災い転じて福となす?
「……レグルス兄?」
隣に座っていたリーゼが疑問の声を投げかける。
彼女からしても、レグルスが大怪我をして帰ってきたのは背筋の凍る思いであっただろう。……あ、後で謝っておこう。
心配させられたと言うのに「悪いことばかりでもない」とわたしだけでなくレグルスからも言われてしまっては、『何言ってるの?』って反応になるのも仕方ない。
「まぁちょっと見てなって」
リーゼにニヤりといたずら小僧のような笑みを向けてからレグルスが立ち上がり、少し下がってから拳を前に付き出した構えを取る。
「ぐぬぬぬぬぬぬ……っ」
全身、特に拳に力を入れているのか、プルプルと震えだす。
眉は寄り、歯を食いしばり、唸り続けること十秒弱。
――パチッ!
「……っ!?」
乾いた音と共に、灯りのせいで見えにくかったが――その拳から紫雷が小さく放たれた。
言っては悪いけど『静電気?』とか一瞬思ってしまった。
しかしそのような感想を抱いたのはわたしだけだろう。
何故ならこの世界に、電気をエネルギーとして扱う技術も、発電と言う技術も存在しないのだから。
雷属性魔法は存在するけれども非常に難易度が高い。レグルスが魔法とも言えないほんの一端ではあっても使用したことに、わたし以外の皆が目を丸くしていた。
「ぜぇ、ぜぇ……どうよ!」
「うそ……雷の魔法……レグルス兄が?」
レグルスは魔力はあっても身体強化がほんのり使えるくらいで、魔法は使えなかったらしい。……神子は身体強化すら使えない。そのかわりバフアイテムは山ほどあるんだけどね。
そんな彼が唐突に魔法(のような何か)を使ってみせれば、面食らうことだろう。
ウルも感心したようにレグルスを見たが。
「レグルスよ、その他には何が出来るのだ?」
「え? これだけだぜ」
「……そ、そうか……」
返ってきた潔いとも言える言葉に、そっと目を逸らした。
いやまぁ仕方ないよ。覚えたてなのだろうからね。
それはそうとして、わたしも気になる。
さっきまで上手く言語化出来なかったが、レグルスのそれを見てやっとわかった。
わたしの体に『雷が宿った』ような感覚があるのだ。
ゲームにおいて、落雷を受けてもダメージを喰らうだけで何のメリットもなかった。雷エネルギーを何かに転用することも出来なかった。
本当にただの自然現象であり、攻撃手段でしかなかったのだ。
それがまさかこのような結果に転ぶだなんて、皆に心配かけたのは本当に申し訳ないけど、嬉しい誤算でもある。
だってレグルスが出来ると言うことは……わたしにも同じことが出来る公算が大きい。
つまり……魔法が、使えるようになるのかもしれない……!
ずっと、ずーっと使えなかったからね! ひょっとしたらわたしが魔法を使うコツとかわかるかも!
……と期待して聞いてみたのだけれども。
「レグルス、それどうやってやったの?」
「ん? ……気合!」
あっはい。
ダメな回答にわたしは早々に彼から教わるのを諦めた。レグルスよりももっと魔法に詳しい人に聞いた方が良いだろう。
「フリッカ、後で魔法を使う感覚を教えてもらってもいい?」
「……そのように仰ると言うことは……リオン様も?」
「多分」
そもそも魔法が全く使えないのだから確証はないのだけれどもね。
……最悪、雷の感覚があるだけで結局使えないままと言う悲しい事態もあり得るけど、そこは試してみないとわからない。……使えるといいなぁ。
「あ、そうだレグルス。訓練をするのはいいけど、使用には気を付けた方がいいよ」
「威力が高いからか?」
「それもあるけど……わたしの知る限り闇魔法と同じく、特定種族とモンスターのみが使える属性だからね」
「――」
ハーピーを始めとした風魔法が得意な種族の中でもレベルが高い者が使えるのだが……彼ら彼女らはリザード同様に地域によってはモンスター扱いされる種族だ。
だから状況によっては……雷魔法を使うレグルスはモンスターと見なされてしまうかもしれない。
余計な混乱や摩擦を生み出さないためにも、使用には気を払わなければならないだろう。
「……わかった。肝に銘じておく」
後は雷に対する注意として、きっちりコントロール出来るようになるまで金物厳禁、武器防具を身に付ける時は絶縁体を挟むこと、燃えやすい物の近くで使わないこと、などあれこれを説明しておく。
まぁさっきの様子からするとしばらくはちょっとピリっとする、それこそ静電気のようなものだろうけど、性質は知っておかないと後が怖いからね。
しかし、他の誰も使えないものだから手探りになるのはちょっと不安だなぁ。暴走して黒焦げ、なんて事態が起こらないようにしないと……。
でも……それ以上にワクワクしている自分が居る。
事は『魔法が使えるかも?』と言うだけではない。
電気が使えるかもしれない、と言うことに繋がるからだ。
つまり、電化製品が作れるようになるのかもしれない。
いやまぁ冷蔵庫などはわざわざ電気を使わなくても、氷魔法を篭めた魔石で代用が出来る。
けれども『電気で動く物』はそれこそ山のようにある。動力源としての期待がとても大きくなることだろう。
……難点としては、誰も『科学』を知らないし、わたしも物が動く仕組みなどほとんどわからないので、これも手探りで始めなければいけないと言うことだ。
だとしても。
『モノ作りの幅が広がるかもしれない』
それだけで、わたしの心は弾む。
「……リオンよ、また随分と楽しそうであるな」
「――はっ」
どうやらまた顔に出ていたようだ。ウルに何だか呆れたような、どこか恨めしいような……いやこれは拗ねたような? そんな視線が向けられる。
誤魔化すようにコホンと軽く咳払い。
「えぇとその、得られたモノもあると言うことだから、ウルもあんまり気に病まなくていいよ、と言う話で……」
「……そうか」
うぅむ、また俯いてしまった……これは後で時間を取って話し合った方がいいかな。
何をどう話せば良いのか見当も付かないけれども、放置したらこじれそうな気がする……。
そんなこんなで雷の話は一旦終了。
反省会と言う体だったけれども……具体的な反省が出来てないな。アルタイルは現時点で対応が難しく天災のようなものだし『雷雨の時は頭上に何もない場所で行動するな。逃げろ』くらいしか言えない気がする。
なのでわたしは、今後の話をすることにした。
「えーっと……レグルスはどうする?」
「何の話だ?」
「……その、まだ付いて来るのかな、と思って」
天災のようなものとは言え、わたしがレグルスを危険に晒したのは事実だ。
この後リーゼに、ひょっとしたらライザさんにも叱られるかもしれないし、以降のレグルスの同行に難色を示すかもしれない。そもそもレグルスが付いて来たがらない可能性も――。
「いや、むしろ絶対に付いて行くべきだと思ったよ、オレは」
「……レグルス?」
意外にも、ずっと強い意志を篭めてきた。
思わずリーゼの方を見るが……困ったように苦笑はしたものの、彼の言動を否定する気はないようだ。二人の間で既に話はしてあったのかな。
「今回みたいに、リオンが怪我した時に連れて帰れるヤツが必要だろ?」
……それは、確かに。
元々これまではわたししか帰還石が使えなかったけれども今は違う。
そしてウルが帰還石を使えないのだから、わたしとウル以外にも最低もう一人は居た方が良いと言うことになる。
「そのようなお話であれば私もお供したいところではありますが……まだフィンが不安定なのでいずれの機会に、ですね」
「あたしも付いて行くべきかと思ったけれども……リオンさんが大怪我するような場所だと足手まといになりそう。もっとお母さんに稽古を付けてもらってからにするよ」
フリッカとリーゼは引き続き見送りらしい。
……うん、彼女達も加わってくれる時を楽しみに待っていよう。




