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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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家庭の事情

 錬金教室の後は経過観察を兼ねて軽く村内の見回りをした。

 相変わらず取り巻こうとする人と、腫物を扱うような態度に変わった人と、素直に感謝を述べて歓迎してくる人と、パターンが増えた気がする。

 いくつか追加でポーションを使ったが悪化したと言う人は居らず、概ね快方に向かっているようだった。

 ウィーガさんに各種ポーションをまとめて預けておいたし、初級作成キットを何セットか差し上げておいたので、これから発症する人も何とかなるだろう。


 これでひとまず村内の問題は置いておくとして、根本解決に向かうことにしよう。まぁまずはそのための準備が必要なんだけども。

 フリッカから聖花を受け取り、一言断ってからいったん帰還石で拠点へと戻る。設備はこっちの方がいいからね。

 ……拠点うちに帰ってきたらウルが少しホっとしているようだった。ムリしてないかなぁ、大丈夫かなぁ。


 ウルに拠点の見回りと動植物の世話を頼んで、わたしはアイテム作成に取り掛かる。

 減ったポーションの補充と、ホーリーミストの作成、それからアルネス村へ向かう道中で採取した素材を使ってあれこれと作成していく。思ったより聖花がもらえたので、ちょっと別のアイテムも作ってみた。

 もっとじっくり研究したい所ではあるけど、時間がないのでそれはまた今度。


「アルネス村の食事も不味いわけではないが、やはりリオンの作った物の方が良いな」


 もぐもぐとおやつを一緒に食べてたら、ウルが嬉しいことを言ってくれる。うん、頑張って料理スキルレベルを上げて行こう。



 準備を終えて夕方前にアルネス村に戻ってきたら……また一悶着発生していた。

 もうヤダ!と見なかったフリをしたい所であるが、巻き込まれている人を見たら放ってはおけなかった。


「とうっ」

「……っ!」

「な、何だ!?」


 わたしは、フリッカの腕を掴んで無理矢理引っ張ろうとしている男性エルフの手にチョップをかます。

 のこのこ近寄るわたしに何の反応もしなかったあたり、どれだけ周囲が見えていなかったんだろう?

 びっくりして思わず手を離した瞬間に、ウルの後ろへ隠すように誘導した。


「……神子様、一体何をなさるのですか」


 手を叩かれた男性が怒りの眼差しで問いかけてくる。

 いやそれはこっちが聞きたいんだけども。


「神子様と言えど、家庭のことに口出しなさらないでいただきたいのですが?」

「……家庭?」


 ぐりっと体を向けてフリッカの方を見ると、目を逸らしながらも答えてくれた。


「……父です。正確には、義理の、が付きますが」


 そう言えば妹さんの時も異父妹って言ってたっけ。

 えーっと、お母さんの再婚相手で、お母さんとこの人の間に出来たのが妹さんってことになるのかな。

 しかし、義理の父か……それにしてはなーんか嫌な気配がする人だな……何だろうこの感じ、つい最近何処かで見たような?

 でも第一印象で決め付けるのは良くないとザギさんで学んだからなぁ。ひとまずは友好的に友好的に……。


「これはこれは、フリッカのお父さんでしたか。娘さんには大変お世話になっております」

「……それはどうも。しかし神子様、そろそろフリッカを返していただきたいのですが?」

「返す、とは? 家には帰っているはずでしょう?」


 フリッカは自己申告で帰宅したと言っていたけど、実は家に帰ってなかったパターン?

 でも嘘を吐く子には見えないんだけどなぁ、と考えていたら、ボソっと聞こえてきた。


「……二晩連続で閨に連れ込んでおいてよく言うものだな」


 ……わたしは反射的に頭を抱えてしまいたくなった。そ、そっちかー……。

 と言うか、同性なのにアレやってるとか思われちゃうの……?


「わたしは彼女と会話をしていただけで手は出していませんし、それに……元々嫁に行かせる予定だったのでは?」

「ふっ……ざけるな! 誰が貴様などにやるものか!」


 あ、やば、言葉選びを間違えて怒らせてしまった……。

 長老の決定と本人の同意があったとしても親も同意したとは一言も聞いてなかったし、神子とは言えポッと出に愛娘を取られでもしたら怒りたくもなりますよね……ご、ごめんなさい。


「長年手塩にかけて育ててきた女だぞ……! それを何故貴様などに掻っ攫われなければならん!」

「いやあのですね、もらう気は――」


 無い。そう続けようとしたのだけれども、後ろから伸びてきた手で口を塞がれてしまったことで敵わなかった。

 わたしは塞いできた人……フリッカに『なんで止めたの?』と目で訴える。誤解はさっさと解いておかないとどんどんこじれそうなんですけど……。

 しかしフリッカは首を横に振るだけで何も言ってはこなかった。ただ『誤解させておいてください』と言いたがってる感じがする。多分だけど。

 んー……?

 フリッカはわたしの口から手を離し、ウルに小さくお礼を言ってから前に出た。


「お父様、私が『たとえどのような相手でも』神子様に嫁入りすることは長老たち全員の意志により決定しています。それを覆す権利がお父様にあるのでしょうか?」

「その神子は女だろう! 無効だ無効!」

「そのような命令が出たのですか? 私は全く聞かされておりませんが」

「はっ、そもそも俺達に不利益しかもたらさない神子など――――チッ」


 男性は激昂しっ放しだったが、言い過ぎたと気付いたのだろう、舌打ちして話を打ち切った。

 不利益、ねぇ。心当たりがあるのは薬の件だから、つまりこの人は長老トリオ側の人か。別派閥の娘(フリッカの母親のことね)の旦那にだなんて、どうやって収まったんだろう?

 ここも掘り出すと闇が深そうだなぁ……。


「ともかく、さっさと帰ってこい!」

「ですが――」


 終始苛立ちを見せていた男性が、急に鳴りを潜めさせ……ニタァと笑い。


「俺も勿論だが……フィンが寂しがっているし、な?」

「……っ」


 そう言い残し、背を向けて去って行った。


 ……最悪だ。

 最後のあれは、フリッカに対する脅しでしかない。『帰ってこないとフィンがどうなっても知らないぞ?』と暗に示したのだ。

 連れ子のフリッカはともかく、フィンは血の繋がった娘だと言うのに……何でそんな真似が出来るんだ? 何でフリッカにそこまで執着する?

 ぐるぐると頭の中で考えていたら、フリッカから済まなそうに声を掛けられた。


「……リオン様、申し訳ありませんが、本日はこれにて帰宅させてください」

「でも、帰ったら……そうだ、わたしたちも一緒に行って妹さんを保護すれば……」


 ヤケになられて実力行使に出られてもウルならどうとでも出来る、信頼してるからこそなのかただの他力本願なのか微妙な線のアイデアを出したのだけれども、それは否定されてしまった。


「私が帰れば済むことです。リオン様には森の異変の解決をしていただかなければなりませんので、私の家庭の事情に巻き込めません」

「……つまり、終われば巻き込まれてもいいんだね?」


 わたしの問いに、フリッカは困ったように少しだけ眉を下げて。


「どうして、そこまでしていただけるのでしょうか?」


 なんて、言われてしまったことに、ちょっと腹が立ってしまった。すんごく勝手だけれども。

 どうして、って、そんなのは決まっている。


「わたしは、きみのことを友達だと思ってるからだよ」


 ……いやまぁ、唐突にわたしに友達認識されても困る、何てことがあったりしたら……泣いちゃうよ? さすがに。

 幸いにしてそんな悲しいことはなかったようで、フリッカは眉は下がったままだったけれども口元を緩めてくれた。


「ありがとうございます。もしもの時はお願いします」

「うん。……あ、そうだ、渡すものがあったんだ」


 わたしは昼間に作成したアイテムを取り出し、フリッカに手渡した。


「これ、は……」

「お守りみたいなものだと思って。と言っても効果は三日しかないんだけれども」


 ナマモノだからねぇ……と説明をしたら、ちょっとだけションボリとしたような気配が漂ってきた。

 うぐ、やっぱ頼りないですよね……でも素材がそれくらいしかなかったんです……!



 しばしフリッカの背を見送ってから、ウルが小声で進言してきた。


「ウィーガにはこっそり伝えておいた方が良いだろうな。あの男、色々とキナ臭い」

「……だね」


 モヤモヤは残っているが、現時点でわたしに出来ることはそれくらいしかない。

 事態が悪化する前に異変を解決させられるといいのだけれども……。

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