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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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後始末

 一連の事件の終わりから夜が明けて翌日。

 わたしとウルはイビルトレント討伐の疲れもあったし、アルネス村のいざこざには関係がないのでぐっすりと休ませてもらったけど、ザギさん、ウィーガさんは徹夜で奔走していたようで草臥れている。しかし一晩で終わるはずもなく、まだまだこれからやることが山積しているらしい。

 別にそんな忙しい最中にわたしを呼ばなくても……と思ったけど、早急に話を付けておきたい件があるとのことで。

 なお、この場にはわたし、ザギさん、ウィーガさんだけで、ウルもフリッカも居ない。


「神子様、異変の解決をしてくださり、誠にありがとうございます。アルネス村の代表としてお礼を申し上げます」


 ……ザギさんに真面目腐った顔で頭を下げられるとすんごい違和感あるな……さすがにこんな失礼なこと言わないけど。


「また、恥ずかしい諍いに巻き込んでしまい……申し訳ありませんでした」

「……感謝と謝罪は受け取ります。でも、そのためにわたしを呼んだわけではないでしょう?」


 ザギさんは「如何にも」と頷き、ウィーガさんが話を引き継ぐ。

 現在、長老トリオとフリッカ父を牢に放り込んで尋問中とのことだ。詳しいことがわかり次第教えてくれるらしい。


 しばらく後に教えてもらったことは、頭が痛くなることばかりだった。

 フリッカ父はただの馬鹿と言う結末になったが(とは言え、余罪がボロボロ出てきて罪は重いらしい)、カイナが汚染物投与以外にもやらかしていた。


 まぁ、カイナが原因とも言い切れないのだが……神子の墓に、延々と呪詛を吐きかけていたらしい。あと、糞尿とか動物の死骸とか、いわゆる『穢れ』を、あれこれと。

 この場合の呪詛は実際に呪いの効果が出るようなものではなく、単に恨み辛みをぶち撒けていたと言う話だけれど……それが本当の呪いへと変化する可能性も無きにしもあらずで。

 ちなみに恨んでいた理由は、モノ作りについて全く教えてくれなかったことらしい。こればかりは「……おのれ神子め!」とわたしも唸ってしまった。

 神子は全て自分の手でアイテム作成を行い、作り方を継承することは全くしなかった。カイナ達が薬作成について知っていたのは、神子が寝ている間に作業部屋に忍び込み、形跡から色々研究したからだと。……その情熱を正しく使ってくれれば良かったのになぁ。

 とは言え、モノ作りが必要だった理由が『村の支配のため』だったと言うのだからねぇ……作り方を教えるべきだったのか、教えなくて正解だったのか。悩む所だ。

 そして気付いたら骨壺を埋めた巨木がイビルトレントになり、瘴気を帯びるようになり……その時に拾った汚染された枝での支配を思いついたらしい。

 うん、あかんわ。


 なお、長老トリオの内の二人、アシュとオルトはほぼ関与していなかったとのこと。

 彼らがやったのはわたしへの斜め上の接待くらいだったからねぇ……絶対に断罪してくれ、って気分にもならないわ。


「問題は……誰から見ても明らかに、カイナとルーフが大きな罪を犯した、と言うことです」


 ん? ルーフ? ……話の流れからするとフリッカ父か。そんな名前だったんだな。


「それの何が問題なんです?」

「……ルーフの連座として、子であるフリッカとフィンにも刑罰が及びます」

「…………はい?」


 言われたことがすぐに頭に浸透せずに、わたしは呆然としてしまった。

 フィンはまだ幼いこともあって何もしてないだろうし、フリッカなどは父親に加害された身ですらあると言うのに……?


「そんな理不尽なことが――」


 あってたまるか、と叫ぼうとした所を、手を上げて止められたのでぐっと抑え込む。

 ……とりあえず話を聞いてからだ。さすがにわたしを苛立たせるためにこんな話をしてるわけじゃないだろうし。


「一応捜査は行いますが、直接的にも間接的にも被害を出していないと思われるので、強制労働の刑になるのが妥当でしょう」


 よく『一族郎党死刑だ!』となるお話は見たことあるけれども、そこまでではないようで少しだけホッとした。

 労働内容によっては相当苦しいことにはなりそうだけれど……続けられた言葉に、わたしは目を瞬いた。


「しかしながらフィンは小さな子でありますし、フリッカは神子様の嫁であるので不味いだろうと言う認識で……いっそのこと神子様の所で働いてもらおうかと思いまして」

「……はい?」


 え? フィンはともかく、フリッカの嫁話はまだ続いていたの?

 と言うような目で問うてみれば「そういうことにしておいた方が良いかと」と返ってきたので、わたしは渋い顔をして飲み込むのであった。

 そんなわたしの反応にザギさんから意外すぎるからかいが飛んできて。


「神子様は儂の可愛い曾孫に不満がおありで?」

「めっちゃ可愛いと思ってますし不満もないですけど、それは別の話ですよね?」


 反射的に答えたらウィーガさんに吹き出された。……ちょっと! 確かにアホな回答だと思わないでもないけど、わたしにとっては重要なことですからね!

 こほんとわざとらしく咳払いをしてから、ザギさんの方へジト目を向ける。


「ザギさんはわたしのことを嫌ってそうだと思ってたのですけど、よくそんな可愛い曾孫を預けようって気になりましたね?」


 わたしは忘れてないですよ。初日にめっちゃ嘲笑されたことを。根に持ってるわけじゃないけど。

 けれども、皮肉げに帰って来た言葉でわたしは自分の考えの至らなさに気付き、土下座したい気持ちになった。


「あぁ……対話を試みようとせず、神の名と感情で押し切る様にどこぞの愚かな神子を思い出してしまったもので……すみませんな」


 あああああああごめんなさいごめんなさい!

 言われてみればそうですよね! 勝手に印象付けて会話をしようとしなかったのはわたしですよね!

 冷や汗をだらだら流しながらぺこぺこしてたら鼻で笑われてしまった……うぅ、甘んじて受け入れるしかない……。


「ですが、儂もあの神子のことをいつまでも引き摺って、無関係である神子様につい恨みの感情を向けたのも事実ですな。大変失礼致しました」


 ここはお互い様で、と言うことになった。うん、気を付けよう……。


「えぇと、話を戻しますが、フリッカとフィンを預かるにあたり……一つ、いや二つだけ条件を出させていただきたいのですが」

「何でしょう?」

「まず第一に……この村を綺麗に・・・してくれないと、顔見せすらさせませんからね?」


 強制労働という体であるけれども、実質的には村から避難させると言う考えだろう。

 だからわたしとしては、たまには里帰りをさせたいと思ってはいるけれども……この村がずっと長老トリオが支配してた時のような体制では困る。

 直接的な改革には一切手を貸さないけど頑張ってくださいね、と言うメッセージだ。

 意図を理解してくれたのか、二人は神妙に頷く。


「そして二つ目は……」


 わたしは指をハサミの形にして(なお、ハサミはちゃんとアステリアにも存在している)、チョキチョキとジェスチャーをした。


「アレの罪状がどうなるかは知りませんが……少なくともちょん切って・・・・・・おいて欲しいなぁ、って」


 私怨だって? はいそうです。

 いやまぁ、アルネス村での刑法を捻じ曲げるようなら諦めますけれどもね。感情でゴリ押しはしませんよ? え、嘘臭い? ハハハ。

 あえて笑顔で言うわたしに対し、二人はほんの少し口の端を引き攣らせて。


「……神子様の嫁に手を出そうとした罪を追加して、そうなるよう最大限の努力をしましょう」


 あ、あれ……墓穴掘った……?

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