取られてしまっていたせいか、少女がひどく震えていることに今気付いた。

 海水に長く浸かっていれば低体温症にだってなるだろう。ひょっとしたら肌が白いのは血の気が引いているせいもあるかもしれない。


「……仕方ない、帰ろう」


 アイテムボックスにも体を温めるアイテムは突っ込んでないし、近くに漁村は見当たらない――あったとしても快く迎えてくれるかは不明である――し、少女の手当をするには帰るという選択肢しかなかった。タイミングよくついさっき帰還石を作ったことだし、ここにはまたすぐ来ることができる。

 初期好感度がマイナススタートなので拠点で暴れられないかが不安だけど……そこはもうなるようになれだ。


 わたしは拠点に帰るべく、帰還石を使用するのであった。




 そこはかとなく申し訳なさを感じながらも緊急だからと割り切って少女の濡れた服を脱がせ、体を乾いたタオルで拭いて、わたしの着替えを着せる。ちなみにどれも綿で、布団と同時期に作った。

 うーん、やっぱお風呂は先に作っておくべきだったかなぁ。結構素材を使うし魔石の確保が手間だから作ってないんだよね。まぁおいおい考えよう。

 ベッドに押し込んで、布団を急遽追加作成していっぱい重ねて、少しでも温かくなるようにしておいた。

 部屋を暖めようにも暖炉は季節外れ――今は春だ――なのでまだ作っていない。作ろうにも毎度の如く素材がないのだけれども。


「さすがに室内で焚火は正気の沙汰じゃないしな……あ、そうだ」


 粘土で容器を作り、砂を詰め、木炭をそこで焼く、火鉢のようなものを作成してみた。これで部屋が暖かくなるだろう。

 創造神が「制限が消えた」と言っただけあって、レシピ外のものが色々作れるようになってるんだよねー。で、手作業で作成したものをレシピ追加することで、以後作成メイキングスキルで作ることが可能になったりする。


「んー、目が覚めた時のためにスープでも作っておくかな。……あー、コンソメスープとか飲みたい……」


 元の世界ではコンソメスープの素一つで作れたけれど、自分で作るとなると大変手間がかかって、つまりはスキルレベルが足りない。

 悲しみに暮れながら土鍋でミルク卵スープを作り、バタバタしててお昼ご飯を食べそこねていたな、と自分用に魚を焼く。地味にSPがやばかった……まぁ切れても即死とかはないんだけども、LP・MPメンタルポイントは減っていくし全ての行動にマイナス補正が掛かるからね。


「おっと。待っている間、砂を焼いてガラスを作っておこう」


 寝室と作業室を行ったり来たりするも、少女が目覚める気配はなかった。

 傷薬を使用したらちゃんと減るし、頬に赤みも差してきたから大丈夫だとは思うんだけど……。

 夕方になり、夜になり、それでも目は覚めず、部屋の隅で毛布にくるまって体操座りをしていたら、いつの間にか寝てしまっていた。


 翌明け方、わたしがうつらうつらと目を開けた時……目の前に見慣れぬ――リザードの少女の顔があった。

 瞬時に状況を思い出し、『やっば!? 襲われる!?』と身を固くしたその瞬間。




 ――ぐぎゅるるるる




「……オナカ、すいた……」

「……へっ?」


 大きな音とともに、少女はわたしの膝の上で崩れ落ちるのだった。


 ……アッハイ、SP切れですね……。

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