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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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森奥の餓えた叫び

切りどころがわからなかったので、いつもよりちょっと長めです。

 ウルが飛び出すと同時に、わたしはまず足元に石畳を敷いた。これで地面からの攻撃はある程度防げるだろう。あとは不意打ちを食らわないように後ろにも石ブロックをセット。

 さすがにウルみたいな機動力はないからね、防衛地点を強化する方を選択したのだ。


「フリッカ、カッター系の魔法は使える?」

「風、水、どちらも使えます」

「どっち使ってもいいから、とにかくこっちに来る根を切りつつ、余裕あったら太いのを狙ってほしい。後、言わずともわかってるだろうけど大きい火魔法は取り扱い注意で!」

「……はい!」


 いくら再生能力を有しているとは言え、さすがに限界はある、はず。ひとまずは少しでも削ってLPを減らして行くしかない。

 ゲーム時代なら火事とか気にせず火魔法スクロールぶっぱとかしてたんだけど、さすがに現実でやるのは危険すぎる。飛び火によるダメージは元からあったけど、それに加えて酸欠になるとかもありうるからね……アルネス村が近いから当然山火事も駄目なわけで。


「喰らえっ!!」


 ドオンッ!


 ウルが一喝して幹へと拳を繰り出した。

 大きな音がして上の枝葉がワッサワサと揺れたが、キマイラ戦と同じく瘴気による減衰でそこまで効いてはいないみたいだ。

 イビルトレントは反撃とばかりに頭上から枝の槍を降らすが、ウルが腕を一振りすることでバキバキと砕け散る。

 幹が固いだけで枝や根はそれ程でもないようだね。しばらくは大丈夫だろうけれども……それでも物量が多い。


「ウル! 色んな位置から攻撃してみて!」

「わかった!」


 やはり削りながらも大元を断つ……魔石を狙うのが一番だろう。

 攻撃しようとした時、やたら防御が厚くなったらそこにある可能性が高い。


「ウインドカッター!」


 フリッカが魔法を唱えると共に不可視の風の刃が飛んで行き、わたし達を狙っていた太い根がバッサリと切れた。うん、なかなかの威力。

 しかし前面全てが攻撃範囲ではなく、次の魔法を使用するまでにいくらか待ち時間ディレイが発生するので、取りこぼしも出てきてしまう。


「やらせないけど、ね!」


 そこはそれ、わたしだってただ突っ立っているだけじゃないのだから、アックスでスコーンと良い音を出しながら切り飛ばした。

 フリッカにまず魔法を打ってもらい、ディレイ中はわたしが対処する、即席の連携だ。懐かしいな、マルチプレイでこんなことをしてた記憶が蘇るよ。

 しかし、ずっとこればっかりやっているだけだとジリ貧だ。こちらの消費とあちらの消費、どちらが早いかと聞かれれば……こちらだろう。


「す、すみません、魔力が……」

「おっと、これあげる。まとめて持ってて」


 何十発と魔法を打ち、息を切らしたフリッカにわたしはMPポーションを渡した。

 魔力自体はこれで回復するけれど……肉体や精神に掛かる負担はそうもいかない。

 ウルの方はどうだろうか。


「こんのおおお! しつっこいわ!!」


 次から次へとやってくる枝や根に辟易していても、怪我は負っておらずまだまだ動けるようだ。しかし、イビルトレントの方もダメージをそこまで負っているように見えない。

 魔石の位置がね……二人の攻撃に対する反応を観察しているが、今の所大きな変化は見られずにいる。やはりあの太い幹の中心なのだろうか。

 ……そう言えばあの目と口、木のウロなんだよね? あそこに攻撃出来れば体内に届きやすいかな? 高い場所にあるけど弓なら行けそうだ。

 わたしは時間を稼ぐために石ブロックで全体を囲い、バリケードを強化した。


「フリッカ、爆裂系の魔法は使える?」

「は、はい、フレアブラストでしたら……消費が激しいので一回だけですが」

「じゃあこれに篭めて。篭めた後はごめん、辛いだろうけどまたポーションで回復して、何時でも魔法を打てるようにしておいて」


 と、わたしは大きめの魔石――ダンジョンガーディアンだったオークの物だ――をフリッカに渡した。

 基本的に神子は魔法を使えないが、魔法を篭めたアイテムなら使える。代表例は前述したスクロールや……魔法の矢等だ。

 フリッカに「出来ました」と戻された魔石を手に、木の枝と鳥の羽も取り出す。


作成メイキング、【爆裂の矢】」


 一瞬の光と共に三本の矢が作成された。追加で聖水も矢じり(魔石)部分に振り掛けておこう。

 そしてわたしは弓を装備して石ブロックをずらし、矢は通るが根は早々通らない程度の隙間を作る。お城にある狭間のようなイメージだ。


「ウル! 大きめのを放つから避けて!」

「わかったのだ!」


 わたしが警告するとすぐさまウルはサイドステップを踏み、ここなら巻き込まないだろうという位置まで移動したところで。

 イビルトレントの目に向けて矢を放つ!


 ドゴオオオオンッ!!


 グアアアアアアッ


 矢が狙い違わず虚ろな目へと吸い込まれた瞬間に大きな音を立て、炎と衝撃が撒き散らされる。バリケードにガンガン木の破片やら石やらが飛んできて思わず首を竦めた。

 ……お、思ったより威力が大きかった……フリッカがかなり優秀なのは嬉しい誤算として、ウルは大丈夫かな? 瘴気に加えて煙やら砂埃やらで周囲が遮られて効果があるのかどうかも確認できない。

 視界が晴れるのをジリジリと待っていたら当のウルの叫び声が響いてきた。


「リオン!」

「ウル、大丈夫だった!?」

「問題ない! それより、まだあるならやれ!」


 ひえぇ……無茶振りだぁ……! さすがに見えない状態で当てる自信は全くないよ……!

 冷や汗を掻きながらイビルトレントの方を睨みつけていると、フリッカがわたしの後ろへ回り込んだ。


「リオン様、私が誘導します」

「……見えるの?」

「僅かですが魔力光が見えますので」


 まじか。エルフすごいな。

 しかしなるほど、こういう応用にも使えるのか……覚えておこう。魔導スキルレベルも早く上げたい……。

 弓に矢を番え、とりあえずさっき放ったのと大体同じような方へと向ける。


「もう少し右下……風がありますのでもう少しだけ右に……そこです」


 フリッカが耳元で指示をくれるのはいいんだけど……この非常時に耳がくすぐったいと気を取られるのやめようねわたし! 集中しようね!


「先程の攻撃の影響で左右に揺れていますが、その位置を通ります。タイミングは……三、二、一、今!」

「行っけええっ!」


 邪念を振り払うかの如く矢を放つと。


 ドッパアアアアアン!


 ギィイイイイヤアアアアッ


 再度響く爆音と金切り声。そして更に。


「これも喰らうがよい!」


 ドッガアアアアアアアン!!


 相変わらず見えない視界の向こうで、わたしの爆裂矢にも及ぶほどの打撃音が重ねられた。

 ……ウルさん、素手なのにどんだけ強いんですか、きみ。

 あ、いや、ひょっとして聖水付き矢だったから瘴気が散らされたりしたのかな?

 何はともあれ、今の一連の攻撃はかなり効いたようだ。イビルトレントの悲鳴と思われる金切り声が止まない。


 バリケードに籠りつつ、視界が晴れてくるのを待っているとやがて、その巨大な幹が大きく抉り取られている様子が目に入った。

 穴はかなり大きいが幹が太すぎて貫通には程遠い。それでも、明らかに大ダメージを与えたことに思わず「よし!」とガッツポーズを取る。

 同じようにイビルトレントを注視していたフリッカから小さく戸惑いの声が上げられた。


「リオン様、イビルトレントの幹の中……何か見えませんか? 大きな魔力が……」

「ん? 魔石かな?」


 そうであれば後はそこに集中攻撃を掛けるだけだ。わたしは最後の矢を握りしめながら目を凝らす。

 が、しかし、それは魔石と言うには……あまりにも大きすぎた。いや、このサイズのモンスターならあのサイズの魔石でもおかしくないのかもしれない。

 それでも、黒い靄を纏い、妖しい光を放っている魔石は初めて……じゃ……な、い。


「…………ダンジョンの……核……?」


 以前ダンジョン内で見た核と大きさは違うもののそれ以外はそっくりだ。

 でも待って、ダンジョン核なのだとしたら、ここまで近くに居てわたしが感じ取れないのはおかしい。

 いや……でも、薄っすらと、感じるような……どこか違うような……こんな曖昧な感覚は今までに覚えがない。あれは一体何なんだ?

 それともまさか、このイビルトレントは。


 ――ダンジョン用の核を元にして生まれたモンスターだとでも言うのだろうか?


 そんなことは、ゲーム時代でも経験したことがない。完全なる未知で。

 通常のダンジョンとどう違うのか、通常のボスモンスターとどう違うのか、わたしには見当も付かなかった。


 ――ヨコセ、ヨコセエエエエッ


「な、何?」


 冷えかけた心に、少しばかり質が変わった金切り声が叩きつけられる。


 ――オマエノ、ザイサンヲ、チカラヲ!


 ――カラダヲ、ヨコセエエエエエッ!!


「これは……」


 今まで唸り声程度にしか聞こえなかったイビルトレントの声が、明確なる悪意となって形作り始めていた。

 心なしか、魔石の周囲の黒い靄も、人の形になったような、錯覚がして――


 ――オレハ、エイユウナノダ! スベテ、オレノモノダアアアアアッ!


「――っ!?」

「………は? ……何……だって?」


 エイユウ……英雄?

 その話は、つい、最近、聞いたばかりで……。


 ――オレニ、スベテヲ、ササゲロオオオオオオオッ!!



「――神子の意識が、ある?」



 ゴバアァッ!


 わたしの呟きを掻き消すかのように強力な根の一撃が放たれ、バリケードが壊されてしまった。

 壊された衝撃と突如吹いた突風で――イビルトレント?の仕業だろう――中に居たわたしたちは耐えきれず吹き飛ばされてしまう。


「ぐへあっ!?」

「うくっ……!」


 どっちがわたしの声かは言わずもがな。

 ごろごろと転がされ痛みに呻きながらも、追撃を警戒してイビルトレントの方へと視線を向ける。

 ほぼ人のような形をした黒い靄――これも目の部分に不気味な光が揺らめいていて、まさに悪霊とでも称するに相応しい出で立ちであった。

 その目が一瞬わたしと合った気がしたが、すぐに逸らされる。……ただの気のせいか?

 しかしすぐ様目の光が膨れ上がり。


 ――オオオオオオオ


 ――ソノオンナハ、オレノモノダッ!


「ひっ!?」


 横に転がっていたフリッカが標的とされたのか、恐怖に顔を青ざめさせる。

 ……こ、コノヤロウ! 今わたしを顔でスルーしたな!? いや確かにエルフと比べたら月とスッポンだし、こんなヤツに気に入られなくてもいいんだけど何かムカツクゥ!!

 そして今までで一番の勢いで根が繰り出されるとか……こんのエロ助があっ! 死んで(?)も腐った性根は治らないのか!!


「誰がオマエ何かに渡すかバカ!!」


 わたしはフリッカの前面に石ブロックを多重設置してガードしつつ、最後の爆裂の矢を番えた。


「喰らっとけ!!」


 ドガアアアアアンッ!


 ――ウオオオオオオン


 矢は核に向かってまっしぐらに飛んで行き確かに当たったのだが……神子の妄執があまりに大きいのか、黒い靄の効果で威力が削がれたのかまだ生きているようだ。

 ……チッ。


 ――オレノ、ジャマヲ、スルナアアアアアッ!


「リオン、備えろ!」


 何処からかウルの警告が来るが、少しばかり間に合わなかったようだ。

 黒い靄が収縮したかと思えばブワッと広がり、視界一面が黒い光で満たされる。


「リオン様!」


 横合いから抱き着かれたような感触と共に、浮遊感に似た感覚に覆われ――

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