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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■
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三度目の相対

 事情を聞かされるだけでなく、明らかに追加された鬨の声により、ひとまずウェルシュの手は要らなさそうだと光神アイティは理解した。


「……なるほど、わかった」

『では俺は行く。貴様もヘマをするなよ』

「はっ。冥界の時の私と一緒にしてくれるな」


 アイティと不敵に笑い合い、ウェルシュは翼を羽ばたかせる。

 アルタイルのところへと飛んで行く……その前に、首を巡らせて吼える。


『無様を見せるなよ! アルバ!』


 騒がしさを増した戦場でこの声が届いたかはわからない。

 けれども、「ギュッ!」と応答が聞こえた気がした。



「ぬぅ。硬さは減ったようであるが、即座に再生するのが面倒であるな」

「キュー……」


 ウル&ゼファー対アルタイル――キマイラの戦いは泥沼となっていた。

 何せ攻撃した端から再生するのだ。再生する前に倒し切ろうにも、ウルの投擲は強力であっても範囲が局所的である。破壊の力を籠めて投げても、その近辺の結合が壊れるだけで全体には及ばないし、壊れた部分を切り離して再生をするのでキリがない。そして、ゼファーの魔法ではウルほどの威力はない。ウルが力を溜めて効果範囲を広げようと試みるも、手足パーツが増えただけあって攻撃の数も段違いに増えており、回避せざるをえなくて落ち着かない。避けないとウルはともかくゼファーがもたないのだ。強力な雷撃が減っていることだけは幸いか。

 いっそウルがキマイラに取りついて直接攻撃をと思いもしたが、近付こうとすると逃げるし、上手く取りついたところでゼファーとは違い騎乗者に配慮してくれるはずもなく、すぐに振り落とされてしまう。むしろ一度落とされてゼファーに拾われた身だ。ウルであれば落下死することはないが、時間を浪費することは避けたい。

 取れる手段は、さすがに無限再生はしないはずなので時間を掛けて削っていくか、核となっているだろうアルタイルの魔石を偶然破壊することを願うか、何とかして力を溜める隙を捻出するか、といったところか。

 ……手段を選ばなければ倒す手段はあるのだが、とウルは内心で唸る。

 手札の切りどころに悩むウルに、背後から気配が伝わってくる。


「む。ゼファー、右に大きく飛べ」

「キュ」


 素直にゼファーが従い、右へと大きく逸れたその時。


 バヂイィ!!


 一条の赤雷が通り抜け、キマイラへと炸裂した。

 これにはキマイラの体が大きく削れたが……それでも再生をしてしまう。

 あまりのしぶとさにウルは舌打ちを零し、唐突な雷撃の援護にゼファーは大層驚いていた。


『俺がアイツをやる。代われ』

ぬしは確か……ウェルシュだったか」


 背後から現れた赤いアルタイル――ではなくウェルシュに、ウルは何事もなく返していたが、ゼファーは更に驚きを浮かべていた。単にウルはウェルシュと面識がある、ゼファーにはない、の違いである。面識と言っても、リオン救出のために冥界に乗り込んだあの数時間だけであるが、リオンから冥界での話は色々と聞いていた。

 一方、ウル(とゼファー)の話もウェルシュに多少伝わっている。己のライバルであるアルタイルを投石で追い返した強者、ということが。そしてその強さは、たった数時間の邂逅でしっかりと感じ取っていた。リオンの手により弱っていたこととフリッカの手助けがあったとはいえ、あの死神グリムリーパーを瞬殺した力は目を瞠るものがあった。

 そして再び相まみえた今、更に力が増しているのがありありとわかる。ウェルシュもあれから力を付けてきたつもりだったが、それを遥かに上回る力。そして漏れ出る破壊神の力。これは敵わないな、と戦わずして白旗を上げるほどに。力試しで戦ってみたい気持ちは残っているが。

 そのような強者が何故このキマイラ程度に手こずっているのか疑問が残るが、これにも意味があるのだろう、とウェルシュは判断した。


『……遺憾ながら、俺では後ろでふんぞり返っているあの男には敵わない。だがアイツになら勝てる。貴様は急いでいるのだろう?』

「……まぁよいじゃろ。頼んだぞ」


 確かにウルはアルタイルを憎んでいたが、アルタイルが無残にも変化させられてしまった時点でその気持ちも薄れていた。ゼロではないけれども、優先順位を付けられるくらいの理性はある。

 そしてウェルシュにはリオンが世話になり、リオンもウェルシュには信頼を寄せていた。この二頭の因縁も聞いていたことだし、代わりに終わらせてくれるだろう、とウルも信用して譲ることにした。


 キシャアアアアッ!


『貴様の相手はこの俺だ!』


 ウェルシュに任せてキマイラを無視して進むようゼファーに指示する。キマイラはラグナの命令だけは覚えているのか、ウルたちを遮ろうとした。そこにウェルシュが体当たりをして弾き飛ばしてくれたのですり抜けに成功した。

 背後で激しく戦う音が始まったが、ウルは振り向かずに進む。


 そうしてやっと、ラグナと相対するのだった。



「はぁー、やだやだ。まさか真っ先に来るのがけだもののお前だなんてなぁ。しかも下は何だか活気づいてるし? いやまぁまだ全然問題ないんだけどさぁ」

「……」


 ラグナはここまでウルたちに近付かれても一切慌てることなく、むしろ余裕綽綽といった様子で大げさに嘆き、顔を覆う。

 何度目かのけだもの呼び。リオンはその呼称に怒りを抱いていたが、ウルには何のダメージにもならない。そもそもがリオン以外に嫌われたところでどうとも思わない性格なのだ。いや、さすがにフリッカを始めとした拠点に住む皆に嫌われれば凹む程度にはなっているか。

 その精神の在り方は……破壊神ノクスにそっくりで。見た目と力はともかく、なかみは関係ないはずなのに、加護に影響されでもしたのか、元々の性質なのか。神造人間ドールとして生まれ変わる前の記憶がほとんどないウルにはわからないし、わかったところで何も変わりはしない。

 自分が何者なのかどうでもいい、ただ大切な者のためだけに動く。その辺りもノクスと同じだ。

 ノクスと見た目がほぼ同じであることもだが、何よりその匂いを過敏に嗅ぎ取っているから。それがウルをノクスのコピー品だと見做す理由だ。ノクスがこの世で一番憎いラグナにとっては、ウルも憎しみを向ける対象だ。


 ――容赦なく殺したくなる理由だ。


 顔を覆っていた手をどけたラグナの目には……暗い炎が揺らめいていた。

 冷たい、凍えるような視線でウルを睨みつける。

 威圧感でゼファーがビクリと震えるが、ウルにはそよ風だった。冷静な瞳でラグナを見据える。その目も、ラグナにとっては気に入らない目だった。

 憎き怨敵(ノクス)と同じ、金色の瞳。

 ノクスはラグナの手で封印されながらも飄々とした態度を崩さず、時にはラグナを小馬鹿にするような態度さえ取ってきた。世界を滅ぼすことが目的ではないラグナには、世界の半分を担うノクスの命を奪うことは出来ず封印するしかなかった。言うなれば情けをかけて生かしてやっているというのに、不遜な態度を取り続けるノクスには腹が立って仕方がなかった。

 とはいえウルはノクスに比べれば弱い。鱗が増え(これもよりノクスに見た目が近付いて憎さが増す理由だ)、前回遭遇した時よりは強くなっているようだが、まだラグナには届かない。

 ……でありながら、苛立ちで冷静さを失いつつあった。本人は至極冷静なつもりであるが、気付かぬ間にピリピリとした気を発し、ウルを刺していく。

 ウルもそれを察し、ニヤリと口の端を持ち上げる。


「ハハ、どうした。お得意のスカした笑いがなくなっておるぞ? 緊張でもしておるのかの?」


 挑発。

 ウルとてラグナの方が強いことは肌で感じ取っている。だからこそ相手の冷静さを奪い、適切な対処をさせないように煽る。少しでも勝率を上げるために。

 もしくは、少しでも時間稼ぎをするために。リオンが、ノクスがこの場に登場すればラグナを倒せる。

 リオンは絶対に来てくれる。そう固く信じて。


「あ゛ぁ゛? 俺がけだもの風情に緊張をする、だと?」


 ブワリと、ラグナから敵意が、殺意が噴き上がり、撒き散らされた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >もしくは、少しでも時間稼ぎをするために。リオンが、ノクスがこの場に登場すればラグナを倒せる。 >リオンは絶対に来てくれる。そう固く信じて。 リオン「言い訳じゃないんだけどね? なんかね…
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