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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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妄念は時を越えて

「……はっ!?」


 ガバッと身を起こそうとして、重しのような物が乗っていて起こせなかった。それに加えて目に映る光景が真っ暗で全く状況がわからない。

 やばい、まさか何かで潰された!?

 わたしは『圧迫ダメージがない』ことにすら気付かず、慌てて体の上に乗っている物を退けようとして――


「ふえっ!?」

「……おや?」


 どうやら乗っていたのはフリッカだったらしい。そう言えば直前で抱き着かれたような……。

 ……何処に触ったのかは考えないでおこう。



 おかげで冷静になったのでコホンと気を取り直し、わたしはランタンを取り出した。


「……地下の空洞?」

「そのようですね」


 高さは一メートルもない所から五メートルは超えている所までマチマチであるけれども、天井部分が木の根で覆われているのが共通している。

 ……黒いし、イビルトレントの根なんだろうなぁ。マジでめちゃくちゃ大きいのね、アイツ……。

 今居る場所は丁度そこそこ広い空間だったのか、横幅は前後左右三十メートルはある。支柱がないし上からもパラパラ土やら小石やらが落ちてきているので、いつ崩れてもおかしくないだろう。

 ついこの前、刺激した弾みでドバーっと降ってきて埋もれかけたからなぁ。いつでも石ブロックを取り出せるようにしておかないと。


「先程まで地上に居たはずですが……何故私たちはこのような場所に居るのでしょうか……?」

「んー……考えられるとしたら……」


 アレかな。ダンジョンの転移トラップ。

 巻き込まれるとダンジョン内の何処かにランダムで飛ばされるやつ。よっしゃ辿り着いた!と思った矢先にやられると腹立つんだよねぇ……ハハハ。まぁ飛ばされた先がマグマの海だったり水の底だったりしなかっただけマシだと思っておこう。

 しかしだとしたら、あのイビルトレントはやっぱりダンジョンでもあるのか、ただのガーディアンなのか……どちらにせよ核である魔石を砕くか聖属性アイテムで浄化するかしないとダメだな。


 ……アレは、決して残しておいてはいけないモノだ。

 この地が心配だとか、神子としての、ひいては創造神の名が地に落とされるとか、そう言う気持ちがないでもないけれども。


 ――わたしが神子であるからこそ、尚更許してはいけないモノだ。


 私利私欲を満たすのはまだ良いとしよう。わたしだってモノ作り欲でウルに何度も迷惑を掛けているのだし。いやホントごめんねウル。

 けれども、過剰に要求することも、力づくで他人を自分のモノにしようとすることも……それは悪党の所業だ。

 創造神の神子がやっていいことではない。創造の力でなく、悪意を振り撒いてどうするのだ……!


 ……怒るのは後にしよう、今は現状を何とかしないと。深呼吸深呼吸。

 何回か繰り返した所で、わたしは当のウルが居ないことに今になって気付いた。うーん、やっぱりメンタルが正常じゃないな。


「ウルー? 居ないー?」


 キョロキョロと周囲を見回しウルを呼んでみるけど……反応がないなぁ。

 転移時に離れていたし、巻き込まれなかったのか別々に飛ばされたのか。まずは合流を目指そう。

 その前に帰還石を確認して……うん、使用可能状態だ。万が一の時はウルには悪いけどこれで脱出させてもらおう。

 わたし以外でも使用出来る帰還石の開発をなるはやでやっておかないとな。通信チャット機能があるわけでもなし、はぐれた時が大変すぎる。


「そう言えば、フリッカも怪我はない? 大丈夫?」

「あ、はい。特に痛みは……」


 念の為、ランタンをかざして様子を探る。

 少々砂埃で汚れているようだけれども、血が出ていたりはしてなく…………待って。


「……フリッカ、首のそれ……」

「――っ!?」


 フリッカが慌てて手で隠すがもう遅い。

 突風で吹き飛ばされた時に緩んだのか風のマフラーが外れかけており、その下に隠れていた細い首……に、装着されている物を、見てしまった。



 【隷属の首輪】を。



 解除キーの持ち主の言うことを聞かなければ首輪が絞まり、キー以外で無理矢理外そうとすれば爆発すると言う、鬼畜極まりないアイテムだ。

 ゲーム時代では中盤以降、モンスターの勢力がかなり強い地域で創造神勢力レジスタンスのリーダーが捕まった時に嵌められていた。人質としてあえて確保しておくことでレジスタンスの心を折ろうという寸法だ。

 プレイヤーはモンスターたちが占領している古城に忍び込み、本を読んでキーの作り方レシピを手に入れて解除する、と言う手筈になる。その際、五回まで失敗が可能だったけれども、それ以上失敗するとやはり爆発してしまう。

 『実際に爆発するとどんな威力なんだろう?』とアカン感じの好奇心を持ったプレイヤーが居たが……リーダーは勿論プレイヤーも即死したらしい。レジスタンス達の好感度が急降下するというオマケ付き。


 そんな危険アイテムが何故こんな所に……ひょっとして神子の遺品か?

 プレイヤーも作ろうと思えば作れるのだ。モンスターに嵌めて爆殺するとか変わったことをしてたプレイヤーも居たりしたし。

 さっき神子っぽい黒靄は『その女は俺の物だ』と言っていた。

 ……まさか、自分の嫁全員にこれを嵌めていたんじゃなかろうな……。


「フリッカ、それはどうしたの?」


 神子への怒りで震えそうになるのを極力抑えながら尋ねてみる。

 しかしフリッカはただ俯くだけで何も答えなかった。……うん、質問を変えよう。


「……神子わたしには何も言うな、って命令された?」


 そう聞き直すと小さく頷いた。やっぱりね。

 ……しかしこれ『何も教えるな』って命令されてたら首が絞まったかもな……ちょっと安易に過ぎたか。今後……はないと思いたいけど気を付けよう。

 わたしはガシガシと頭を掻きむしってから大きく溜息を吐く。


「も、申し訳ありません……」

「あぁごめん、きみを責めたわけじゃないから。ともかく、解除キー作るから詳しく見せて」

「…………はい?」


 わたしの発言にフリッカが停止した。

 まぁ普通は『鍵を手に入れる』くらいはあったとしても、『鍵を作る』何て早々に想像付かないよね。

 しかしわたしは『解除キーの作り方を知っている』のである。少しばかり解読が必要になるけれども。

 首輪の何処かにランダムで記されている古代文字――住人が普段使っている文字とは違うので、よっぽど詳しい住人でない限りまずわからない代物だ――を解読して対応するキーを作る必要があるのだ。


「ほら、これをわたしの代わりに持って照らしておいて」


 持っていたランタンをフリッカに渡し、首輪を見ようとその顎をくいっと上げる。んー、こっちじゃない、後ろか。

 位置を変え髪を流すと、そこには確かに三つの古代文字が刻まれていた。


「えーっと……水神の正位置、光神の逆位置、火神の逆位置か」


 首輪に使われている古代文字は火水風地光闇の神様を表す文字と、それらの正位置と逆位置(逆さま文字)だ。古代文字は他にもあるけどそれ以外が出てくるパターンはなかった。……あったらさすがに覚えてなかっただろうな。

 しかし何で神様の文字なのだろう? 本来は神様ですら怒るような罪人に使う物だったのかな?

 答えの出ない疑問は置いておき、枝で地面にガリガリと文字と数字の対応表を書いていく。失敗は五回まで大丈夫とは言え、ここで間違えたら余計な恐怖を味わわせるだけになるので確認もしっかりと。


「よし。作成メイキング、【隷属の首輪 解除キー 二の十一の七】」


 魔石を手にスキルを使うと、形をぐにぐにと変えて小さな鍵へと変化していく。

 フリッカはわたしの作業を呆然とした面持ちで眺めていたが、ここに来てビクリと体を震わせた。


「失敗したら、って思うと怖い?」

「それ……は……」


 無理に外したら爆死するなんて聞かされてたら怖くもなるよねぇ。

 でもそこは実は保険もあったりするのである。


「昨日渡したアクセサリあるでしょ? 最悪それを装備してれば大丈夫だよ」


 そう、わたしが先日渡したアイテムは聖花から作った【セイブフラワーリング】だ。

 見た目は花で作られた指輪で、装備していると致死ダメージを一回だけ防いでくれる。ただし花が素材ゆえ枯れてしまうので三日しか使えない制限付き。

 だったら最初からゴリ押しでもいいんじゃ?って思うかもだけど、LPが一の状態で残るので多分めっちゃ痛い。痛いのは嫌なのです。

 しかしわたしの提案にフリッカは顔を蒼白にして。


「……申し訳ありません。残していく妹が心配だったので渡してしまいました……」

「わーお……」


 あー……まぁ、妹も首輪を嵌められるんじゃ?とか、嵌められないにしても危害を加えられたらと思うと、あげてしまう気持ちもわからないでもない。

 となると……これを渡すしかないかぁ。


「じゃあこれ、予備」

「……あったのですか」


 予備ではなく実は『わたしの分』である。勿論言わないが。

 期限の問題で作り貯めとかしてなかったからね……素材もそこまではなかったし。

 わたしはそれをフリッカの指に嵌めてあげるが、その手はまだ震えていた。


「後は、きみがわたしの作る物を信じてくれるかどうか、だね」

「……でしたら、信じましょう」


 フリッカは逡巡することなく言い放ち、背筋を伸ばして目を瞑った。ただしまだ少し震えているのは見て取れる。

 ……間違ってない自信は確かにあるのだけれども、そうも素直に信用を示されると何やら面映ゆいものがある。……ちゃんと信用に見合うだけの神子にならないとなぁ。


「じゃあ行くよー」


 わたしはあえて軽い調子で言い、首輪の解除をしようと手を伸ばすのであった。

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