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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間二

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リオン観察記その二

 アルネス村でお休みの時も同じでしたが、リオン様の朝は早いです。大体夜明けと共に目を覚まされます。

 私としては昔に嫁教育として教わった旦那様の起こし方を試してみたかったのですが……試すまでもなく起きてしまうので少し残念です。


「あ、フリッカ、おはよう」

「……おはようなのだ……」

「リオン様、ウルさん、おはようございます」


 私が客室の外へ出ると同時に隣室の扉が開いて二人共出てきました。……一緒に寝られるウルさんが少し羨ましいですが、さすがに現状でフィンを一人にさせるわけにもいかないので。

 しかし、アルネス村ではそのような様子は見られなかったのですが、ウルさんが夜間に不調になり朝まで続くことがあると言う話は本当だったのですね。眠たそうに目をこすりながらリオン様の服の裾を掴み、ぼんやり歩く様は思いの外幼く見えてフィンと重なり、リオン様が「たまに庇護欲がそそられるのよね……」と呟くのもわかる気がします。

 なお、フィンはまだお休み中です。「子どもはちゃんと寝ないとね」とリオン様がおっしゃるので好きなようにさせています。たまに早く起きますが、大体は朝食の匂いで起きてきます。……食に不自由させた覚えはないのですが……それだけリオン様の料理が美味しいと言うことでしょうか。



 お二人と一緒に祭壇へと向かい、創造神様へお祈りをします。

 ……今日は創造神様は降臨されないようですね。その御姿を拝見出来るのは大変ありがたいことなのですが……頻繁に起こったら身が持たない気がするのです。

 お祈りの後は創造神様の像を磨き、花壇の世話の手伝いをします。リオン様は私の育てた聖花に助かったとおっしゃっていましたが、やはり神子の育てられる花は違いますね。私ですら『これは聖なるものだ』と良くわかる気配が漂っています。

 そして一段落した頃にリオン様は花壇の一角……あの墓に向かい、しばらく何をするでもなく、手を合わせるでもなく、じっと見詰めています。その心中は、私には察することは出来ません。


『……愛が欲しいよぅ』


 あの日、枕を抱えながら小さく零したその言葉は、まさしく『ただの人間ヒューマン』のようで。

 当然のように神子の技能を発揮されていますし、折々に出てくる言葉も考え方も神子の意識が染みついているように見られましたが……それが全てではないと言うことで。

 リオン様は……ご本人すら気付いてなかったようですが文字通りの意味で『ただの人間ではない』と言うのに、何ともアンバランスなことです。


「さて、次は外周をチェックしに行くよー」


 へにゃりと笑うその様子に影はなく、意外と(と言うのは失礼ではあるのですが)鋭いウルさんからも何もないので、きっと大丈夫なのでしょう。



 外周の次はリオン様にレクチャーされながら朝食の準備に取り掛かります。

 料理は多少は出来ると自負していたのですが……どうやらそれは過ちだったのか、リオン様の作業を見ると差が一目瞭然としています。

 『特別なことはしてない』とおっしゃっていましたが、一つ一つの所作がどれも丁寧なのです。やっていることは普通に見えるのに、私の技術が追い付きません。


神子わたしを目標にするのはいいけど、基準にするのはしんどいからやめようね?」


 この言葉を事前に掛けられていなければ、始める前から逃げ出しそうになっていたかもしれません。

 後、失敗しても怒ることなく、出来たことは素直に褒めてくださるので、練習してて苦にならないよう配慮していただけるのは大変助かります。……この方の場合は意識してではなく素の可能性も高そうですね。心の底から『モノ作り』が好きなようですので。


 正直な所、私自身は神子と言う存在に大した希望を抱いていませんでした。過去のアレ・・が特殊だったのだと頭ではわかっていても心が拒否していて、いっそ現れなければいいとすら思っていたこともあります。

 それでも心の根底では信じたかったのかもしれません。そうでなければ、創造神様に祈りを捧げ続けてなどいなかったでしょう。

 私の祈りを肯定されて、あんなに喜ばしい気持ちにはならなかったでしょう。

 ……まぁ、それもこの方から言われたことだからかもしれませんが。


 実際に神子リオンさまに遭遇してしまえば、暗澹たる気持ちを抱いたのは最初のうちだけでした。

 勿体ぶるでもなく能力を行使し、差し出したアイテムに対して過剰どころかさしたる対価を求めることもなく、惜しげもなく知識を公開し、ついでに言えば下心もなく。

 自身の好悪によって待遇に差を付けることはあるようですが神子として逸脱している程でもなさそうで、むしろよくぞあれだけ酷い状態のアルネス村を救ってくださったものだと頭の下がる思いです。

 そして……私も、救っていただきました。

 まるでそうすることが当たり前かのように、交換条件を提示することなく。……私を救う薬の対価に母を求めた義理の父とは大違いです。

 いえ、比べてはいけませんね。恐らくリオン様のような方が少数派なのです。


 短い付き合いとは言え余りにも多くのことが積み重なり、好意を抱くのは自然かと思うのですが……リオン様は自己評価が低いのでしょうか?

 ……私への信用がまだ足りないと言うのもあるでしょうね。精進することにしましょう。



 食後はフィンを連れて動物と作物の世話です。

 おっかなびっくりではあるものの、楽しそうに物事に励むフィンを見るのは初めてかもしれません。これも感謝することの一つですね。

 動物達と触れ合ったり、土に汚れながらも作物を収穫する光景はただただ平和であり、父に怯えて縮こまっていた頃を知る身としては感慨深いものです。

 しかし……作物はこのように早く育つものだったでしょうか……?


「我もこれは違うと思うぞ……」

「ですよね……」


 ウルさんと二人でしみじみと頷きます。

 フィンがこれを『普通』と思わないよう注意しておくべきですね。



 その後はウルさんの豪快な狩りの様子にフィンと揃って唖然としつつ、昼食を終え、自由行動となります。


「モノ作りなら教えられることも多いけどそれ以外はサッパリだからなぁ。フィンの教育をどうするかウィーガさんに相談した方がいいかな」

「……魔法はともかく、私への教育は特殊なので参考になりませんしね……」


 アルネス村では基本的に魔法と生活に必要な教育をされるのですが……私の場合は魔法と司祭業務と嫁教育でしたから。

 私が教えられたあれこれを実行したら、嫌がっていると言う程ではなくても困惑されたり、頭を抱えられたり、あまり歓迎されないことが多いのです。先日のお風呂での出来事などは「ダメ! 絶対!!」と力一杯否定されてしまいました。顔を真っ赤にして怒っていたので余程だったのでしょう。反省です。

 何が常識で何が非常識なのか判別が付かず、私も色々知っていかなければなりませんね。


 私とフィンは手持無沙汰なこともあり今日はリオン様のモノ作りを見学ですが……ウルさん以上に唖然とする場面が繰り広げられます。

 この日は建物の増築でしたが、それがあっという間に出来上がっていくのです。まさか一日と経たないうちに二十人は泊まれそうな規模の家屋が出来上がるとは思いませんでした。さすがに内装は一部だけでしたが。

 それにしても……何処をどうすればただの木塊がくっ付くのでしょうか……どうして一枚の壁のように変化するのでしょうか……アルネス村の神子の作った建築物はこうではなかった気がするのですが、リオン様特有の技術なのでしょうか……。

 とにかく、どれもこれも異質すぎて全く参考になりませんでした。


 リオン様はまた別の日は、いえ建築がイレギュラーだったのでしょう、作業棟でアイテムの作成か研究をしていることが多いです。

 薬の作り方については是非知っておきたいので私の作業を見てもらいながら、横でリオン様が作業をします。直接教えてもらえることは非常にありがたいのですが……時折、非常に集中できなくなります。

 例えば、ドロドロに溶けた鉄を前に変な笑い声を上げていたり。光やら爆発やらが発生してこちらの手元も狂いそうになったり。後は……真摯にモノ作りに向き合う姿に見惚れてしまったり、です。

 作業棟にウルさんは居たり居なかったりするのですが、このようなアドバイスをいただきました。


「適度にスルー出来るようにならないと何も出来ぬと思うぞ?」


 ……私は精神修行でもさせられているのでしょうか。

 たまに私の存在を忘れられることを少し寂しく思いつつ、もっと集中して頑張るべきだと思い直しつつ。

 ある日のこと。


「うーん……」


 作業台を前に腕を組んで唸っているリオン様が居ました。


「どうかしましたか?」

「フリッカ。丁度いいや。これ使える?」


 リオン様に小さな石のようなもの――帰還石を渡されました。魔力を篭めると創造神様の像の所へ瞬時に移動出来るすごい品物です。が、私には使えませんでした。


「だよねー。これをどうにかしてわたし以外でも使えるようにしたいんだけども……」

「これがリオン様の魔力で作成されているからでは? 使用した時に反発力を感じたのですが」

「……なぬ?」


 その意見が意外だったのか何度か目を瞬いてから何かに気付いたようにハッとして、私が持ったままだった帰還石をひったくるように持っていきます。


「これは祈りで出来上がる物で……つまりは大地の恵み……魔石と同じ代物……? そう言えば作成時に……これが………そうして……」


 手の平で帰還石を転がし、近付けて見て、遠ざけて見て。何をしているのか、何を言っているのか私にはよくわからなかったのですが。

 唐突に。


「ありがとう! きみのおかげで何とかなるかも!」

「――ふえっ?」


 リオン様は輝くばかりの満面の笑顔を見せ、私を抱きしめて背中をバンバンと叩いてくるのでした。

 何が起こったのか、私の脳が理解を示す前にそのぬくもりは離れてしまい――


「と言うことでフリッカ、この魔石に魔力を篭めてくれないかな!」

「え? え?」


 勢いに押されて何が何だかわからぬままに十個もの魔石に魔力を篭めて返し。

 リオン様は「ありがとう!」と叫んでからまた作業台へと向かうのでした。その集中力は凄まじく、もはや私の声は届かなさそうで。

 ……えぇと……今のは……。


「リオンが騒ぎだしたかと思えばまた静かになったな。よくあることだが」

「え、よくあるんだ……」


 ぼーっと反芻していたら、ウルさんとフィンがいつの間にかやって来ていたようです。

 これも意外だったのですが、フィンがウルさんにも懐いているのですよね。後に理由を尋ねてみたら「悪い人たちをばったばた倒してすごかったから」と言うことでした。なので一緒に体を動かしに行くことも増えていて。……その内武闘派にでもなるのでしょうか?

 ゆっくり振り返ると「どうかしたか?」とウルさんに首を傾げられます。そんなに私は変な顔をしていたのでしょうか。


「いえ……リオン様は大変可愛らしいですね、と思った所です」

「まぁ……そうであるな」


 苦笑しながらもリオン様を見守るウルさんは、こういう時は不思議と年上のように見えてくるのです。ご本人も何歳か知らないらしいですが、実はものすごく上と言う可能性もあるのかもしれませんね。

 私がそのようなことを思っていたら、当のウルさんから「ところで」と話を振られます。


ぬしは何時までリオンに様付けするのだ? あやつが礼儀だの地位だの気にしないのは既に知っておるだろう?」

「……私のこれは『旦那様』的なニュアンスなものでして」

「…………そ、そうか」


 ウルさんは何故か言葉に詰まり、そしてフィンは少し不満そうに頬を膨らませましたが、こればかりは譲りませんよ?

嫁教育とは一体(すっとぼけ

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