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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■
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冥界の王

「は? 冥界の王だって!?」


 わたしはラグナの言葉に目を剥いた。

 以前より、冥界の王という者が存在していることは何度か聞いている。ただそいつは、他ならぬラグナに力を奪われたという話だった。死んだという話までは聞いていなかったので、生きていること自体は不思議ではないとして、冥界の王の手下だったラグナが、今度は冥界の王を手下として従えているってことか……? だとしても、ラグナより弱い存在を呼び出して一体何になるというのか。手数を増やしたかっただけか?

 ……などという希望的観測は、すぐさま打ち砕かれることになる。


 ――ア゛ア゛ア゛ア゛アアアァ――


 空に生じた一際大きな亀裂。

 そこから泥のように、腐肉の海のように溢れだす闇。見た目からありありと禍々しさが伝わってくるそれは、耐性のない者は近付いただけで蝕まれることだろう。

 ぞろりと更に塊が溢れてくる。あれは……手か? 裂け目に引っ掛けて、体を引き上げるかのように徐々に全貌が明らかになる。

 しかしわたしは……上半身が出たところで、その全身の姿が何なのかわかってしまった。


「…………………………破壊神?」

「……なぬ?」


 わたしの呆然とした呟きにウルが反応する。いや紛らわしいことを言ってごめん。

 破壊神は破壊神でも……あれは、ゲーム時代(・・・・・)の破壊神だ。

 巨大な人型をベースとしつつも、角、爪、翼――ありとあらゆるモンスターの特徴を混ぜ合わせたかのような、言わばキマイラの一種。

 ゲーム中ではモンスターの元祖とされていて、今にして思えばベヒーモスと役割がかぶるなぁなんて思ったけど……あいつは元祖じゃなく、全てのモンスターを喰った(・・)ことであぁなったのかもしれない。そんな感想がふと思い浮かんだ。

 といっても全てが同じわけではない。まず、全身はあんな腐肉状ではなかった。所々で骨が露出し、時折内側から弾け、体液やらガスやらを噴出させている。……一度死んだけど、アンデッドとして復活したのか? いやアンデッドを復活と言っていいのかは微妙だけど。ともあれ生者には全く見えない。

 そしてサイズが明らかに違う。五メートルくらいだったのが倍以上はある。大きさイコール強さとは限らないけれど、少なくとも災いはギュッと詰め込まれていそうだ。先ほどから脳内アラートが酷くて、決してラグナ以下の死に掛け?モンスターなんかじゃない。


 むしろアレは、ラグナよりずっと――


「アアアアアァ――」

「ははは、久しぶりの地上ではしゃいでんのか? まぁ今のお前は日の光の元で存在出来るような状態じゃないからな」


 ……なるほど、確かに聖属性にっこうにとても弱そうなナリをしている。そりゃ日蝕の時くらいしか出てこられないだろう。


「ほら、見えるか? お前の大嫌いな破壊神が目の前に居るぞ。俺もアイツが嫌いだが、今だけ特別に譲ってやるよ。創造神様に届くよう、たっぷり鳴かせてやってくれ」

「ァ――」


 なんとまぁひどい小物ムーブだ。なんて煽っている場合ですらない。

 冥界の王の顔は半分ほど骨が露出しており、片方は目がなく虚ろな穴が開いているだけだった。しかしその奥で暗い炎が揺らめき、怪しく光る。

 体を震わせ、残る下半身を出そうと蠢いたところで。


「ここは貴様なんぞが来ていい場所ではない。帰れ。むしろ死ね」


 破壊神ノクスが、未だ亀裂から出ていない冥界の王に向けてブレスを放った。

 自由に身動き出来ない――亀裂から出ていたとしてもその鈍重そうな体では避けられなかっただろう冥界の王はまともにブレスを喰らい、頭が弾け飛んだ。

 ――かに思われたが、すぐに再生して元通りになってしまう。脅威的な再生速度だ。しかも、蒸発した腐肉が毒ガスとなって辺りに漂う。幸いにしてこの場には耐性のある者たちばかりだったけど、これが地上だったらこれだけで大惨事だっただろう。


「おい、くっせぇのを撒き散らしてんじゃねぇよ」

「そのくっせぇのを呼んだのは貴様なんじゃがのぅ……あと貴様自身も臭うのを忘れておらぬか?」

けだもの臭がするテメェにだけは言われたくねぇよ。その減らず口、今に叩けなくなるだろうぜ」


 ラグナと破壊神の言葉の応酬。破壊神はげんなりと……緊張を孕んでいるのに対し、ラグナには余裕が戻ってきている。それほど冥界の王の強さに自信があるのだろう。

 ……どこかがおかしい。冥界の王はラグナに力を奪われたはず。奪われてこの強さ? 強いのであればラグナに従う必要もないだろうに。地上に出られない状態だから下手に出ざるをえないのか、もしくはラグナが冥界の王の急所のようなモノを握っているのか。破壊神が神様たちをひと質に取られて抵抗出来ず封印に甘んじたように。


 ――わたしは、わたしたちは、何か大きな思い違いをしている気がしてならない。


 得も言われぬ不安に襲われるわたしの横でウルが「ふむ」と頷く。


「ん? 何かあった?」

「いや……彼奴が臭いと言う話がな」

「え? 今そこ気になるところなの??」

「まぁ大して重要な話でもないと思うが、彼奴の血が腐ったように不味かった理由がわかって――」


 ウルが言い終える前に、冥界の王が動き出してそれどころではなくなった。

 押し戻そうと破壊神は再びブレスを吐くが、今度は冥界の王もブレス――汚泥を吐き出すことで対抗する。またも辺りに強毒が撒き散らされ、念のためわたしたちは避難する。……あの中に割って入るには、少々、いやかなり力が足りなかった。

 そしてついに、ずるりと、冥界の王の全身が出て来てしまった。

 ぼたりぼたりと、辛うじて人型に見える全身から腐肉が垂れ、遥かな下の地面が焼かれる。味方は居ないけれど、何体かのモンスターが巻き込まれていた。

 それだけではなく、大きな腐肉が落ちていったかとそこから思えば新たなモンスターが生まれ、周辺のモンスターを喰らって少しずつ大きくなっていく。……あれは放置したらヤバいな。


「おいおい、今更逃げようなんて思うなよ? せっかくだから特等席で見ていけよ」

「……くそっ」


 激しさを増した破壊神と冥界の王の戦い、ここに居るよりは下の対処に行くべきか迷うわたしをラグナの声が止める。

 破壊神の手が取られてしまったので、こいつの相手はわたしたちがしなければいけなくなった。ウル一人では苦戦していたし、任せて離脱するのは止めておいた方がいいだろう。逆にわたしが一人で食い止めて、ウルに下に向かってもらうのも無理だ。異界アザーワールドの経験を得て強くなったわたしだけど、一人でラグナに勝てる自信がない。改めて相対したことで嫌でもわかってしまう。それでも、あの冥界の王よりはマシだと気力を奮い立たせる。

 それに……きっと、二人なら何とかなる。


「ウル」

「うむ」


 力強い応答。

 聖剣を取り出し構えるわたし。

 戦いの態勢を整えるわたしたちに、ラグナはやれやれと言いたげに肩をすくめる。


「そう焦んなって。はぁ……お前は随分と汚染が進んだようだし、脳みそが筋肉になっちまったか?」

「何? まだ創造神の神子扱いしてくれるの?」

「ハハ――めちゃくちゃ殺してやりたいよ」


 鬼気が飛ばされ、ゾワリと全身が総毛立った。冷や汗があちこちに流れる。

 わたしの見た目はかなりドラゴン(多分)に寄った。さすがにここまで来ては見逃してもくれないだろう。わたしだってラグナを見逃すつもりはないが。


「でも今の俺は機嫌がいいからな。あのクソけだものがボロ雑巾になっていく所を見ていたいし、大人しくしてるならそこまで生き永らえさせてやるよ」

「……参考までに聞きたいんだけど、冥界の王をどうやって従えさせてるの?」

「あ? そんなの、俺の方が強いからに決まってんだろ」


 ……? ラグナの方が強い、だって?

 そんなはずがない。現に、ラグナ相手には圧倒していた破壊神が、冥界の王相手には一進一退の攻防を続けている。わたしの目から見ても、このラグナがあの冥界の王より強いようには全然見えない。わたしみたいに力を隠蔽しているのだとしても、先ほど破壊神にボコボコにされた理由にはならない。相性問題でもなさそうな気配だ。


 この認識のズレは何なんだ……?

PCの調子が不穏なので、宣言なしに更新がされてなかったらお察しください…

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