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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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昆布かと思ったら

 住人を探すといっても、半日で帰れる範囲内に制限したことでわたしの移動範囲が狭かったというのもあるけど、今のところ人の痕跡が発見できていない。

 なのでヒントもなにもなく、当てずっぽうで探すことになるのだけれども、ひとまず川沿いに下流の方へと向かうことにした。

 根拠としてはいくつかある。まず、プレイヤーもだけど、住人も水がなければ生きていけない。なので川沿いで暮らしている可能性は大いにある。

 そして下流へと向かえばやがて海へと辿り着く。ゲームでの経験上だけど、海沿いには結構漁村が多かったのだ。そちらの方も期待できる。

 たとえなかったとしても、海なら製塩できるし、エビやカニや貝、海藻類などの食料も豊富だし、砂からガラスが作れたり運が良いと砂金が取れたり、メリットも多い。


「ま、コンパスもなしに草原や森を移動するわけにもいかないしねー。その点川は辿ればいいだけなので便利だね」


 コンパスは最寄りの創造神の像を指し示すアイテムなのだけれども、作るにはやはりアイテムが足りなかった……鉱石類がね……。

 迷っても帰還石で帰ることはできるのだけれども、どこが捜索済なのかわからないというのもあるので、いずれは行かなければいけないけど現時点では遠慮しておきたい。


 SPが必要以上に減らないよう早すぎず、さりとて時間を無駄にしないためにも遅すぎず、一定の速度を保ちながら歩みを進めていく。

 足場が多少悪くても足をくじいたり、疲労で筋肉痛が発生したりしないのは助かる。この世界アステリアだからなのか神子だからなのか……一体どこからどこまで元の世界げんじつと同じなんだろうね。


 途中で野鳥を見つけては弓で狩り、新しい花を見つけては採取していく。創造神の像の周りに花が増えると良い影響があるからね。まぁ当然これも素材になるんだけど。

 鉱山とか見つからないかなーとほんのり願望もあったのだけれども、そもそも山がないわ。山以外に埋まってる可能性もあるけれども、さすがに掘っていては趣旨がずれる。


「うーん……まだまだっぽいなぁ」


 一日歩き通し夕方手前になったものの、まだあまり川は太くなっておらず、河口は遠そうだと判断をする。

 無理をして歩き続けたところで住人を見つけられる確率は低いだろうし、初めての場所で夜に移動するはめになるのはごめんだ、と野営の準備を始めた。

 テントを張り(家を作ろうと思えば作れるけど、時間とSPがもったいないんだよね)聖水を撒いてから、狩った野鳥を焚火で焼き、その合間に追加食糧を得るべく釣り糸を垂らす。


「ゲーム時代のマップの広さは魅力的だったけど……こうなってくると困るもんだなぁ」


 焼けた鳥肉に塩を振ってかじりながらひとりごちる。

 もちろんゲーム時代だって移動が面倒と思ったことはある。後に馬車とかゴーレム車とか色々な方法で解消できるのだけれども、それでも最初はとにかく自分の足で歩くしかなかった。

 思った以上に難儀なことになるかもしれない、と思いながら釣った魚をアイテムボックスにしまい、テントに付属している寝袋に潜り込むのであった。


「おやすみなさい」




「あれは……橋だ!」


 代わり映えのしない道程に体でなく心が疲れを見せ始めたころ、やっと変わったものを見つけることができた。

 川の上に何か茶色いものがあるなぁ、倒木かな?と思っていたのだが、近付くにつれ徐々に詳細がわかるようになってきたことで、それは倒木ではなく橋だと気付いた。

 橋が架けられる理由は、当然人が使うためだ。動物やモンスターが作成したりしない。これは近くに住人が居るかもしれない、と期待したのだけれども……。


「……壊れてる……」


 経年劣化か、災害か、モンスターか。原因まではわからないけれど、その橋は真ん中から向こう側が崩れており、とてもじゃないけど使える状態ではなかった。


「うーん、渡れなくなっただけで橋の向こうに住人が居るかもしれないな。こちら側をしばらく探して見つからなかったらあっちも行ってみよう」


 わずかな光明が打ち砕かれたことで肩を落としながらも前向きに考える。くよくよしているだけじゃなにも変わらないのだ。


「さて、こちら側を探索……するにしても、それっぽい跡がないな。このまま川を辿るか」


 人が通る場所には自然と道ができるものだ。探せば痕跡が見つかるかもしれないけれど、そんな能力はないので当初の予定通りそのまま海を目指すことにした。




 そうしてまた夜を迎え、翌日のお昼前の頃。

 ついにわたしは辿り着いた。


「海だーーーーー!!」


 嬉しさのあまり思わず手を大きく広げ、大声で叫びながら駆け出す。砂に足を取られて転んでしまうのもご愛敬。

 少しばかりLPライフポイントが減ったのに、わたしの顔には満面の笑みが浮かんでいた。


「ははっ、当たり前だけど潮の匂いだ!」


 全身砂まみれにしながらも払うことはせず、深呼吸をする。潮でベタつく風すらも今は気にならない。

 とはいえわたしは日光浴に来たわけではないのだ。しばらく休憩を兼ねて堪能をしてから、身を起こして海岸線へと足を運ぶ。


「よーしよし、貝はいっぱいあるな。これで食事のレシピが増えるぞー」


 ざっくざくとシャベルで捕獲していく。ついでに、というかこちらの方が遥かに重要な砂を大量に採取する。これもワンクッション挟んだ後にブロックと化した。

 砂から作成できる一番の目玉アイテムはガラスだ。

 これでガラス窓が作れるし、ガラス瓶が作れるようになって傷薬の上位互換である回復ポーションが作成できるようになり、錬金スキルが進むことになる。その後は蒸留器やら大釜やらが必要だから本格的にはまだ無理だけれども。


「製塩システムはさすがに人の居るところで作りたいなぁ」


 岩塩は量が少ないので海水から安定して塩が作れるようになりたいのだけれども、そこそこ大きな設備が必要となってくる。

 そんな設備をこんな場所で作っては不便だ。ここを第二の拠点とする手もあるけれど、それは漁村が見つからなかった時の手段としよう。

 いやまぁそもそも素材が足りないんだけども。


「おっと、創造神の像だけは作っておこう」


 帰還石が作れるようになったことで利用できるようになったセーブポイントみたいなものだ。

 とはいえ作り放題とはいかない。像と像の間に一定の距離がないと帰還石は作成できないし、人が居ない場所に作って長期間放置しているとペナルティが発生するので考えなしに作成してはダメだ。あと、破壊神の力が強い場所で作るとすぐに壊れたりもする。


「創造神様、どうぞよろしくお願いします……。さて、漁村はないかなー」


 創造神の石像と祭壇を作成し軽くお祈り、帰還石を作成したところで、キョロキョロと周囲を見回す。

 それらしいものは見当たらなかったので、今度は海岸に沿って歩くことにする。足元チェックも忘れない。

 海岸には様々なアイテムが流れ着くこともあるのだ。なんの変哲もないアイテムの場合が多いけど、特に意味のない手紙の入ったメッセージボトルだったり、稀にイベント発生の起点だったりと様々だ。


「昆布もああやって流れ着いていたりするねー」


 視線の先に、こんもりと黒い塊が落ちていた。

 昆布はもちろん食材アイテムで、料理によっては味が良くなる、効果が高くなるので是非確保しておきたい一品である。


「ん?」


 よくよく見ると昆布の周りに白いものがまとわりついている。

 それは布のようであり、人の腕のようであり――


「って、あれは昆布じゃなくて髪の毛……人だああああああ!?」


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