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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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参戦

「……遅いではないか、リオン」

「ご、ごごごめん!」


 思わず反射で謝ってしまったけど、ウルの声にわたしを咎める色はなかった。表情も穏やかだ。

 しかし、わたしが遅かったのは事実だ。現に日蝕を機としたラグナの侵攻が既に始まってしまっている。始まる前には帰っておきたかったのに、異界アザーワールド探索に時間を掛けすぎてしまった。これでも寄り道をせずに頑張ったつもりだけど、結果が伴わなければダメだろう。この後の働きで挽回をしなければ。

 下ではモンスターの大群がわたしの拠点を包囲するように広がっている。中までは侵入されておらず、しっかりと持ちこたえてくれているようだ。拠点の皆の頑張りもあるだろうけど、外部からの援軍も結構来てくれているみたいだ。ありがたいことである。

 空の向こうではキマイラ化したモンスターと、何故かウェルシュが戦っている。冥界アンダーワールドのモンスターも沸いているし、一緒に出てきたのだろうか。……まさかあのキマイラの元はアルタイルか?

 そしてここでは、ウルがラグナと戦っていた。この侵攻の元凶を叩く判断は正しい。わたしだってそうしただろう。でも……ウルはどうやって一人で空に? まさかゼファーが落とされた……?


「リオン。すまぬが、これを解けないだろうか」

「っと、そうだね」


 ウルの顔と足先を除いた全身が、黒い糸のようなものでグルグル巻にされていた。……ウルにも解けない拘束って、とんでもない効力では? わたしに解けるのだろうか。

 こうしてウルを抱きかかえて黒い糸に触れているだけでもゾワゾワと鳥肌が立つような瘴気を放っている。いや鳥肌で済むだけわたしも頑丈になっているのか。ともあれ、ひとまず聖水を振り掛けてみた。

 すると、黒い糸は溶けるように細くなり消えていった。あれ、思ってたよりずっとあっさりだ。……まぁいっか。

 それよりも驚くべきことが目の前に展開されていた。


「……ふぅ、助かった。ありがとう、リオン」

「どういたしまして……って、何それ!?」


 ウルが、解放されると同時に……自力で空を飛んでいたからだ。背中に、ドラゴンの翼を広げて。これなら確かにゼファーが居なくても大丈夫である、のだが。


「生えたら便利であろうなぁ、と願ってたら生えてきた」

「……なる、ほど?」


 いやなるほどじゃない。意味不明…………ってほどでもないのか?

 終末の獣の力を取り入れるとモンスター化すると言われている。ウルもわたしと同じくウロボロスドラゴンである破壊神ノクスの力を持っているし、破壊神をモデルにして作られた神造人間ドールであるし、破壊神と同じように翼を得てもおかしくはない……か? むしろなんで今まで尻尾と角だけだったんだ、って話だけど。最初から翼があればリザードと勘違いしなかっただろうに。

 ……もしや、リザードと勘違いさせる意図があったのだろうか。竜人ドラコニアンは過去にモンスター扱いされ滅ぼされてしまった種族だ。一目で竜人とわかる外見をしていたら、一般の住人からモンスターのように恐れられ、排斥された可能性もあるかもしれない。いくらわたしがモンスターと思わなくても、周りも同じく尊重してくれるとは限らないのだから。……更にそもそもでいえば、創造神がウルの外見のモデルに破壊神を選ばなければよかったという話になってくるけど……他にも理由が……?


「かくいうリオンも見た目が変わっておるのぅ」

「……まぁ色々あってね」


 わたしも人のことが言えなかった。

 異界での積もる話はまた後だ。手早く回復と、ここまでの経過を説明してもらう。


「それで、あれが破壊神であるか?」

「あぁ、うん。そうだよ」


 ウルが以前破壊神と会ったのは人型だったけれど、今はドラゴン形態だ。それでも、間違えることはないだろう。わたしが連れてくるのが破壊神だとわかりきっていることを差し引いても、ウルならばわかる。

 それほどまでに纏う気配が似ている。おそらく、ウルが獣の力を取り入れたことで、より一層。こうして二人が同じ場所に存在していることで、それが如実にわかるようになった。

 さて、そのわたしが連れてきた破壊神であるが。


「ハッ、貴様の力はその程度か! それとも、神質を取らなければ(あしかせをつけねば)何も出来ない木っ端であったか!」

「ちいっ……うるせぇよ! このけだものが! っつーか、テメェなんで表に出てきてんだよ!」

「貴様が間抜けだからだろうなぁ!」


 随分と楽しそうに、ラグナを一方的に攻め立てていた。これはずっと封印されていたことによる鬱憤晴らしもあるな……?

 その暴れっぷりは激しく、わたしたちが手助けする隙もありゃしない。混じったら邪魔どころか、一緒にぶっ飛ばされてしまいそうだ。こわい。


「ぐぬぅ、我もまだまだであったな……」


 隣のウルが悔しそうに呟く。先ほどの経過説明でもあったが、ウルはラグナ相手に苦戦を強いられていたらしい。そのラグナをこうも手玉に取る姿を見せられては、ウルとて忸怩たるものがあるか。わたしもわたしで異界の経験を経て強くなってはいるけれど、この破壊神を相手に出来るかと問われれば、絶対無理と答えるしかない。うん、これはちょっと凹む。

 わたしたちの凹みはさておき、これだけでも苦労して破壊神を連れてきた甲斐があったものだ。


 しかし……懸念点がある。

 それは、わたしたちがここへと辿り着く直前に、破壊神から聞かされた話。




「貴様に一つ言っておかねばならぬことがある」

「? なんでしょう?」


 空間の狭間に落とされないよう、内心でビクビクしながら背にしがみ付くわたしに破壊神が切り出す。


「儂では勝てぬやもしれん」

「……えっ」


 今、なんて?

 ……勝てない(・・・・)かもしれない?

 え??


「儂がただ封印されているだけだと思うたか?」

「――っ! それ……は……」


 神様たちは、封神石から解放したばかりの頃は皆弱っていた。力を抜き取られていたからだ。

 破壊神も例には漏れず。ラグナ自身は忌避していて利用していなかったとしても、封神石の守り手だったあのケルベロスが利用していたじゃないか。解放した時点で大丈夫そうだと判断してしまったけど、全然そうじゃなかったってことだ。どうしてそうなることに思い至らなかったのだろう。

 時間が経てば力を戻せるだろうけれど……すぐにとはいかない。多少わたしのご飯を食べたくらいでは足りやしない。


「……じゃあ何で、解放を願ったんです? ちょっとでも手助けしようと思ってくれたからですか?」

「届け物である」

「はい? 誰に……あ、創造神様にかな。何をですか?」

「すぐに顔に出る貴様になど言えぬわ」

「……うぐ、否定出来ないのが悲しい……」


 隠すほどに重要な届け物とは何か? 疑問が尽きないわたしに、破壊神はそれ以上何も答えてはくれなかった。

 疑問に気を取られて煙に巻かれた(・・・・・・)ことにも気付かなかった。

 ただ、最後に。不吉な忠告だけが、わたしに刺さる。


「だから何が起ころうと(・・・・・・・)貴様たち(・・・・)は呆けずにキビキビと動け」




 そうしてすぐにわたしたちはここに到着した。目の前にラグナが居て、ウルが吊るされていたのにはビックリした。運良くラグナの背中側だったので、ウルが気を引いてくれたこともあって奇襲を仕掛けることが出来た。

 ……奇襲を仕掛ける必要もないほどに差は圧倒的だと思うけれど。ラグナは破壊神の爪で裂傷を、ブレスで火傷を、体当たりで骨も逝っていることだろう。あの破壊神を相手にその程度で済んでいるからにはラグナもかなり頑丈なのだろう。わたしどころかウルよりも遥かに。一方の破壊神側は体の大きさゆえに反撃もいくらか喰らっているが、黒い炎は鱗をちょっと焦がしただけ、刃もちょっと傷付けただけで歯牙にもかけていない。……傷を付けているだけですごいと思うべきか?

 何故破壊神は『勝てないかもしれない』などと言ったのだろう……?


 その時、太陽が完全に隠される。

 世界が、昼間であるのに闇に包まれた。


「……テメェがデカい顔をしてられるのもここまでだ。ちょっとばかり驚きはしたが、テメェはエサにするには丁度いいしな」

「ほっ。……まぁそう(・・)であろうなぁ。貴様如きの力では何も為せぬものなぁ」

「黙れ! これだって俺の力だ!!」


 ラグナと破壊神の会話。あの口ぶり、破壊神は……何か知っている?

 激高しながらラグナは天に手を伸ばす。

 黒い太陽を、手にするように。


「さぁ、お膳立てしてやったんだ。とっとと出て来て働きやがれ……冥界の王(・・・・)!」


 ――ジャアアアアアアアアアアアッ!!


 身の毛もよだつ叫びが響き渡り。

 太陽を喰らうように、空が、大きく裂けた。

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[一言] >「だから何が起ころうと、貴様たちは呆けずにキビキビと動け」 A案 リ「何が起きるんです?」 破「第三次大戦だ」  某B級アクション映画並のリアクション案。 B案 破「ファッションシ…
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