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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■
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ある男の結末

 辺り一帯に響き渡る破壊神ウルの咆哮。

 ドラゴンと成ったその姿は先代破壊神ノクスとそっくりであったけれども、わたしにはいつもと同じウルの声に聞こえて。ウルであることに変わりはないんだな、と知らず知らずのうちに安堵の吐息を零していた。

 この声に驚かなかったのはわたしだけ。特に、破壊神が散る原因を作り上げた、勝利は揺るがないものだと確信していた冥界の王にとっては青天の霹靂だった。


「なっ、破壊神だと!? どういうことだ! 奴の肉は全て焼けたのでは……まさかあのチビ、ウロボロスドラゴンの複製体であったのか!?」


 ……複製体コピーではないのだが、コピーだと判断されても仕方のない結果にはなった気はする。ウルの体を作った創造神に真の意図を聞いてみないことには、事実がどうなのかわからないけれども。

 その創造神であるが……どうやらギリギリのところだったようだ。正確には、冥界の王に歯向かい、壁となって立ち塞がったラグナが、であるが。


「リオン。冥界の王とやらは我に任せよ。ぬしは創造神の方を」

「わかった。頼んだよ」


 力を得た今のウルであれば安心して任せられる。それ程までに体から覇気が溢れていた。これならば冥界の王にも負けない。


「チィ……ッ、であれば、もう一度殺してやるまでだ!」

「やれるものならやってみよ!!」


 再び始まる戦いを背に、わたしは創造神とラグナの元へと飛んで行った。

 息も絶え絶えなラグナは、わたしを見るなり減らず口を叩く。ただし口のみで手は出ない。……彼にはもう、出す手がない。


「よう……随分と白くなったじゃねぇか。あのけだものの気配が消えて何よりだよ」

「……そういうおまえは、随分とスリムになったね」


 白くなった、というのは、わたしから破壊の力とついでに終末の獣の力も抜けたことで、体から黒鱗が剥がれ落ちたからだ。鏡を見ればおそらく、髪と目の色も元に戻っていることだろう。……感覚からすると、微妙に破壊の力は残っているのだけれども。全部抜いてウルにあげたつもりだったけど、それだけは残ってしまった。先代破壊神ノクスの意志だろうか。

 そしてスリムになったというのは……ラグナの右半身が消し炭になっていたからだ。左腕も肘から先を失っている。血が垂れないのは傷口が焼かれたからか、流れ落ちる血すらもう残っていないのか。そんな酷い状態でも活動しているのはアンデッドだからか。モンスターは核さえ失わなければ生きていられることはあれど……これはもう、意地だけで動いているような気がした。

 背後の創造神は、黒炎に蝕まれたままで弱っているものの、新たに傷を負った気配はない。ラグナは、遊ばれていたとはいえ冥界の王から創造神を守り切ったということか。

 ……だからといって、わたしたちの間にある因縁が消え去ったわけではない。


「どうする? わたしと戦う?」

「……創造神様の神子であるテメェと戦う理由はねぇよ」

「その割には、他の神子にも色々と嫌がらせしてたみたいだけど?」

「うるせぇ……」


 何やらしおらしい。死に体であるからか……冥界の王から力を抉られたことで影響が薄れでもしたのか。

 ラグナの意志がどうあれ、生かすことは出来ない――そもそもこの状態からどうこうすることも出来ないので、せめてさっくりとどめでも刺してやるのがせめてもの情けか、と脳裏を過ったところ、ラグナの方がのろのろと動きを見せたので体が勝手に警戒をしてしまう。

 そんなわたしにラグナはクツクツと笑う。嘲笑っているようではない。どうにも調子が狂うなぁ。

 笑ってから……自分の体に、ズブリと手を埋めた。


「っ!?」


 わたしの驚愕を余所に、ラグナは体内から何かを取り出す。

 それは核のように見えたけれど……もっと驚くべきものだった。


「やるよ」

「……何それ。そんなばっちぃの要らないんだけど」

「そういうなよ……これは、俺が創造神様の神子になった時にいただいた力だ」

「――えっ」


 血と腐肉に汚れたそれは、呪われたような黒い靄を纏うそれは、そのような代物には見えなくて。しかし……ラグナが嘘を言っているようにも見えない。

 背後の創造神に視線を送ってみるけれど、創造神も眉をひそめるだけでよくわからないようだ。黒い靄のせいだとしても、この至近距離でわからないなら相当にポンコツ……いや今は弱ってるんだったか。


「仮にそれが本当のことだとして、どうしてわたしに渡す気になったの? 後ろの創造神様に返せばいいじゃない」

「そうしたいのはやまやまだが……テメェが弱いから仕方なくな」

「は?」

「ハハ、自分の能力も把握出来てねぇのか。今のテメェの力だけじゃ、創造神様の戒めを解けねぇだろっつってんだよ」


 うぐ……。確かに、破壊の力だけでなく獣の力も抜けたせいで、わたしはかなりパワーダウンしている。冥界の王の黒炎を打ち消せるかと問われれば、難しいと答えるしかない。


「残念ながら、俺ではこの力を十全には使えない。……頼むわ」

「……」


 これまでの不遜な態度が一切の鳴りを潜めたその言葉は……ただの青年の願いに聞こえて。

 恐る恐る差し出されたそれを手に取ると、わたしの手に触れた途端に靄が浄化され、淡い光を放つようになった。

 真なる姿を現したそれに真っ先に反応したのは創造神だった。


「その気配……っ。まさか貴方はオルフェですか!?」

「え?」

「――」


 創造神の口にした内容に、フリーズしたかのように固まるラグナ。

 そしてじわじわと……溶けだすように、動きを再開する。

 ……死へのカウントダウンも、再開される。


「あぁ……そうか……。は何で……姿も、名前も忘れてしまって……」


 ……察するに、オルフェというのはラグナの、自分ですら忘れていた本名だったのだろう。姿も変えて――あるいは変えられて、神子としての力も隠蔽され、創造神が今の今まで気付かなくても仕方がない……のか?

 それでも、最期であっても、自分のこと覚えていてくれたことを、名前を呼んでくれたことを、ラグナもといオルフェはとても嬉しかったようだ。明らかに急激に命が零れているのに、柔らかな笑みすら浮かべて。

 わたしは一瞬、似ても似つかない温和な青年の顔を幻視した。


「……創造神様……すみません……でし……」


 その言葉を最期に、オルフェは二度と動かなくなった。

 飛ぶ力すら失い落下するところだったので、慌てて服を掴む。その必要はあったのか?と自問する間もなく勝手に体が動いたのだ。成人男性ではあっても体が半分以上欠損していて、ものすごく軽かった。

 とはいえどうしたものかと創造神に目で問いかけてみると、創造神も呆然としていて何も聞けそうになかった。なのでわたしはひとまず遺言?通りに、手に持ったままのオルフェの神子の力を体内に取り入れる。呪われるとかそんなことはなく、単純にわたしの創造の力が増した。これなら何とかなりそうか?


「とりあえず、解放しますね……?」


 創造神に一声かけ、聖属性アイテムを使用していく。冥界の王のものだけあって聖水だけでは効果がなく、オルフェを抱えたままなのでちょっと手間取りながらも、いくつか種類を重ねていったところでやっと黒炎を消すことが出来た。……わたしの力、本当に弱いんだな。

 黒炎の下の創造神の肌は、火傷をした跡のような赤い筋がいくつも出来ていた。焼け爛れる一歩手前くらいで、見ていて痛々しい。火傷用のポーションを振りかけてみても、うっすら色が薄くなっただけで完治には遠かった。むぅ、ここでも力が足りないか……困ったな。


「えぇと、創造神様……動けますか?」


 おそらく死ぬような傷ではないし、この場での治療は諦めてひとまず避難をしてもらおう。さっきからウルと冥界の王の戦闘音が響いているし、いつ巻き込まれないとも限らない。下なら他の神様たちも居るしね。

 そう考えつつ様子を尋ねると、いつからかわたしをちゃんと認識していた創造神はぎゅっと眉根を寄せ……思いもよらないことを言いだす。


「神子リオン。……わたくしの力も受け取ってもらえませんか?」

「…………はい?」

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― 新着の感想 ―
[一言] んーーーーー(渋い顔)  最期の最期にラグナの尊厳を守っちゃったかぁーーーーーーー(苦み走った顔)  あれだけ他者の尊厳を弄んどいて、相応の報いを受けずに改心なんて見せ場を作って退場したか…
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