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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風
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大河を隔てて様変わり

 最後にややバタバタしたけれども、無事わたしたちは大河を越えることが出来た。

 ロープを解……こうとして解けなかったので切り、付いた砂埃をパンパン叩いて落とす。そしてわたしはアリゲーターの素材の回収である。


「それも食えるのか?」

「わたしは食べたことないけど美味しいらしいよ」


 ウルの質問に答えながらテキパキと解体していく。まぁメインは肉より皮なんだけども。

 勿論種類にもよるのだけれども、獣の皮よりは爬虫類の皮の方が防御力が高いのだ。おかげで今の皮装備も少しグレードアップ出来そうだ。

 なお、神子の技能だと血抜きする必要がないので大変便利である。いつぞやのウルの手による爆散肉の回収の後にふと「血も回収出来るのでは?」と思いついてやってみたら出来たのだ。まぁとあるアイテムのレシピにとある生き物の血液もあるくらいだし、そういうこともあるのだろう。


「結構日も高くなってきたし休憩がてらご飯にしようか。わたしは下拵えしてるから、二人は竈に火を熾してくれる?」

「うむ」

「了解だぜ」


 手を水で洗ってから、各種材料をアイテムボックスから取り出して準備開始だ。

 肉は熟成させた方が美味しいとは聞くけど……そのうち冷蔵庫モドキを作るか。夏になると必須だし。あー、冷凍庫もあるといいよなぁ。アイスとかかき氷とか食べたい。

 などとつらつらと考えながらも慣れたもので手は動いており、適度なサイズに切り分けられた肉に塩胡椒をしっかりと揉みこんでいた。

 フライパンに火を掛け採れた脂と一緒に焼きながら、パンも串に刺して炙っていく。後は野菜も食べさせないとな。ウルとレグルスは放っておくと肉しか食べなさそうなタイプだし。


「お待たせー。ワニ肉ステーキと野菜炒めだよ」

「「いただきます!!」」


 いつもの通り二人は美味しそうにガツガツ食べてくれるが、わたしとしてはこれはこれで美味しいものの、やはりタレが欲しい感がある。

 醤油と味噌はホンマ見つかってほしいですわ……もしくは豆から作れるのかな……いやしかし醸造知識がない……。でもソースなら頑張れば作れるかな。あれは野菜と果物が原料だった記憶がうっすらと……。元の世界でも多少の料理くらいはしてたけど、さすがに調味料作成なんてしてなかったからなぁ。


「リオンが何か難しい顔してんな。メシが口に合わなかったのか?」

「あれは『もっと美味しいモノが作れるのに……』と言う顔だな。悩んで解決してくれる方が我もより美味い料理が食えるようになって助かるわ」


 おっとバレてる。そんなにわたしはわかりやすい顔をしているのだろうか。



 食後はいつものセーブポイントとしての創造神の像と祭壇作りである。

 今回は簡易版に加えて自動聖水散布装置も併せて作成していく。


「む、像だけではないのだな?」

「こっち側で村を見つける、もしくは仮拠点を作るまでは残しておきたいからね。万が一の時に大河を渡り直すのも面倒でしょう?」

「なるほど」


 毎回アリゲーターに襲われるとは限らないけれども、毎回二時間舟を漕ぐことになるのは手間だからね。

 とりあえず一か月分くらいは聖水を仕込んでおこう。モンスターに襲われなくても自然災害で壊れる可能性はあるのだけれども、そこはもうどうしようもない。


「帰還石も作成して……レグルスの分も作っておこうか」

「おう」


 よし、これで準備オッケー。先に進む……前に一度戻ろうかな。



 拠点で一泊した後、とりあえずは適当に北に向かって歩いて行く。

 ごろごろと石の転がっていた河原を抜けたが、視界に建造物らしき物は見当たらず、丈の短い草と背の低い木がまばらに生えているだけだった。


「我らが今まで居た所に比べると寂しい感じだの」

「そうだねぇ」


 季節は夏前だと言うのに植物の色はくすんでおり、まるで秋のようにも見える。そう言う植生なだけかもしれないけれども……自然について詳しいわけでもないから判別が付かない。

 しゃがみ込んで足元の草を採取してみるが、耐久値は減っているもののアルネス村の時のように衰弱しているわけではなさそうだ。

 単純に栄養――大地の恵みが足りないと言うことなのだろうか?


「リオン、石なんて積んで何作るんだ?」

「目印だよ。ここには何もなさすぎるから」


 標識の代わりだね、とレグルスに答えた。

 一応コンパスがさっき作った創造神像を指し示してくれるけどいつ向きが変わるとも限らないし、ここは通った場所だと目に見えてわかりやすくなる。

 ゲーム時代ならざっくりと道も整備した所だけれど、そこまでやってる余裕はないかな。

 しかし……本当に何もないな。


「草原と聞いてたけど……荒野って感じだねぇ」

「……その荒野を潤す数少ない植物をリオンが刈っているわけだが」


 ジト目でウルが見てくるが、わたしは弁明をせずスッと視線を逸らしていつもの逃げを打つ。

 アハハー……そこはもうクセなので……。だ、大丈夫、ちゃんと苗は植えていくから……!


 結局この日は(わたしの採取もあって少しだけ足取りも遅く)何も見つけられなかった。



 日が落ちる前に野営の準備だ。

 遮蔽物が何もなさすぎて丸見えなので、石ブロックで壁を作ってその中にテントを張り、広めに聖水をぐるっと撒いて行く。簡易トラップとして外側に穴も掘っておいた。

 土を掘って地中に空間を作って傍からわからないようにするとかも考えたけど、閉塞感でストレスが溜まりそうなのが難点なので今日はやめておいた。

 レグルスが不安そうに石壁を見つめてぼやく。


「……余計目立たないか? これ」

「この状況だと何をしても目立つよ。それよりも、いくら聖域化してもモンスターが侵入出来なくなるだけで矢や魔法は飛んでくるわけだからね、そっちを防ぐ方が優先かな」

「ふーん、そう言うもんか。見張りはどうするんだ? どの順番で交代する?」

「いや、この子に任せるよ」


 わたしはアイテムボックスから三十センチ程の小さな人形――警備ゴーレムを取り出した。鉄にわたしのMPメンタルポイントを篭めて魔鉄に変化させた後に魔導スキルで作った一品だ。

 小さいので大したことは出来ないのだが、聖域内への侵入(魔法等の飛来物含む)を察知するくらいならこれで十分である。いずれもっと大きなゴーレムを作って拠点警備として常駐させたい。


「へー、こんなのも作ったんだ。便利だな」

「睡眠は大事だからねぇ」


 ゴーレムの魔石にMPを篭め起動状態にさせてから、さっきからウルが静かなことに気付いた。


「ウル、大丈夫?」

「うむ……大丈夫ではあるが……今日は早めに寝たい所であるな……」


 ウルのことなのでわたしより体力がないと言うことはないだろうけど……うーん、この地でも夜はダメな感じなのかな?

 次からはもう少し早く設営を始めるようにしようと心に留め、石壁の内側で夕食を食べ、男女別のテントで就寝だ。

 寝転がった所でいつも通りにウルがわたしにしがみ付いて来る。


「寒い?」

「……すこし」


 わたしとしては体感ではあまり違いを感じられないのだけれども、これはわたしが鈍いだけなのかしらん……。

 レグルスは大丈夫なのかな、と毛布が要るかテント越しに尋ねてみたら必要ないと返ってきたので、ウルが敏感なだけかな。

 ともあれ風邪でも引かれたら大事なので毛布をしっかりと掛けて。……ちょっと暑い気もするけど我慢我慢。

 ポンポンと軽く背中を叩いているうちに、ウルは寝てくれたようだ。しがみ付いてくる力が少し弱まった。


「おやすみ、ウル」


 起こさないように小さく呟き、やがてわたしの意識も薄れていった。


 周辺にモンスターの痕跡として魔石がいくつか落ちてたくらいで、特に何事もなく夜は明けるのだった。ふぅ。

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