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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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神子の悪行

 三百年前、アルネス村のエルフたちはリザードたちと敵対していたらしい。

 ……ウルに対して厳しいのも当時の恨みがまだ残ってるのか。長すぎない?という思いはあるけれども、長命であるエルフは時間感覚が違うだろうし、当事者でもないので口には出さずにおく。

 リザードたちは数も多く力も強く、エルフたちは苦戦を強いられてきたのだが……ある日、神子が現れたのだそうな。

 彼は(ある意味性質の悪いことに)非常に優秀で、様々なアイテムを作り出してはエルフたちに貸し与え、また自分自身でも獅子奮迅の働きをして、ついにはリザードたちを追い払う。

 村を救ってもらった恩もあり、エルフたちは彼を英雄と称え、大層な歓待をした。

 彼はそんなエルフたちに心を許し、また、ピンチを助けたことで恋が芽生えて美人のお嫁さんももらい、村に定住することを決めた。

 ……そこまでは良かったのだ。

 彼は、豹変と言っていいレベルで変わった。それが地なのか、村での生活がそうさせたのかは不明である。


「ザギの印象では地を隠していた方らしいですがね」


 まず彼は、『長の座を寄越せ』と言った。

 それは比較的穏当に済んだ。彼の能力は魅力的で、是非とも活用してもらいたいと多くの人が考えたからだ。

 実際、彼は様々な物を作りだし、遥かな時が経った現在もいくつか他の長老宅に残っているらしい。

 ただ……彼の能力は村の発展に寄与したとは言い難い。彼の欲しい物、彼の気に入った者が欲しがった物以外はおざなりだったからだ。

 これのせいで、彼に気に入られるためにトラブルが続出してしまうことになる。


 次に彼は、『もっとよめを寄越せ』と言った。

 エルフは美形揃いである。その美しさに目が眩み、欲望が噴出したのだろう。『英雄ならもらってもいいだろう?』と。

 彼に気に入られたら最後、まだ幼い子どもから人妻まで、多くの女性が餌食よめになった。

 ここで救えないのが、彼の能力が突出していたので、おこぼれに預かるために自分の娘や嫁を進んで差し出した人も居るという点だ。

 あと……当時のザギの婚約者も奪われてしまったそうで。そりゃ神子わたしに敬意を払いたくもなくなるよね……。

 そして神子の子がザギ、ウィーガさんを除く長老三人とのこと。なお、彼らは神子の力は継承していない。遺伝するのだとしたら、神子でなくても作成メイキングスキルが使える人が結構存在するだろうしね。

 余談だけど、多くの嫁が居た割には子どもが少ないのは、エルフが元々子が授かりにくいと言うのと、異種族だからだそうだ。


 彼とその一族は放蕩の限りを尽くしたが、幸いにもそれは長くは続かなかった。

 神子の力を持っていてもそこは人間、それから五十年もしないうちに死んでしまったからだ。

 長老こどもたちは力が使えないし、ひどく悲しみ、落胆したけれども、その後の発想はさすが神子おやの血を受け継いでいると言うべきか。

 『次に神子が来た時も嫁を与えて、力を使ってもらおう』なんて、わたしからすれば『バカなの? アホなの?』って叫びたくなるような思考に至ったらしい。

 神子さえ居ればいくらでも物が作れるのだから、すっかり欲に目が眩んでしまった彼らからすれば垂涎の的なのだろうけれども……それでもわたしがバカだと思ってしまうのは、わたし自身にモノ作りの技能が備わっているからなのか?

 この時、多くの嫁候補が用意されそうになったがザギが必死に止めた。何時の日か、自分と同じような目に遭う人を増やしたくなかったからだろう。

 結果として『神子様のために特別な一人を磨き上げた方が喜んでいただけるだろう』となったので、一応譲歩させたことになるか。

 それでいて、あえて自分の曾孫を選んだ理由は……わたしには想像もつかない。……ちょっとザギ……さんに対する心証を改めよう。

 まぁ止めたら止めたで、長老トリオが親を見習って(?)多くの嫁を取ったと言うのだからもうね……賛同したのは自分たちの嫁を確保したかったってのもあるのだろうね。頭の痛くなる話だ。


 アルネス村が歪なのは、過去の神子の行動と、その思想にすっかり染まってしまったのが原因だった。

 もちろんわたしには全く関係がなく、彼ら自身の自業自得な部分もあると思うのだが……同じ神子と言うだけで何だか申し訳ない気持ちになる。

 出だしからして、あくまでプレイヤー目線だけど、その神子がヘイト管理を誤ってリザードを敵に回し、その上でエルフの村に仕向けたマッチポンプじゃなかろうな、とか疑って見てしまうよ……。

 しかし……わたしが今こんな目に遭っているのは全部そいつのせいか……そうかそうか……性欲そのものは否定しないけど、わたしも同等に持ってると思うのやめてくれませんかねぇ……フフフ。


「そちらの事情はわかりました。これ以上わたしからこの問題について貴方達に言うことは……いえ、これだけは言わせてください」

「……何でございましょうか」

「わたしは、『犠牲者』を欲してなんていません」

「……神子様には大変ご迷惑をお掛けしております」


 ウィーガさんはわたしの宣言にしばし目を伏せてから、深く頭を下げた。

 まぁ、この人が悪いと言うわけじゃないんだけども……。


「ところで、フリッカが最終的に選ばれた理由は? 長老トリオから物言いが付きませんでした?」

「祖父である私が言うのも何ですが、幼少時より大変可愛らしかったものでして」

「……なるほど」


 そのまま順調(?)に綺麗になって今に至るんだろうなぁ、とわたしが同意の頷きを見せたら、恥ずかしかったのかフリッカがスッと目を逸らした。

 嫁候補として選出されてるくらいだし、普段から賛辞は受けてると思うけど慣れない人は慣れないよね。わたしも神子として褒められるたびに恥ずかしいからちょっとわかる。



 さて、大変話が長くなってしまったが、彼らが元々したかった話はここからである。

 お茶のお代わりをもらって、小休止してから会話は続けられる。


「フリッカより神子様の話を聞かせていただきました」

「……あー、はい」


 まぁ、そうよね……報告されることもありますよね……な、何をどう言われたんだろう……。

 そわそわと落ち着かないでいるとクスリと笑われてしまった。


「大丈夫です。神子様は良い人だった、と言う話ですよ。病人を治していただいた件でもそう思ってはいましたが」

「えーっと……ありがとうございます?」


 そんな間抜けな返事をしたら、「お礼を言うのはこちらですよ」と更に笑われてしまった。うぬぅ。

 先ほどまでの重い話でどんよりしていた空気が少し軽くなったけれど、ウィーガさんが改めて身を正したことでまた別の緊張感が漂う。


「既に助けていただいた身でありながら恐縮なのですが……神子様に、折り入ってお願い申し上げたいことがあります」


 厳めしい顔で一体どんな重いことを言われるのだろう、と身構えてみれば。


「私共に、薬の作り方を伝授していただけないでしょうか?」

「……薬、ですか? 瘴気用の?」


 少しばかり意外だった話に首を傾げる。

 薬は足りてないけど存在はするみたいだし、作れないって話ではないよね?

 まぁ、瘴気対策は出来てないっぽいので、それ絡みの話かな、と思えば。


「それもありますが……薬全般の話です」

「全般? 今よりちょっと強い薬ですか? それとも、生産スピードが足りてないから効率化したいと言うことですか?」


 何気なく聞いたのであるが……これもまた事態は思ったより酷かったみたいで。

 ウィーガさんは眉間を押さえ、重苦しい溜息と共に吐き出す。


「生産スピードが足りないのではありません。……供給が制限されているのです」

「……なん、ですと?」


 話によると、長老トリオの派閥が薬の製法を握り、流通をコントロールしているのだそうだ。先日の懸念が当たってしまった。

 そのコントロールが適正であれば何の文句もないのだが……自派閥を優先して、それ以外はかなり数を絞っているとのことで。外部のわたしには与り知らぬ所ではあったが、先日治療した人の大半は派閥外の人だったようだ。だから喜んでなかったんですかねぇ……ザマァと言ってやりたい。

 瘴気に関しては自派閥でも後手に回ってるみたいだけど……それでも発症に偏りがあるのがキナ臭い話だな。決め付けは危険だけど、仕組まれた可能性も考えるべきか……?


 しかし、自派閥の勢力を増やしたいにしても、薬――つまりは命を盾にして迫るなど言語道断だ……!

 勢力争いに首を突っ込みたくはなかったけど、これはさすがに、許せそうにない。

 ぎゅっと怒りで拳を握ると、ウルが賛同してくれるかのように手を添えてくれた。

 ……うん、やろう。


「ですので、秘術を教えるのは面白くないかもしれませんが、どうかそこを――」

「いいですよ」

「――呑んでいただき…………? 今、何と?」


 おっと、気が急いて話に割り込んでしまったようだ。ウィーガさんが何を言われたのかと目を瞬いている。

 改めてもう一回言おう。


「別に秘術でも何でもないですし、教えますよ」

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