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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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引き継がれる力

 絹を裂くような悲鳴が響き渡る。

 この声は……創造神!?

 慌てて声の方へと振り返ってみれば、青を通り越して白い顔色をした創造神が近くに姿を現していた。憔悴しているのは日蝕のせいだけではないだろう。


「ふむ。飛んで火に入るなんとやらか」

「――きゃっ」


 あれだけの声を出していれば誰だって気付く。創造神は冥界の王の黒炎であっさりと捕まった。

 ……いや何しに出てきたんですか!?という気持ちもあるし、仲が良い、半身とも言える存在はかいしんがやられてしまっては取り乱してしまう気持ちもわかる。

 ただ冥界の王はすぐに創造神を殺す気はないようで、黒炎で締め付けたりはしなかった。……日蝕による弱体化により捕まっているだけで少しずつ削られているみたいで、抜け出すどころか叫ぶ気力もない。この様子では破壊神ほどの戦闘能力がない、敵にはなりえないと冥界の王でなくともわかる。

 それでも、いつ殺されるのではないかと思うと気が気ではない。その不安はラグナにとってもそうだ。


「テメェ、創造神様になんてことを――」

「何だ。ずっと会いたがっていたのだろう? まずは再会を喜べよ」

「喜んでほしけりゃ解放しろよ!」

「あまり煩いようだと今すぐ殺すぞ」


 などと言われて悔し気に口を噤む。……ラグナが創造神の味方(のつもり)であるというのは、本気だったか。


「そこで大人しく見学をして――なんだ貴様は」


 冥界の王が破壊神の方へと向き直ると、そこにはいつの間に移動したのかウルが居た。

 腹部に大穴が空き、ボタボタと血を流す破壊神を支える――ドラゴン形態の破壊神とは体格差がありすぎて支えているようには見えないけれど、血を全身に浴びるくらいには近くに寄り添っている。

 もしやポーションでも使いに行ったのだろうか。それにしては傷口が塞がっている様子もなく、量が足りないのか……最早治せないくらい死に近付いているのか。

 こうなっては破壊神とて不敵な笑みを浮かべてはいられない。……創造神が捕まったせいもあるのか、どこか困ったような目をしている。


「そこのチビ、ウロボロスドラゴンと一緒に消し飛びたい願望でもあるのか?」

「……もう決着は着いておるのでは?」

「まさか。其奴はまだ生きている。確実に息の根を止めねばならぬ。腐肉漁りで次代の破壊神を生まれさせるわけにもゆかぬので、塵も残さず滅ぼさねばならぬ」


 ……次代の破壊神?

 そういえばこいつは先代の破壊神の存在を知っている、むしろ戦っているんだったか。

 ジズーいわく、今代の破壊神ノクスは先代破壊神の力を喰らうことで引き継いだという話だし、その条件は肉を食べることなのだろうか。……終末の獣たちといい、もうちょっと穏やかな継承は出来ないものですかね。いやまさにわたしとウルは比較してとても穏やかに力をもらったけど……それだと時間が掛かりすぎるのか。

 『次代の破壊神』というワードでラグナの口から「は?」と一言漏れた。……あぁそうか、ラグナが破壊神に成っても困るからあえて教えなかったのか。知っていたら喜々として食べていたことだろうし。

 そしてそのワードは、言った当人にも閃かせるものがあったようで。


「いや待てよ。俺様が喰ってその力を得るのもありか」

「な――」


 最悪だ!?

 ただでさえ強敵な冥界の王がこれ以上強くなったら、一体誰が止められるというのか……!


「ノクスの力を、貴方などに渡すわけには――きゃあっ」

「ハッ、無能は大人しくしていろ」


 絶望的な未来を迎えることよりも、まず破壊神の命が失われることが耐えられない創造神が叫ぶが、拘束から抜け出すことすら出来ない状態では冥界の王に鼻で嗤われるだけだった。破壊神がますます苦虫を噛み潰したような顔になるが、何も出来ないのは破壊神とて同じ。

 ……いや、何か、ウルと小声で話している……? ウルが目を見開いて破壊神を見上げていた。

 一体何を話しているのか気になったけれども、それが何なのか知る時間を与えてもらえるわけもなく……冥界の王が動き出す。同時に、ウルが破壊神に突き飛ばされて強制的に離された。


「ハ、けだものの貴様とて誰かを巻き込みたくないという心くらいはあったか」

「……そうじゃの。巻き込めないの」


 ――この攻撃には。


 ゴウ!! と破壊神の全身から炎が噴き出す。

 その熱量と圧は、冥界の王の黒炎にも匹敵するほどのもので。ぶわりと、熱い風が吹き抜ける。わたしも焼けそうだと錯覚に陥ったが、実際に焼けることはなかった。

 鱗が赤熱し、黒竜が赤竜へと、赤竜が金竜へと変化していく。鱗も、流れ出る血も、体も、燃料としてくべて、どんどんと熱量を上げていく。

 しかしその力は……凄まじいがゆえに、破壊神自身の体すら焼いていく。鱗が塵――いや炎と化す。

 黄金の炎を纏うドラゴンは、小さな太陽のように世界を照らす。


 ……わずかな間だけ。


「ちぃ、やはりまだ力を残していたか!」

「ガアアアアアッ!!」


 流星の如く冥界の王へと突っ込む破壊神。

 拳の応酬の時の数倍の衝突音が迸った。


「ぬおおおおおおおおっ!!」

「アアアアアアアアアッ!!!」


 冥界の王は黒炎を纏い、金炎の破壊神に対抗する。

 常に余裕だった冥界の王のこれまでにない必死の形相が、破壊神の金炎がどれくらい強烈な威力なのかを物語っている。事実、黒炎では防ぎきれずに体が焼け始めている。再生速度がいくら早かろうと、それを上回る攻撃に晒され続ければダメージだって負う。

 ……しかし、破壊神は万全ではなかった。むしろ死に掛けであった。

 いくら命の炎を燃やそうとも……届かなかった。


 攻防の最中、チラリと破壊神の視線が動いたのが不思議と見えた。

 視線の先は……創造神。

 小さく口元も動いた気がしたが……何と言葉を発したのかまでは、わからない。

 直後。


 パンッ!!!


「え――」


 破裂音と共に、破壊神の体が弾け飛んだ(・・・・・)

 血肉が盛大に撒き散らされ、大半は炎で焼け落ちたが、残りは周辺に居たわたしたちへと降りかかり。べちょりと、大きなナニカがぶつかった。

 それはもちろん、創造神にも――


「あああああああっ!? ノクスッ!!?」


 大切な半身の、文字通りの盛大な散り様に狂乱する創造神。

 藻掻けば藻掻くほど黒炎で力が削られていくのに、なおも構わず届かない手を伸ばそうとする。

 破壊神の死が、認められないでいる。……わたしだって認めたくない。


「……なるほど。その身を残さぬことで、俺様に力を喰われることを防いだか。憎き怨敵ながら天晴とでも言いたくなる」


 確かに、これならば冥界の王に力を奪われることはないだろう。

 創造神が取り乱しすぎて、わたしは逆に冷静……というほど冷静でもないけれど、まだ正気は保っている。

 ……保っていたからどうした、という気持ちにも覆われる。

 最大戦力だった、唯一の対抗策だった破壊神が死んでしまったのだ。冥界の王の体も焼けていくらか削れたようだがまだまだ健在だ。少なくともわたしが敵うほど弱体化したようには見えない。これ以上の強化の芽がなくなっても、彼我の差は依然として大きなままだ。

 残された、残されてしまったわたしたちだけで、一体どう乗り切ればいいのだろう……?

 回らない頭を空回りさせるわたしの耳に、ウルの小さな声が滑りこんでくる。またいつの間にか戻ってきたようだ。


「リオン、しゃっきりせぬか」

「……ウル」


 しゃっきりと言われても……と反論する前に続けられた言葉で、やっとあることに気付く。

 ウルが、血まみれの手に何かを持っていることに。

 ……わたしも、血まみれになった手に、何かを持っていることに。


「まだ、終わっておらぬ(・・・・・・・)


 手に持っていたそれは、先ほど降りかかってきた破壊神の肉片で。

 ……肉片の中に、硬い物が埋まっており。

 のろのろと調べてみれば、それは……思わず絶句する代物だった。



●ノクスの魂

 ノクスと名付けられたウロボロスドラゴンの魂。

 力と願いを託して、眠りにつく。

 【不壊属性】【加工不可】



「…………………………は?」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ちぃ、やはりまだ力を残していたか!」 ??「力は残しておくもの。ちぃ、そう教わった」  なんか懐かしい響きですわぁ。
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