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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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地上へ

「骨壺って……あれよね。お葬式で火葬した後に残った骨を入れておく容器」

「はい。アルネス村では副葬品と共に納めて、大きな木の根元に埋めるようにしています」


 森と生きるエルフだから、墓石ならぬ墓木ってことなのかしらん?

 ほぼ火葬なのは日本だけで、外国だと土葬も多いと聞いたことあるけど……まぁこの世界は普通にアンデッドが発生するから残しておけないんだろうな。

 しかし……その骨壺がここにある、と言うことは。


「……神子の?」

「断言は出来ませんが、可能性は高いでしょう」


 そっと骨壺を掘り出してみると、下半分は割れて中身が飛び出しており、骨らしき白い破片が僅かにしか残っていなかった。アイテム名は【人間ヒューマンの骨】と出るだけで名前は表示されてない。モンスターの骨も種族名で出るからねぇ……個人の識別は出来ないと言うことなのかな。

 ……非常に気は進まないけどこのままにしておくのも違う感じがするので、ひとまずアイテムボックスに入れておこう。

 今回の騒動の元凶は、神子の遺骨と一緒に副葬品でダンジョン核を埋めて、長い時を経て悪い気が溜まったもしくは破壊神の侵食の影響でおかしくなったから、とか?

 だとしても、意識があるのは何なんだろうなぁ……?


 まぁここであれこれ考えてもわかるわけがない。立ち上がって、さてどうしようかな、と思った所で。


 ガッ ガッ


 と横から音がしてきて、根が動き始めたか!?と慌てて構えたら。


「リオン、やっぱりここに居たか」

「ウル!」


 周囲の土を殴って崩し、そこからウルがひょっこり顔を出したのだった。

 爆裂の矢の影響か煤けている箇所がいっぱいあるけれども、ひどい怪我はしてなさそうだ。

 元気そうな様子に大きな大きな安堵の溜息を吐き、力が抜けてへなへなと座り込む。


「リオン、疲れたのか?」

「それもあるけど……きみが無事で安心したんだよ」

「む……そうか……」


 はぁ、やっぱりはぐれた時に連絡が取れないのが辛い。通信機、せめて発信機を開発したいなぁ……魔石で何とか出来ないか要研究だ。


「ウルも核を目指してきたの?」

「それもあるが……何となくリオンの気配がしたのでな」


 ……わたしが発信機ですかい。ウル専用だろうけれども。

 ウルはそれからフリッカの方に顔を向け、「ん?」と首をひねり、何度か目を瞬いている。


「フリッカよ、何か良いことでもあったか?」

「え……何故ですか?」

「はぐれる前に比べて明らかに険が取れておる。まぁリオンが何かやらかしたのだろうが」


 いや、何かしたのはその通りだけど、『やらかした』って表現は一体何なんでしょうね……?

 今度わたしに対する評価を小一時間問い詰め……あ、いや、やっぱいいです。聞くのが怖い。

 そんな風にわたしが益体もなく考えている間に、フリッカが先程のことを掻い摘んで説明していた。

 すると案の定、ウルの怒りが爆発しそうになるのであった。


「そうか……フリッカのみならず、リオンの命まで……あやつ、相当自分の命が惜しくないようだな?」


 ものすっごい怖い笑顔である。わたしもちょっと「ヒエッ」ってなったよ……。

 ……怒りたくなる気持ちはわかるけど、爆発させるのはまた後でね。

 ともかく、ウルとも合流出来たことであるし、この後どうするかの相談だ。


「三回目の爆発で随分弱っておったので、畳みかければ良いのではないか?」


 とはウルの談だ。

 すぐ近くに居るのに攻撃がないのも、攻撃する余裕がなく、再生に専念しているのではないかと考えているらしい。

 だとしたら、間を空ければ空けるほどわたしたち以上に相手の形勢を立て直させることになってしまう。再生の折に周囲の被害が拡大するだろうし、そうなる前に一気呵成に攻め立てるべきか。


「ともあれ、このままここに居てはいつ埋められるかわからぬ。地上に出るべきだと思うのだが」


 ウルの顔が微妙にしかめられている。埋まり掛けた時のことを思い出したのかな。

 丈夫なウルだから早々圧死はしなさそうなイメージはあるけれども、酸欠ばかりはどうしようもなさそうだしね……。


 回復アイテムの数を確認して、爆裂の矢を追加作成して、出来る範囲での再決戦の準備を整えて行く。

 おっと、そうだ。


「出る前に嫌がらせしておこう」

「……嫌がらせ?」

「これをここに撒こうかな、って」


 取り出したるは聖水。

 ……の、いつもよりちょっと上のランク。毎度お馴染み聖花を加えて効果を高めたやつだ。

 イビルトレントの根元のようだし、たっぷり吸って苦しむといい……フフフフフ……。


 だばだばーっと持ってる聖水の半分くらい撒き、さて上へ向かって掘ろうかなと――


 ――グアアアアアアアアアッ


 くぐもった叫びが聞こえると同時にズズズっと根が動きだし……天井部分もそれに連動して崩れ始める。

 ……あ、やっば。

 これから引き起こされるであろう事態に、さすがの温厚な(?)ウルさんもわたしに向かって怒鳴るのであった。


「リオンのあほたれ!」

「ご、ごごごごごめん! すぐに石ブロックを――」

「いやもうよい、我に爆裂の矢を寄越せ!」


 内心で首を傾げながらもウルに矢を渡し、わたしはいつでも石ブロックシェルターを作れるように心の準備しておく。

 矢を手に持ったウルはいつかの槍投げならぬ銛投げの時と似たようなフォームを取り、決定的な違いとして、前ではなく上の方へと狙いを定める。

 そして、力の限りに投擲した。


「ぶち抜けえええええええっ!!」


 ドガガガガガガッ ゴバアァッ!!!


「うっひゃあああ!?」

「……っ」


 わたしが弓で撃つより遥かに勢いよく放たれたソレは天井部分を大きく穿ち。

 地上への大穴を開けるだけでなく頭上を覆っていたイビルトレントの枝葉も抉り飛ばし。

 わたしたちは、村を出た時以来の空を拝むことになった。

 落ちてくる砂と久方ぶりの光にわたしは目を細めて「さすがー……」とぼそっと呟く。フリッカは言葉もないようだ。


「呆けてる場合か! リオンは足場を積め!」


 そ、そうだった。

 わたしは螺旋階段状に石ブロックを積んでいき、全員が地上へと出られるようにする。根が暴れて落ちやしないかヒヤヒヤしているが、さすがに手すりまで付ける余裕はない。


 そうして顔を出した位置は運が良いのか悪いのか、核の真正面であった。

 にわかに混乱していたはずの黒い靄はたまたまなのか執念なのか、ばったりと目が合ってしまう。


 ――カエセ、カエセエエエエエエッ!


「渡すわけがなかろう!」

「そもそもオマエのモノじゃないっつの!」


 相変わらずフリッカを執拗に狙ってくる根をウルが殴り飛ばし、わたしは隙間を縫って矢を放つ。

 爆発でダメージを与えつつ視界を遮り、わたしたちは……距離を取らず、逆に接近していった。

 また石ブロック階段を作成し、核へと向かって駆け上がる。


「アイツの相手はわたしがする! ウルとフリッカは露払いをお願い!」

「……気を付けるがよい!」

「わ、わかりましたっ」


 二人が動きやすいようしっかりとした足場を作ってから、わたしは黒い靄――神子の亡霊と対峙した。


「さぁて、先輩・・……覚悟は良いでしょうね?」

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