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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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何処までも救えない話

「さて……この件はおそらくお終いかな」


 ダンジョン核も浄化して収納したところで、辺りを見回す。

 これ以上動き出す枝も根もない。瘴気も薄くなっているし、時間経過と共に全て消えるだろう。森が戻るにはかなりの時間が掛かりそうだけれども。

 汚染された地面は……まぁ少しずつやっていこう。今日は何だか疲れたし、もう一仕事残っているのだから。


「どうしようかねぇ……」

「フリッカの父の話か?」

「……お手数をお掛けします……」


 フリッカが申し訳なさそうに縮こまっているけれども、きみが悪いわけじゃないからね。気にしなくていいのよー。

 それでも前回みたいに拒否してこない辺り、介入を認めてくれたのだろう。


「ウィーガに連絡が取れれば、事を起こす前に捕縛も出来るかもしれぬが……まぁ我らの帰還は目立つだろうな」

「だよねぇ」

「であれば、だ」


 溜息を吐くわたしに、ウルは指をピッと立ててくる。


「こういうのはどうだろう?」




 帰還石を使用して、わたしたちはアルネス村の創造神像の広間に戻って来た。忘れる前にまた帰還石を作成しておこう。


「じゃあウル、よろしくね」

「うむ」


 別行動するウルを見送り、わたしとフリッカは時間を潰してからゆっくりのんびり村へと歩く。

 やがて最初に見た、アルネス村の入り口の柵が見えてきた。見張りの人たちもあの日と同じように立っており、どうやらあちらもわたしたちに気付いたようだ。


「神子様、お戻りになられましたか!」

「俺は長老に知らせてくる!」


 一人が敬礼をして、一人が村の中へと駆け出そうとした、のだが。


「その必要はない」


 長老トリオの内の一人が、フリッカの父と一緒に現れた。……そしてフリッカ父は妹さんも一緒に連れてきている。

 ……うーん困った。帰ったら確実にアクションを起こすとは思っていたけど、ここまで早いのと、長老も一緒になるのは計算に入れてなかった。

 まぁ、村の中に入られたら困るのかもしれない。フリッカ父はあからさまにわたしの方を睨みつけており、帰還を労うと言った体では決してないようだし。

 長老は……確かカイナだったかな。名前はうろ覚えであるけれども、わたしが治療した時に苦々しげにしていたのは記憶に残っている。その人が、フリッカ父(そう言えば名前聞いてない。別にいいんだけど)を抑えつけるように肩を叩いてから前に出てくる。


「神子様、もう一人のお連れの方はどうされましたかな」

「……彼女は怪我をしたので療養中です」


 わたしのウソを信じたのか信じてないのか、どちらにせよウルに興味がなかったのだろう。特に問い詰めて来るでもなく鼻を鳴らして次の話題へと移る。


「帰っていらっしゃったと言うことは、異変は解決されたのですかな?」

「はい。今すぐに実感は出来ないでしょうが、徐々に森は回復していくことでしょう」


 わたしの説明に、段々集まり出したエルフ達から「おおっ!」っと喜びの声が漏れ出てきた。

 しかしカイナは眉を顰めただけで、全くもって嬉しそうではない。


「何か証拠になりそうな物はお持ちですかな? いえ、神子様を疑うわけではありませんが、我らとて不安は早々に拭い切れませんのでね」

「……周辺一帯がダンジョン化していたので、ダンジョンによる生気の吸収が原因でした。そしてこれが核だった魔石です。浄化済ですが」


 わたしはアイテムボックスから核を取り出し、見やすいように目の高さまで上げた。

 かなり大きい魔石なので、モンスターの魔石と間違うような人は居ない、はず。

 さて一体どういう反応をするのかな? 難癖くらいは付けられそうだ、と心の準備はしていたけれども……実際にはもっと酷かった。


「ははは、冗談がきついですな。……この墓荒らしが!」

「……は?」


 カイナの唐突な冤罪吹っ掛けにわたしは目が点になり、辺りはざわついた。

 そのままカイナは、遅れてやって来た長老トリオの残り二人に語り掛ける。


「アシュ、オルト。此奴が掲げている魔石に見覚えはあるだろう?」

「そう言えば、この大きさ……」

「父上の持っていた宝に似て……まさか?」


 彼らのいう父上と言うのはあの神子のことだ。

 この魔石が副葬品なのだとしたら、そりゃ見覚えがあってもおかしくないですよねー……!


「あぁ、そうだ。よもや我らにとって聖遺物に等しい父上の財宝を盗んだあげく、ダンジョンの核だったと大法螺を吹くとは……卑しいにも程があるぞ、人間ヒューマン! ……よもや、この異変自体が貴様の差し金ではなかろうな?」


 後者はさておき、前者はダンジョン化のことに気付いていなければそういう発想にもなるかもね?

 でも……残り二人はともかく、カイナは確実にこの異変に関する何かを隠している。何も知らないで差し出されたのなら、きちんと確認もせず、動揺すらせずにわたしを墓荒らし扱いなんてしない。隠したモノを誤魔化すために引っ掻き回そうとしているのでは……?

 そもそも何で部外者のわたしが宝の位置を知ってるんだ。植物含む超広範囲の衰弱付与だなんてどうやって人為的にやるんだ。

 こじつけにも程があると思うのだが……如何せん発言力がある長老の一人である。信じる者も出てくるかもしれない。

 明らかにおかしい発言ガバガバせっていであっても、偉い人に自信満々に言われてしまえば同調してしまう人は実際に居るからねぇ……現にざわめきが大きくなってきているし。


「いやしかし、この者の持ってきた薬で病人の容態は回復はしたぞ?」

「そう、だな……少しばかり口惜しいが、我らで治せなかった瘴気もな……」


 おっと、こういう感想が出てくるってことは、アシュとオルトとやらは白っぽいかな? 演技でなければ、だけども。

 そんな悩む二人を言いくるめるように、カイナはどんどん出鱈目で塗り固めていく。


「何を言う。此奴がばら撒いた病であれば、特効薬を持っていてもおかしくないだろう」

「「……な、なるほど」」


 なるほど、じゃないよ! やっぱダメだこの人ら!

 もうヤダ……何もかも投げ出したい……などと言うわたしの内心に気付くはずもなく、ザッと一歩前にカイナが詰め寄る。


「さて、言い逃れできぬぞ、盗人」

「わ、わたしは盗人なんかじゃない!」


 手に持った魔石を胸元に握り込み、詰め寄られた分後ろに下がる。

 「逃げるな!」「捕まえろ!」など野次も飛んできた。中には杖やら弓やら構えている人まで出てきている。

 もう一歩詰め寄られ、もう一歩下がったら。

 ドン、と何かにぶつかった。

 慌てて振り返ると……先程からずっと黙っていたフリッカだった。


「そ、そうだ、フリッカからも言ってやってよ! わたしはちゃんとダンジョン攻略してきたって!」

「……」


 フリッカは何も反応をしない。重ねてお願いをしようとしたら、怒声に遮られてしまう。


「フリッカ!!」

「……っ」


 声の主はフリッカ父だ。これ見よがしにフィンの肩に手を置き、杖を構えている。

 ……あぁ、あのニヤニヤ笑い。わたしに杖を向けようとしているのではなく、『いつでもフィンを加害出来るぞ?』と言うフリッカへの脅しなのだろう。


「もうわかっただろう? そいつは神子などという高尚な存在ではない、俺達の聖遺物を盗んだ大罪人だ。……殺して取り返すんだ!」


 『でないと、わかってるよなぁ?』と声には出さず、口の動きだけで伝えてきた。さりげなく杖の向きを変えるのも忘れない。

 命令違反で首が絞まってでも抵抗した時のためだろうか……ほんっっっとうに外道だな……!


「フリ――」


 ――トスッ


 わたしは、再度声を上げることが出来なかった。


 何故なら。


 フリッカがいつの間にか取り出したナイフに、刺されたからだ。


「……かはっ」


 騒ぎが一瞬止み、わたしの声がやけに大きく響いた気がした。

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