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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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異変の中心地へ

「いや、連れて行きませんってば」

「何故ですか!?」

「我々は魔法に優れています。必ずや神子様のお役に……!」


 森の奥へ出発しようとした所で「お供します!」とやって来たエルフさん達が居たのが、わたしは即断った。

 まぁ調査隊が行方不明になったのだから確かに能力は必要なのだけれども、問題はそこじゃない。


「最大戦力であるウルの足を引っ張りそうな相手と一緒に行けるわけがないでしょう?」

「……っ」

「お、俺がそこのリザードより劣っている、だと……!?」


 いやもうその思考回路からして連携する気ないよね? ひょっとしてこの人たちバカなの?

 それにたとえきみたちがウルより強かろうと、信頼関係がないどころかマイナスの状態の人を連れて行きたくないですよ……。

 対応するのもダルいし無視してとっとと出発しようかな、と思った所でまた別の人から声が掛けられた。


「リオン様、お待ちください」


 おや、フリッカだ。

 結局あれから顔を合わせなかった(ついでに言えば夜は誰も来させなかった)のでちょっと心配だったのだけど元気そうだ。一応見える位置に怪我があるわけでもない。

 ……あくまで見た目は、であり、内心がどうかは不明なのだけれども。どこか表情に余裕がなさそうに見えるから。


「お願いします、私をお連れください」

「えーっと……」


 わたしは少しばかり返答に詰まった。外野が「横入りしないでくれ!」とうるさいけどスルーです。そもそもきみたちを入れる気はないので。

 前述の信頼関係の点は彼女なら特に問題はない。ないのだけれども……。

 数日前、歩いてるだけで躓いたり引っ掛けたりしていたのを思い出して、果たして連れて行って大丈夫なのだろうか……?と疑問が沸く。

 ただ歩くだけの道程ならまだしも、モンスターに襲われて逃げなきゃいけない事態になった時に、無事に済むのかどうか……。


「連れて行けばよかろう」

「ウル?」

「……意志が固そうであるしな」


 ウルに釣られて改めてフリッカを見てみれば……準備は万端なようで。

 革の胸当てと籠手、小さい弓と杖と……アレは風のマフラーかな、少しだけ体を身軽にするアクセサリまで装備していた。そこそこ着慣れているようにも見え、全く動けない風でもなさそうだった。

 それでも、これだけは確認しておかないと。


「きみのお父さんの許可は出ているのかな?」

「……はい。むしろ『神子様の力になるのだぞ』と送り出されました」


 思わずウルと視線を交わした。

 共通して『怪しい……』という感想が出る。あれだけ敵意を剥き出しにしておきながら、神子わたしの力になれ、だって?

 それはもう途轍もなく怪しいのだけれども……ここは逆に置いて行った方がこじれそうだな。

 ウィーガさんに相談してあるし、わたしたちが居ない間に村で妙な行動をしないよう祈るしかないか。



 東の川に沿って、上流へと歩いていく。

 ウルに先頭に付いて警戒をしてもらい、わたしはキョロキョロとおかしな点がないか観察しながらついていく。フリッカはその中間だけど、今の所転んではいない。


「むぅ……」

「ウル、どしたの?」

「いや、獣が全然見当たらなくてな……リオンに料理してもらおうと思ったのに」


 食いしん坊なウルの発言に笑いが出てきてしまう。

 しかし、ここまで大きな森に動物が居ないのはおかしい。これも衰弱の影響か……?


「フリッカ、最近狩りで獲物が獲れない、もしくは少なくなったと言う話はある?」

「……申し訳ありません、私は耳にしておりません。ですが言われてみれば、肉料理が減っていたような気はします」


 ふむぅ、なるほど。

 あ、ついでに一個思い出した。


「アルネス村に来る前にめちゃくちゃデカいサイレントキラーの巣を見たんだけど、こっちではどう?」

「刺されたと言う話は特に聞いていませんが……巣そのものも見てないですね。……甘味として重宝していたのですけれども」


 あぁ、やっぱりあれから蜂蜜が採れるのか。めっちゃ好戦的と言うだけで、まんま蜂だからねぇ。

 ……欲しくなってきたなぁ。今うちに甘味少ないんだよね…………って、ウルの食いしん坊を笑えないな、これは。

 でもどうやって採るんだろ? 全滅させるのは厳しい気がするけども。落ち着いたら聞いてみるか。



「……美味しい、です」

「そうであろう」


 お昼になり、わたしが作った料理を食べたフリッカが意外そうに目を丸くしている。神子はモノ作り全般が出来るんだけど……料理は得意そうに見えなかったのかしらん?

 そして何故ウルが胸を張っているんですかね……仕草が可愛いからもうそれだけで許せちゃうけど。

 ウルはやれこんな料理を食べたあんな料理を食べたと、話が弾むと言う程ではないけれども、ウルとフリッカが仲良さげに会話をしてくれるならそれだけで料理を頑張れるというものです。

 ちなみに、今日のメニューは鹿肉の香草焼きサンドだ。フライパンは作ったその日から活躍しています。

 食後に鍋で作ったホットミルク(衰弱耐性バフ付き)を飲んで、ホッと一息付いてから調査を開始した。……洒落じゃないし。



 進むごとに青紫やら枯れた状態になっている草木が増えて行った。

 草木だけじゃない、動物の物と思われる骨、その手前である腐り掛けの死骸も見られる。しかしそこに集る虫は居ない。

 日中なのに薄暗く、いつモンスターが出てきてもおかしくないくらいであるのに、それもない。

 木々をすり抜けていく風は肌寒く重苦しく、どこか怨嗟を含んでいるかのような低音が響き、これではまるで――。


「死の森のようだの」


 ウルがポツリと呟いた単語は、まさにわたしの心を代弁していた。


「リオン、このような現象に心当たりはないのか?」

「うーん……」


 全くないわけではないけれども……状況が違うんだよなぁ。

 ドレイン攻撃でプレイヤーを衰弱状態に陥らせるモンスターは居るし、死者の館と呼ばれる生者の全く居ない――ただし死者はわんさか――ダンジョンもあった。

 しかし前者はこんな広範囲ではなかったし、後者はダンジョン核の気配が感じられないしアンデッドが彷徨っているわけでもない。


「ふむ、さっきからずっと妙な気配は感じているのだが……これがアンデッドなのだろうか」

「えっ、そうなの?」

「反応が小さすぎて何処に居るのかわからぬゆえ、近くには居らぬかと思って警告をせずにおった。すまぬ、言っておくべきだったな」


 感覚の鋭いウルでもわからないなら結構遠そうだな。確かにそんな所まで警戒していたら先に神経が参ってしまうかもしれないけど、状況が状況であるし「次からはお願いね」と促しておいた。

 アンデッドか……聖水で何とかなるといいんだけど、とアイテムボックスの中身を確認していたら、ウルから更に言葉が続けられる。


「……衰弱は、生命力のようなものが吸い取られている、という意味で合ってるのか?」

「そうだよ」

「以前リオンは言ってなかったか? 『ダンジョンは土地の恵みを吸い上げる』と。ここがすでにダンジョンになっており、生命力全般が吸い取られている可能性は?」

「その可能性もなくはないけど……」


 だとしてもやはり核の気配が感じ取れないという点にぶち当たる。

 まぁわたしの察知能力は絶対だと言う自信もないのだけれども。


「では、めちゃくちゃダンジョンが広くてわからないのではないかの?」

「うえぇ……そうだとしたら骨が折れそうだなぁ……」


 しかもただ広いだけでなく、かなり広範囲のリソースを収集していそうなので非常に厄介なことになるかもしれない。

 わたしたちがあーだこーだ推測するのを黙って聞いていたフリッカも、おずおずと口を挟んできた。


「その……ダンジョンの核が、隠蔽されている、とかはどうでしょう?」


 言葉と同時に手で何かを包むような動作をする。

 隠蔽に関してはわたしも考えたことがある。でも、最終地近辺のダンジョンなどで核の力が強すぎて位置がわかりにくいという現象はあったけど、弱める方向でわからないのは経験がないんだよな……ないとも言い切れないけど。

 いかん、現時点では判断材料が少なすぎる。このまま進むしかない。

 と、思ったその時。


「きゃあっ!?」


 フリッカが根に足を引っかけて転んだ。

 ……ずっとないなぁと思ってたけど、ついにここで出てきましたか……あははー……。

 苦笑しながら「大丈夫?」と手を差し伸べると、フリッカは赤面しながらしどろもどろ弁明をしてきた。


「い、いえ、あの、その、違うんです」

「ん?」

「足場が急に揺れて――」


 ――ズズッ


「うわっ?」

「!?」


 地面が揺れ、わたしとウルも唐突なことで体が傾いでしまった。

 まさか地震? 火山地帯でもないのに珍しいな……。


「リオン、気を付けろ! これは――」


 瞬時にウルの表情が険しい物に、つまりは戦闘モードになっていた。

 鋭くあちらこちらに視線をやり、下へと定めた所で。


「モンスターの攻撃だ!!」


 警告と同時に、地面からいくつもの黒い根が槍のように突き出された。

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